パンクしない次世代タイヤ! ブリヂストン「AirFree」が拓く“低速モビリティ革命”

ブリヂストンの太田正樹氏(左)と岩淵芳典氏(右)
ブリヂストンの太田正樹氏(左)と岩淵芳典氏(右)全 12 枚

ブリヂストンはパンクしない次世代タイヤ「AirFree」を新たな事業への足がかりとして推進している。その一環としてグリーンスローモビリティへの装着をひとつのターゲットとしている。

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◆グリーンスローモビリティとは? 「AirFree」がもたらす価値

AirFreeの外観AirFreeの外観

グリーンスローモビリティとは何か? AirFreeはどんな効果をもたらすのか? 10月27日に東京都小平市のブリヂストン技術センターにて行われた「パンクしない次世代タイヤ『AirFree』の社会実装に向けた自治体向けグリーンスローモビリティ試乗会」を取材した。

まずAirFreeについて少し説明する。AirFreeはその名のとおり空気を使わないタイヤで、ブリヂストンが2008年から開発を進めてきた。年を追うごとに改良が進み、2024年からは公道での実証実験もスタートした。公道実験は市街地はもちろん、奥多摩周遊道路などのワインディングでも行われている。公道で使用するという前提からJATMAのイヤーブックにも掲載され、掲載時には従来は存在しなかった「非空気入りタイヤ」というカテゴリーが新設された。

◆AirFreeの仕組みとサステナビリティ

AirFreeは荷重が掛かると空気入りタイヤ同様に適度に変形しグリップを稼ぐAirFreeは荷重が掛かると空気入りタイヤ同様に適度に変形しグリップを稼ぐ

AirFreeは中心部のアルミ製ホイール相当部、樹脂製のスポーク・リム相当部、ゴム製のトレッド部で構成される。このうち樹脂製部分は、空気入りタイヤで空気が担ってきた衝撃吸収の役割も担う。トレッドが減った場合には貼り替えで性能を復活させることが可能。樹脂部分が寿命を迎えた場合も粉砕して再資源化し、同一製品へ再生できるサステナブル設計が重視されている。なお中心に近いアルミ部品は再生性の高い鉄への変更も研究中で、ジャパンモビリティショー2025で鉄バージョンの展示が予定されている。

東京大学公共政策大学院 三重野真代特任准教授東京大学公共政策大学院 三重野真代特任准教授

さて、話をグリーンスローモビリティに戻そう。グリーンスローモビリティとは、東京大学公共政策大学院の三重野真代特任准教授によって作られた造語で、20km/h未満で公道を走れる電動車を活用した小さな移動サービスのこと。今回の説明会では三重野氏がプレゼンテーションを実施。移動手段を場所や場面、距離に応じて使い分ける時代に適合したラスト/ファーストワンマイルの移動手段として活用することを目指しているという。走行実績は年々増え、2024年には400地域以上で延べ走行実績を記録し、100地域以上で本格運行が行われているとのこと。

ヤマハ製のゴルフカートをベースとしたグリーンスローモビリティヤマハ製のゴルフカートをベースとしたグリーンスローモビリティ

日本の道路は幅員が狭い傾向で、2022年の東京都杉並区を例にすると幅員5.5m未満の道路が77%にもなる。その結果、車いすが通行しづらい、歩道が少ない、自転車専用レーンが作れない、バス停が置けないといった課題が生じやすい。これを解決するには主要幹線道路を除き街全体を低速化し、低速環境で機能する移動手段としてグリーンスローモビリティが適合する。

グリーンスローモビリティにAirFreeを使うことで、パンクリスクの回避、視認性の向上、先進性の訴求、サステナビリティの確保など利点が多く、親和性が高いことも説明された。

◆富山市の取り組みと試乗会レポート

富山県富山市活力都市創造部 相川紗南氏富山県富山市活力都市創造部 相川紗南氏

続いてプレゼンを行ったのは富山市活力都市創造部交通政策課の相川紗南氏。相川氏は富山市における交通インフラの事情を解説した。富山市はコンパクトな街づくりを目指しており、「お団子と串の都市構造」を進めている。串が一定水準以上のレベルを持つ公共交通、お団子が徒歩圏のエリアという考え方だ。富山市ではLRT(Light Rail Transit=次世代型路面電車)を2006年から導入し、自動運転車の実証実験も行っている。

富山市はそうしたコンパクトシティ施策の中で、グリーンスローモビリティの導入を2018年から検討。EVバスやFCVバスも検討されたが、車両・設備の低コスト性、自動運転実証での技術的ハードルの低さが確認できたとして、導入を決定した。

シンクトゥギャザー社製のeCOM-8シンクトゥギャザー社製のeCOM-8

グリーンスローモビリティの導入目的としては次の4点を挙げている。
・SDGs未来都市としてのイメージ向上
・LRT南北線接続後の富山駅北地区のさらなる賑わい創出と魅力向上
・公共交通空白地域における新たな移動手段としてのPR
・環境負荷が低く、高齢者でも運転可能な安全性の高いモビリティの市民へのPR

富山市におけるグリーンスローモビリティの社会実験は2020年から開始され2022年で終了、2023年から本格運用されている。2024年は4月28日~11月24日の土日祝日に、乗車料金100円で運用。富山市は雪深いため、路面に雪がない時期に限定して運用される。2024年の運行日数は61日で延べ2287人が利用したという。富山市がAirFreeに期待するのはパンクしないこと、運行前点検での空気圧管理の省力化、サステナビリティやSDGsへの貢献、視認性向上による安全性の向上など。現在の利用頻度と運賃では運用財源が厳しいため、AirFreeでイメージを高め協賛企業の増加につなげたいとの見立ても示された。

eCOM-8は8輪車であることが特徴で、それだけでかなり目立つeCOM-8は8輪車であることが特徴で、それだけでかなり目立つ

富山市からは相川氏ともう一名が試乗会に参加した。富山市で運用中の「ブルーバス」と同一の8輪モデルに試乗した印象として「空気入りタイヤを使うモデルと比べて遜色はなく、乗り心地も悪くない。騒音も大差ないレベル」と語ってくれた。

筆者もブルーバスとゴルフ場カートタイプに客席で試乗したが、空気入りタイヤとの差は小さいという印象。8輪モデルはステアリング操作に対する動きがややクイックだったが、これはタイヤ径が小さく車重が重い、サスペンションストロークが短いといった車両タイプの差だろう。以前、筆者はAirFreeを装着した軽自動車をテストコースで試乗したことがあり、その際も空気入りタイヤとの大きな差は感じず、好印象だった。

人類は車輪を発明し、ものやクルマの移動を快適で速いものにした。その後、空気入りタイヤの発明により性能は大きく向上し、現在では400km/hに迫るレーシングカーを安全に走らせるほどのレベルに到達した。そうしたなかで改めて空気を使わない「パンクしないタイヤ」を開発し、新たな価値を生み出そうとするブリヂストンのAirFreeの取り組みは極めて示唆に富む。AirFreeの未来はもちろん、ここからどのようなモビリティ・イノベーションが生まれるのか。その入り口が見えた時点で、続報をレポートできれば幸いだ。

《諸星陽一》

諸星陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。趣味は料理。

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