パワポで車載アプリ開発も、「ゲームエンジン」がクルマづくりを変える…オートモーティブソフトウエアエキスポ2025

パワポで車載アプリ開発も、「ゲームエンジン」がクルマづくりを変える…オートモーティブソフトウエアエキスポ2025
パワポで車載アプリ開発も、「ゲームエンジン」がクルマづくりを変える…オートモーティブソフトウエアエキスポ2025全 11 枚

11月19日から21日までの3日間、パシフィコ横浜で開催された「オートモーティブ ソフトウエア エキスポ 2025」出展企業の中から、スマートコックピット/HMI関連で注目の2社をピックアップし、出展内容をレポートする。

【画像】オートモーティブソフトウエアエキスポ2025に展示されたゲームエンジン

◆CRI・ミドルウェアのゲーム開発の流儀でクルマ作りを変える「MESH」とは

自動車業界が「SDV」へと舵を切る中、ゲーム業界で長年サウンドや映像技術を支えてきたCRI・ミドルウェアが提案するのは、自動車業界にはない「体験ファースト」な開発手法だ。

同社が開発したSDV体験シミュレーション環境「MESH」は、なんとパワーポイントを開発インターフェースとして使用する。プログラミング不要で、企画書を書くようにクルマの新しいUXを試作できるこのツールは、堅実な積み上げ型だった自動車開発に、ゲーム業界の「体験ファースト」なスピード感を注入しようとしている。

MESH デモ用筐体MESH デモ用筐体
車載アプリデモを作成するパワーポイントの一部車載アプリデモを作成するパワーポイントの一部

「自動車業界のものづくりは、ピラミッドの下から一個ずつ石を積み上げていく工学的なアプローチ。対して我々ゲーム業界は『こういう未来を作りたい』という体験価値から逆算して落とし込んでいくアプローチです」

CRI・ミドルウェア モビリティ事業本部 開発部長で技術エバンジェリストの近藤文仁氏は、自動車業界とゲーム業界の決定的な違いをそう語る。

MESHは、名古屋大学の高田広章教授がリーダーを務める「Open SDV Initiative」(SDVに必要なビークルAPIの標準化を進める)のもと、CRI・ミドルウェアが複数の企業と共同開発したものだ。

MESH とはMESH とは

自動車開発において新しいアイデアを形にするには、仕様策定から実装まで膨大な時間がかかることも多く、「アイデアはあるが技術がない」企画担当者が、エンジニアに依頼して動くものができるまで1年かかることも珍しくない。

しかし、ソフトウェア中心のSDV時代において、このスピード感では心許ない。そこで求められたのが、ゲーム業界が当たり前に行っている「まず動くものを作って体験し、面白ければ実装する」という逆転の発想だ。

◆パワポがそのまま車載アプリになる? MESHの仕組み

MESHの最大の特徴は徹底したノーコード思想にある。「開発環境がパワーポイントになっています。パワポで企画書を書いたら、それがそのままシミュレーター上で動くんです」(近藤氏)

仕組みはこうだ。専用のアドオンが入ったPowerPointで、画面遷移やインタラクション(「このボタンを押したらページ移動」「条件分岐」など)を設定する。書き出しボタンを押すと、データが独自形式に変換され、USBメモリ経由でシミュレーターであるMESHに読み込まれる。

MP3プレイヤーが音楽データを再生するように、MESH内のコンテンツプレイヤーが企画データを読み込み、即座にインタラクティブなアプリとして動作させるのだ。

取材時のデモでは、ドライバーモニタリングシステムと連動した「あっち向いてホイ!!」ゲームや、ずんだもんがニュースを読む「Avator Radio」などが紹介された。

「よそ見を検知したら警告する」といった安全機能だけでなく、「渋滞中なら遊べるエンタメ」のようなアイデアも、パワーポイントを書くだけで、実際のビークルAPIと連動させて試すことができる。

パワーポイントで作った様々な車載アプリパワーポイントで作った様々な車載アプリ

なぜこれほどまでに手軽さとスピードにこだわるのか。近藤氏はゲーム開発の現場を例に挙げる。

「ゲーム業界では、200個の企画から製品化されるのは1つだけ、と言われます。とにかく試して、動かして、面白いものだけを残す。自動車メーカーの商品企画やデザインなどの上流部門が、思いついたアイデアを数日で試作し、体験して取捨選択できるようになれば、イノベーションの速度は上がるはずです」

実際のところ、SDVでは自動車メーカーもこのようなアプリケーションを動かすためのリソースの“余白”を用意する方針を示しているという。「余白さえあれば、あとはアイデア勝負。限られたリソースの中で工夫して面白くするのはゲーム業界の得意分野です」(近藤氏)。

MESHはあくまで“体験”を検証し、仕様を固めるためのプロトタイピングツールだ。しかし、このツールが自動車メーカーの企画・デザイン部門に導入されれば、エンジニアの手を借りずに無数のアイデアが試されるようになる。

「『こんな企画をやりたい』とある自動車メーカーから出てきた案を見たら、まるでゲームのような内容だったことがあります。これまで『どうせ無理だ』と諦めていたリミッターを解除してあげれば、面白いアイデアはボロボロ出てくるはずです」(近藤氏)

MESHは、自動車メーカーのモノづくりに遊び心とスピードをもたらすきっかけになりそうだ。

◆少ないリソースでも「フォトリアル」を実現するエピックゲームズのUnreal Engine(アンリアルエンジン)

世界的な人気ゲーム『フォートナイト』などで知られるエピックゲームズが、自動車産業においてその存在感を急速に高めている。同社が提供するリアルタイム3D制作ツール「Unreal Engine(アンリアルエンジン)」は、ゲームの枠を超え、自動車のコックピットHMIやデザイン開発、販売促進の現場で不可欠なツールとなりつつある。

今回、エピックゲームズのビジネスデベロップメントディレクターである杉山明氏に、同社の自動車業界向けソリューションの現在地と今後の展望について話を聞いた。

自動車業界においてエピックゲームズが特に注力しているのが、インフォテインメントシステムやデジタルコックピットのHMI開発である。ブースに展示された「Nova」と呼ばれるHMIのデモコンテンツは、実際の車載用チップに近いスペックのAndroidタブレット上で動作する。

Nova で生成した車載UIのデモNova で生成した車載UIのデモ

エピックゲームズ ビジネスデベロップメントディレクターの杉山明氏は、「Unreal Engineは重いのではないか」という業界内の懸念に対し、以下のような機能のデモを通じてそのパフォーマンスの高さをアピールしたいという。

・雨や雪といった天候の変化、背景の変更などを即座に反映
・半透明表示で車体内部の構造を見せたり、音楽プレイヤーなどのUIをシームレスに統合したりすることが可能
・車載SoCのスペックに合わせてパラメータを調整し、スムーズに動作させることが可能

Unreal Engineを搭載した車両は過去5年間で35車種にのぼり、出荷台数は200万台を超えている。ボルボやGM、ロータスといったメーカーが採用しており、今後も採用車種の拡大を目指している。

◆競合に対する優位性と「開発効率」の向上

エピックゲームズは、Unreal Engineよりも簡易に扱えるリアルタイムビジュアライゼーションソフト「Twinmotion」の自動車業界への展開も強化している。

杉山氏は「Unreal Engineは機能が多すぎて難しいという方でも、TwinmotionならCG初心者でも扱いやすい」と語り、自動車のデザインレビューや家電製品などの分野へ広げていく意向を示した。

Twinmotion編集画面Twinmotion編集画面

自動車向けHMIやグラフィックエンジンの分野では、UnityやKANZIといった競合が存在する。その中でUnreal Engineが選ばれる理由は、圧倒的な「描画品質(フォトリアルな表現)」と「開発効率」にあるという。

また杉山氏は、エンジニアとデザイナーがUnreal Engineという共通のプラットフォーム上で連携することで、ツールをまたぐ手間を省き、シームレスな開発が可能になると強調する。

ゲーム開発で培われた最先端の映像表現技術やVR機能が、そのまま自動車開発の現場でも活用できるのも強みの一つだ。

Unreal Engineでオブジェクトを生成可能Unreal Engineでオブジェクトを生成可能

限られたリソースでも動作するパフォーマンスと、リッチな表現力を両立したUnreal Engineは、大画面化とインタラクティブなUIが求められている自動車産業において、有力なソリューションのひとつになりそうだ。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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