セパレートハンドルとフルカウルを持つ250ccロードスポーツの中、ライバルとは一線を画す個性を備えたモデルが、スズキの『GSX250R』だ。果たして、それはどんな乗り味だったのか?
◆スズキの4ストローク250ccフルカウルの系譜

「GSX250R」は、『GSX-R250』でも『GSX-R250R』でも、まして『GSX-R250R SP』でもなく、これらとは特に縁もゆかりもない。そういう名のモデルがレーサーレプリカの末席を陣取り、高回転型の4気筒をギャンギャン回していたのは80年代のこと。90年代に入って以降は『アクロス』などを除き、スズキの4ストローク250ccフルカウル車は一気に減退。空白と言ってもいい期間が短くなかった。
もっとも、スズキに限らず、どのメーカーもこのカテゴリーから引き気味だったものの、カワサキから登場した『ニンジャ250R』(2008年)を機に徐々に復権。スズキは、2012年にネイキッドの『GSR250』、2013年にハーフカウルの『GSR250S』を送り出したのち、2014年にフルカウルの『GSR250F』を発表するという慎重さで、再度参入を果たした。
で、ここまでの話が今回の「GSX250R」になんの関係があるのかというと、まず前提として、「GSX250R」のベースが一連のGSR兄弟ですよ、ということ。そして、その外装や排気系、ライディングポジションを大幅に見直し、GSXの名を与えるにふさわしいスポーツ成分を注入したモデルに変化を遂げたということ。つまり、わりときちんと手順や歴史を踏まえて誕生している。
◆GSX-Rの直系でもなく、GSRの後継でもない、という個性

外観はご覧の通り、特にヘッドライトとエアダクトの造形は、2000年代の『GSX-R1000』を彷彿とさせるもので、スズキ流のスーパースポーツらしさに則っている。
とはいえ、エンジンは2気筒だし、しかもロングストロークのまったり系だし、GSX-Rの直系イメージではないよね。さりとて、GSRの後継でもないから、「GSX250R」ということにしておけば、どちらにも振れるんじゃね? おそらくそんな流れで車名と立ち位置が決まったのではなかろうか。

ここで、「GSR250F」って、はてなんだっけ? と思い出せない方は一度検索してみてほしい。大きいことがそのまま格につながっていた、あの大陸的スタイルが、これほどまでに引き締まるのだからビフォーアフターもかくやである。
ただし、本質はさほど変わらない。そのスタイリングは、スーパースポーツ然としたシャープさなのにライディングに小難しはなく、GSR兄弟がそうだったように、いつでもどこでも、おおらかなエンジンとハンドリングに身を委ねることができる。キャリアでいえば、ビギナーとリターンライダーのいずれをもカバーし、がんがん攻め立てたいとは思わないけれど、スポーツバイクを所有し、操っている気分は味わいたい。そんなニーズに応えてくれるモデルだ。
◆またがった瞬間にわかる見た目とのギャップ

見た目とのギャップはまたがった瞬間から明らかで、ライディングポジションは安楽だ。上半身にタイトさはなく、膝の曲がりも比較的緩やか。そこからエンジンを始動させると存外に太い排気音が響き、重厚感を漂わせる。
ライディングポジションと排気音。ここですでに、250ccに乗っているという印象は薄まり、終始それが崩れない。もちろんこれはいい意味であり、ほとんどの場面において、ゆとりや余裕を感じられるところがいい。
エンジン特性もそれに見合い、低回転域でしっかり粘り、クラッチレバーの操作が少々雑でも力強く車体を押し進めてくれる。250ccの2気筒エンジンを搭載する他社モデルより、最大トルクの発生回転数は3000~4000rpmほども低く、扱いやすいことこの上ない。最高出力も同様で、意識して回さないで済むため、街中はもちろん、低速区間が続くような手狭なワインディングを、右手の開け閉めひとつでスイスイと走らせることができる。

◆そのハンドリングは「小さなハヤブサ」
ところがいざコーナリングになると豹変……したりもしない。やや重めの車重(181kg)と長めのホイールベース(1430mm)がプラスに働き、ハンドリングを擬音化するならクルクルやパタパタではなく、グラリやユラリ。ゆったりとバンク角を深め、路面の凹凸をいなすように旋回していく。
この点に関しても、「GSX250R」の振る舞いは250ccらしからぬもので、車体に入力した後のレスポンスは、スポーツツアラーのようなテンポで粛々と突き進む。スズキのラインナップになぞらえるなら、そのハンドリングは「小さなハヤブサ」と表現しても、さほど誇張ではない。
「回してナンボ、軽快感こそが正義」なこのカテゴリーにあって、スタビリティ重視の「GSX250R」は独自のポジションで存在感を発揮している。かつての圧倒的なリーズナブルさこそ、やや影を潜めたとはいえ、今なお、イニシャルコストもランニングコストもライバルを一歩リード。落ち着いた乗り味を求めるライダーに、おすすめしたい。

■5つ星評価
パワーソース ★★★
ハンドリング ★★★
扱いやすさ ★★★★
快適性 ★★★★
オススメ度 ★★★★
伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。