去る9月14日に熊本県・HSR九州で開催された「鉄馬レース」において、ホンダ『CB1000F Concept』で第一ヒート、第二ヒートで、Wデビューウィン!
【画像】発売前のコンセプト車でW優勝を飾った『CB1000F』と丸山浩氏
まずは今回のレースに携わったCB勇士のみんなが歓喜の姿で出迎えてくれた。走り終えた後のピットや表彰台で多くの人たちが笑顔で出迎えてくれた。一番嬉しかったのは、本田技研をはじめホンダモーターサイクルジャパン、ホンダドリーム、ホンダグループのあちこちから勇士として協力してくれた人たちすべて、この時一丸となり我がことのように喜んでくれたことだ。
1993年テイスト・オブ・フリーランスにCB1000SF初参戦で初優勝を飾ったときの事が走馬灯のように浮かんできた。あのときは、私とWITH MEスタッフ2名だけで挑んだレースだったが、今回は数多くのCB勇士が集まり、多くの人に支えられての優勝はまた格別だった。

その後エキスパートで参戦したCB1000Fモリワキ号宇川選手もW優勝を決めてくれたが、あえてスタンダードにほぼ近いCB1000F Conceptの姿で、ここまで戦えることを証明できたことが最大の収穫であった。
「TeamCB & WITH ME」としてアイアン・スポーツクラスで優勝した丸山浩が自ら改めて、今回の参戦プロジェクト仕掛け人であるホンダのジェネラルマネージャー坂本順一氏に、レースに挑んだ背景やそこに込めていた熱い思いを聞いてみた。
◆「新しいCBには絶対にサーキットで走る姿が必要だった」

丸山:CB鉄馬レース参戦プロジェクトありがとうございました。そしておつかれさまでした。CB1000F Conceptでのレースデビューウィン!感動できる結果、そして新しいCBの姿を多くのユーザーに届けることができました。そこで今回はまだ市販版の正式発表もされていない段階のマシンで、そもそも何故レースに出ようとなったのか、そのあたりの裏話から聞いてみたいと思います。
坂本:次の時代のCBとしてCB1000F Concepを作るにあたり、“懐の深さ”をどう表現するかをまず考えました。そこで昔から聞く“街中からサーキットまで”のサーキットをどう表現するかとなったとき、過去のNKレースでの活躍からモリワキさんのイメージが必要だと思い、去年の8月あたりに声をかけさせていただきました。モリワキさんに、まずはHSR九州で開催している鉄馬レースを見に来てくださいとのことで、去年9月の大会を見に行ったんです。話には聞いていたものの目の前で見るのは初めてのことで、走っているマシンたちの熱量に驚かされました。
同時にホンダが少ないよねというのも率直な感想で、ここはなんとかしなきゃなというのはまた別の課題になるんですが、とにかく新しいCBには絶対にサーキットで走る姿が必要だと認識しました。そうしてモリワキさんと東京モーターサイクルショーに向けたカスタム車両作りが具体的に始まっていったんです。
丸山:ただ、その時はまだカスタム車両は作ってもらっても実際に鉄馬レースに出られるレベルのマシンを作ろうとまでは考えていなかったとか。

坂本:ええ。ところが2月時点でモリワキさんから上がってきた進捗を見たところ、もう明らかに鉄馬参戦を意識した車両だったので、そこでもう完全に僕的にもスイッチが入ってしまいました。これにCBアンバサダーの丸山さんを乗せて鉄馬で走ることができたらどれだけすごいことだろうかと、僕の頭の中で具体的に思い描くことができたんです。実を言うと、もうその時点で鉄馬に参戦したいとは社内の評価会議上で宣言してはいたんです。それがモリワキさんのマシンを見て、これならと、より具体的になっていった感じです。それで今年の5月にもう一度鉄馬レースを見るため、丸山さんと一緒に行きましたね。
丸山:はい、そうでしたね。私自身「モリワキ号に乗れる!?」というストーリーを楽しみにしていました。
坂本:その時はまだ正直なところ、僕としてはレースに勝つことにはこだわっていなかったんです。出ることに意味があると言うか、新しいCBでサーキットを楽しく走ってる姿をCBアンバサダーの丸山さんが、お披露目してくれれば、もうそれで十分じゃないかと思っていました。時間軸的にも勝てるマシンを作るには制約がありましたしね。
◆「優勝が大命題ではなかったんです」

丸山:今になって初めて聞くんですけど本音では実際どの辺を狙ってたんだろうって気になっていたんですよ。僕としてもかなりプレッシャーを受けていたんで。そのプレッシャーも含めて、21年ぶりのCBレースやってるぞという気分を楽しんではいましたけどね(笑)。
坂本:ホントにね、優勝が大命題ではなかったんです。当然出るからには勝ちたいっていう思いもあったんですが、力づくで勝ちに行こうみたいな気持ちはまったく無く、まずは車名にまだ「コンセプト」は付いているけれども、この新しいCBがサーキットで走る姿を皆さんに見てもらいたいというのが一番にあって、我々自身もそれを見たかった。だから「優勝」の二文字は社内のどの資料でも語ってなかったんですよ。
丸山:そういう参戦計画に向けての社内資料があったんですね。ただ、最初は純粋にサーキットを走る姿を楽しんでもらいたいと思っていたところ、その後に話がちょっと変わってきちゃったんですよね。
坂本:はい。元々、丸山さんが今回乗ったアイアン・スポーツクラス用の車両を作る予定はまったく無かったですもんね。ホンダとしては、あくまでモリワキさんの作った車両に丸山さんが乗り、新しいCBがサーキットで走る姿を皆に楽しんでもらうというのが最も達成したいことだったので、それを目標に計画を進めていました。

しかし具体的に誰(丸山浩)を乗せるとまでは言わずに、まずはサーキットを走る姿をお披露目したいという提案で車輌をモリワキさんにお渡しした段階で、レース屋であるモリワキさんとしては「出るからには絶対に勝ちたい」と独自に宇川徹さん(MotoGPクラス初の日本人ウイナーとなったライダー)に相談を進めていたのが解ったのが5月の鉄馬でしたね。そこまで真剣に考えていてくれたのなら、もうそこはモリワキさんの意見を尊重するしかないなと。それはそれでありがたいことで、ただ、それとは別に、我々としてはやっぱり丸山+CBが走ってる姿も見たいと、急遽スポーツクラス用マシンの製作を決めたんです。
丸山:そう言っていただき、あらためて嬉しいかぎりです。
坂本:でもまあ、あの時点でもう1台を出走させようとなるとそれなりに大変で、本当は違う用途に使う予定だった車両を急遽回してもらうことで、なんとか実現したんですよ。
◆“CBの懐の深さ”を表現する最高の舞台へ

丸山:さて、話を大きく戻しますけど、僕としては昔から「CB=スポーツ、スーパースポーツ」って勝手に言ってるんですよね。しかし『CB1300SF』以降、CBがどんどん大きく重く豪華になっていったら、あんまりサーキットというイメージがなくなってしまった。2004年にホンダの有志の方が集まり、CB1300SFで鈴鹿8耐に出たあたりが最後ですよね。
ホンダさんの中でCBはサーキットを走るマシンじゃないという風になっていたのか、それともサーキットを走らせたくてもなかなかそういう企画が実現しなかっただけなのか。本来ならば今回のCB1000F Conceptのプロモーションもストリートからワインディングくらいが普通ですよね。それが、なんでいきなりサーキットまでやろうとしたのか、僕の中でもちょっと驚きだったんです。
坂本:僕は丸山さんが過去に「CB1000SF ビッグ1」でレースをしている姿を見てましたし、僕自身も桜井ホンダさんからNK4レースに出ていました。今回の企画には僕の趣味が多分に含まれていると言うとあれですが、やっぱり街中で見かけるバイクがサーキットを走る姿って人の心を動かすと常々思っているんです。
1300では僕が開発者というより事業責任者というかたちで携わるようになったとき、既にコンセプト自体が威風堂々で感動性能の方に重きを置いていたため、たしかにもうサーキットを走らせようぜってことにはなっていませんでした。しかし、車重215kgを絶対に切るぞという目標を掲げて作った今回のCB1000F Conceptなら話が違ってきます。諸先輩方から受け継いだ“CBの懐の深さ”を表現するためにもサーキットはユーザーの心を動かすのに最高の舞台だと考えました。バイクにとって懐の深さを一番出せるシチュエーションって、教習所かサーキットのどちらかだと思うんですよ。

丸山:おお、教習所かサーキットとは、これまた極端ですね。
坂本:はい、極端です。教習所とサーキットのどちらかで活躍できれば、懐が深いということを言葉もいらず伝えられますから。そう考えると教習所はもう『NC750L』に任せているので、だったらCB1000F Conceptにはサーキットを任せたいよね、という風に半ば強引に持っていきました。そもそも『CBR1000RR』譲りのエンジンを積んでますしね。完成車重量で215kgを切ってくれればサーキットで十分走り回れるんじゃないかと考えていました。そういった背景もあって丸山さんをCBアンバサダーに指名してモリワキ号を走らせようとしていたんです。
でも、結果的に丸山号としてもう1台作ったのは、すごく良かったと思っています。丸山号は本当に純正部品の組み合わせで、お客様から見ると見た目にはほぼノーマルに近い姿でしたから。スペシャルモデルであるモリワキ号だけでは、どうしても我々の求めた懐の深さの部分が伝えきれなかったと思うんです。ただモリワキ号の方もモリワキ号でスペシャルモデルらしい良い成績を収められましたし、本当に最高の結果となりました。
◆若き開発者の心にも火をつけた挑戦

丸山:HSRでの初CBテストは、8耐デモランで乗った車輌そのままで、足回りは街乗り用として柔らかく、エンジンも低中速を重視した車輌だったので、正直このままでサーキットを走るのは大変だなと。そこで足回りのセッティングと、高回転での出力が必要だと思い、都度反映していただきましたが、この辺はこれからCBでレースを考えている皆様にお伝えが出来るのでしょうか。
坂本:まだ詳しくは言えませんが、馬力的には『CB1000ホーネット』の動弁系、吸排気系、ECUセッティングを流用し高回転、高出力化を反映させました。我々にしてみると既に市販されているホーネットのエンジンに乗せ替えちゃった方が早かったんですが、おそらく一般のお客様だとエンジン乗せ替えまではやらないと想定して、あくまでCB1000F Conceptのエンジンをベースにユーザーが出来ることと同じような範囲でチューニングしたという感じです。
丸山:今回の鉄馬プロジェクトでは若い人たちの反響も予想以上に大きかったのも印象的でした。それに鉄馬プロジェクトに参加してくれたCB1000F Conceptの開発者自体、若い方が多いですよね。若い世代だと興味の対象がサーキットから離れたところにある印象なんですが、彼らも最初からレースには積極的だったんですか?

坂本:やはり最初の頃、半分くらいはレースと言われても頭を切り替えられなかったんじゃないですかね。しかし、レース経験のある開発者がガンガン率先してやってる姿を見て、若手の後輩たちもどんどん学んでいけたと思うんです。実際に予選前の練習走行時に転倒しちゃったじゃないですか。あの時にメンバーが一斉に集まってきたことで、もう完全にチームが一つになっているなと感じましたね。今まで量産車開発しか経験が無かったメンバーには本当にいい勉強になったと思いますよ。
転倒直後のやりとりは本当に凄かったんです。マシンの状態を写した写真がプロジェクト内の連絡網にアップロードされるや否や、あっという間に「こことこの部品を集めて!」「こことここも壊れてる可能性があるからちょっと準備しといて」みたいな熱いチャットが繰り広げられまして。移動中だったので新幹線の中でそのやり取りを見守るしかできない僕としては、心から挑戦してみて良かったと感じました。

◆「CB1000F Conceptでのサーキット走行ってめちゃめちゃ楽しいんですよ」
丸山:舞台裏ではそんな話があったんですね。私が金曜日、始めて地元の鉄馬メンバーと走るようになった日に転倒してしまったのは、決勝で高速コーナーでの競いあいを想定し、いろんなラインを試していたら後続から速いマシンがきて接触してしまいました。前回のリザルトから1分8秒台の戦いになることは予想できたのに、事前テストでは1分8秒を切れず、せめて1分8秒台に入った状態でレースウィークに臨めれば良かったんですけど。これは正直きつい戦いだなと思っていた時の転倒でした。
なんとなく自分でも決勝になればっていう思いでテストをしていましたが、この時の転倒でリズムが狂ってしまうなと。しかし、この公式テストで鉄馬メンバーの誰かの後ろにくっついて走る機会が増えるようになってから光が見えてきたのも事実です。相手より少しだけラインを変え、ちょっとでも見つければ意外と楽にタイムが出始めましたし。レース前のトークショーで語った大体最後2周ぐらいで前に出てっていうのも、それまでみんなの後ろをくっついていけば最速ラインが見つかるだろうと、そんな思いだったんです。
そして大事なのは、目標タイムにはなかなか届かなかったものの、CB1000F Conceptでサーキットを走ること自体はとても楽しかったということ。車体の大きさと重量のバランス、それにエンジンの性格がもうとにかくコーナーを攻めていて楽しいの一言につきるっていうか。私の思うCBのスタイルで攻めて楽しいマシンって、最近ではそうそう無かったですから最高でした。

坂本:やっぱり、これまでのCBでは重量がどんどん重くなっていったためサーキットは厳しかったですもんね。だから丸山さんがレースウィーク途中にSNSで“CBが身体の一部になりつつある…”とつぶやいたことがあったじゃないですか。あれを見たとき、僕自身もサーキット走っていた時代にマシンが自分の手足のようになってくる瞬間を体験したことを思い出し、CB1000F Conceptでもそれと同じようなものが出来たのかなと感じました。
丸山:ホントにCB1000F Conceptでのサーキット走行ってめちゃめちゃ楽しいんですよ。おかげで予選から後はウナギ上りに調子が上がっていったんですが、さすがに最後の決勝レースではスタート時に5番手まで落っこちちゃって、トップが一気に離れてしまいました。7周のレースという短いスパンなので、これはもう追いつかないかなと…。
坂本:本当ですよね。僕もそのまま逃げられてしまうと思っていました。

丸山:2番手3番手までは抜けると思うけど、彼らと争っているうちにトップのゼッケン#565がBESTラップで逃げていたら、私のタイムでは追いつかなくなると…。ただ、ひとりまたひとりとパスをしていくうちに奇跡的にラスト2周で射程距離に捉えることができ、ここからは、テスト中に想定していたブレーキングで抜くためのFフォークセッティングがしっかりと効果を出し、まさかの逆転優勝につなぐことができました。
坂本:いや、本当に凄かったです。想定していた以上に大きな結果となりました。多くのバイクファンが今回の参戦に注目していて、すぐに反響があったことは嬉しいですね。それに実は今日も日本の社内はもちろん世界中の拠点責任者をつないだ報告会の中でもホンダモーターサイクルジャパンが今月のトピックとして鉄馬の模様を紹介したところ大絶賛でしたよ。
僕としてもCB1000F Conceptがサーキットを走るという当初の思いに加え、レースを通して若手を含めた自分たちの糧となれたことが大きな収穫になりました。本当にありがとうございました。

◆戦うCB、新たなるCB伝説が再び始まる
今後の展開はまだ何も決まっていないけれど、車名から“Concept”が外れた『CB1000F』として正式に市販された暁には、この鉄馬レースをはじめとする来年の草レース界に大きな旋風が巻き起こること間違いないだろう。私やWITH MEとしては、CB1000Fで参戦を目論む人達に今回の戦いで得たデータをフィードバックして全力で応援していきたい。
「戦うCB」がサーキットに帰ってきた。今回のレースはその偉大なる幕開けとなった。

丸山浩|プロレーサー、テストライダー・ドライバー
1988年から2輪専門誌のテスターとして活動する傍ら、国際A級ライダーとして全日本ロード、鈴鹿8耐などに参戦。97年より4輪レースシーンにもチャレンジ。スーパー耐久シリーズで優勝を収めるなど、現在でも2輪4輪レースに参戦し続けている。また同時にサーキット走行会やレースイベントをプロデュース。地上波で放送された「MOTOR STATION TV」の放送製作を皮切りに、ビデオ、DVD、BS放送、そして現在はYouTubeでコンテンツを制作、放映している。また自ら興したレースメンテナンス会社、株式会社WITH MEの現会長として、自社製品、販売車両のテストライド、ドライブを日々行っている。身長は168cm。