20歳の学生とZ世代の教官が45年前のサニー復活を目指して奮闘中…埼玉自動車大学校クラシックカークラブ

埼玉自動車大学校クラシックカークラブ
埼玉自動車大学校クラシックカークラブ全 39 枚

45年前の日産『サニー』が、20歳そこそこの若者たちによってコツコツと修復されている。週に1度、自動車整備学校のテストコースで慣れないマニュアルシフトを操作しながら試走を繰り返し、「楽しい!」と口をそろえた。

【画像全39枚】

2025年の春、当サイトで埼玉県伊奈町にある埼玉自動車大学校(新井和徳校長)のクラシックカークラブを紹介した。トヨタ『セリカ』やいすゞ『117クーペ』などをレストアしつつ、クルマの基本構造を一喜一憂しながら学んでいくという内容だった。

今回はその後をレポート。2010年にこのクラブを創部した町田孝宏部長が、懇意とする全日本ダットサン会の佐々木徳治郎会長から日産『サニー』を教材用にと譲渡され、新たにレストアチームが組まれて日々格闘することになったのである。

このサニーは1980年式の4代目B310型。サニーとしては最後の後輪駆動車だ。OHVながら名機と言われたA型エンジンに5速マニュアルミッションを搭載している。長らく眠っていたため不動ではあるが、車庫保管のためそれほど悪くない状態だった。教材としてもってこいのクルマだろう。

この個体を担当しているのは20~21歳の、いずれも1級自動車整備科3年生の3人だ。

走行試運転で日産『GT-R』に乗れると聞いて入学を決めたというのは木村修也さん。もとともはまったく旧車に興味はなかったが、今では『スカイライン』R30の鉄仮面などにハマる旧車好きに。「サニーのブレーキを担当して、リアのドラムブレーキは現代のクルマとあまり変わりがなく、授業の復習をする感覚で交換することができました」と話す。

ネオクラシックが好きという安藤柊平さんは、既に初代スバル『インプレッサ』スポーツワゴンGF5型を所有する(もともとは9代目B15型サニー前期を手に入れようとしていたとか)マニアック派。「今までサークルで触れてきたセリカや117クーペとは異なり、サニーはより新しい年代のセダンということもあってワクワクしました。主にブレーキなどの修理を行っていてようやく走行ができるようになり、とりあえずは大きな問題もなく走ってくれ安ど感と共に感動も覚えました」と笑顔を見せた。

片岡民さんは紅一点。上記2人に進められて3年時からの入部だが、町田部長が「積極性や作業技術が高い」と太鼓判を押す逸材。本人は「もっと早く入っていればというくらい楽しいです!」と破顔一笑。「今時のクルマとは全然違うので、授業で学べないところにも触れることができています。その分難しいこともありますがやりがいもあります」。

サークル活動は週に1度の放課後、それぞれぎゅっと詰め込んだ作業を行っている。この日は先輩格のセリカリフトバック117クーペなどに交じってサニーもテストコースに入った。3人を指導する早川和輝先生も27歳と、こちらもフレッシュ。合わせて4人が乗り込み、ブレーキやエンジン、足回りなどの状態を入念にチェックしていく。途中で片岡さんが運転することに。時折ガクガクっとなるクラッチミートに苦戦しながらも「マニュアル楽しい!」と何度も旋回を繰り返す。

下回りからの異音の特定やロールの具合など、ストップ&ゴーを繰り返しながら異常を突き止めていく眼差しは真剣そのもの。近い将来の1級整備士の姿が垣間見える。

その1級自動車整備科で学科と実習を教えている早川先生が「3年生は私との年齢差があまりないので、ギャップは感じていません」と言うように、4人のチームワークには仲間のような一体感がある。現代のクルマに関しては特別の知識とウデがある早川先生も、キャブ車のような古いクルマは未経験で、生徒と一緒になって旧車に取り組む。

「このサニーは、動かなかった状態から学生の手により再び走り出したストーリーの詰まったクルマ。現在のクルマと比較して電子制御が少ない分、その日の天気や気温によって車両の状態が変化するので 整備が大変な反面、元気に走るようになった時のやりがいを感じます」と早川先生。「若者のクルマ離れが言われる昨今、クルマが好きでサークルに来る学生に「やっぱりクルマって楽しい」と実感してもらえるような時間を作っていけたら嬉しいです」

試走後にサニーを部室のガレージに入れた後、生徒の1人が「車内からこんなのが出て来ました!」と見せてくれたのは、何枚もの首都高速道路の領収券だった。400円や500円など、昭和60年代初期のものだ。それを油がにじんだ手に取り、興味深そうに眺める生徒たち。昭和が令和につないだ、これもクルマと共に歩んできた歴史のひとつだ。

「旧車に触れられることや普段の実習とは違った作業ができるなど 学校生活がより充実しているように感じます」と安藤さんが言う。

Z世代の指導教官とともに3人の生徒が力を合わせてレストアされるサニーは、モノとしてのクルマを超えた物語を紡ぎながら、今日も軽快なエキゾーストノートを奏でていた。

《嶽宮 三郎》

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