住友ゴム工業は11月27日、Quemixとの共同研究の成果として、量子コンピュータによる非線形方程式の計算を指数関数的に加速することに成功したと発表した。
この成果は、両社が新たに開発した量子計算結果の読み出しを迅速かつ低コストで行う手法によって初めて実現したもので、量子計算の実用化を大きく前進させるものである。
今後、共同研究をさらに進めることで、この手法を実用化へとつなげ、住友ゴム工業が注力する高機能ゴムなど材料開発のスピードを格段に向上できると期待している。
量子コンピュータは、従来のコンピュータでは膨大な時間を要する計算を並列的に処理できることから、材料開発や金融、流体解析などの分野で注目されている。しかし、その実用化には「読み出し問題」と呼ばれる技術的課題があった。
量子計算自体は高速に行えるものの、計算結果を数値として正確に取り出す際に膨大なコストが発生し、その過程で量子計算の優位性が失われてしまう。このため、CAE(Computer-Aided Engineering、コンピュータによる開発支援)分野において量子計算が本当に優位性を発揮できるかについては、学術界・産業界の双方で懐疑的な見方が少なくなかった。
特にこの「読み出し問題」が深刻に影響していたのが、非線形方程式の解法である。非線形方程式とは、入力と出力の関係が単純な比例(直線)ではなく、複雑な相互作用を含む数式を指す。構造物の変形、流体の渦、熱の伝わり方など、実世界で起こる多くの物理現象を再現するCAE解析の中心的な課題であり、産業界では「最も計算負荷の高い領域」の一つとされている。
従来の量子アルゴリズムでも理論上は高速化の可能性が示されていたが、結果を取り出すたびに状態測定を繰り返す必要があり、実際には高速化のメリットを活かせない状況が続いていた。
今回、両社は共同研究を通じて、そうした長年の課題に実用的な解決策を見出すことに成功した。量子計算の関数に含まれる波形や周期的な特徴(フーリエ係数など)を効率的に抽出し、少数の主要成分から解を再構成することで、データ量が増えても処理効率を維持し、大規模シミュレーションにも対応できる読み出しを可能にした。
この新手法により、非線形方程式の計算において量子コンピュータが持つ理論的な高速性を実際の計算で発揮することが可能となり、読み出し問題を克服して指数関数的な加速を実証した。
住友ゴム工業とQuemixは今回の成果を、量子計算を「理論的可能性」から「実現可能性」へと近づける意義のある一歩として捉えている。特に、材料特性解析、流体シミュレーション、金融リスク評価など膨大な計算資源を必要とする領域において、量子コンピュータが実際に競争力を発揮する未来を具体的に描くことが可能になる。
今後、量子アルゴリズムの設計において、「計算手法」に加えて「読み出しプロトコル」までを含めた議論が進み、産業応用に直結する研究の加速が期待される。
また、今回の共同研究を通じて、高分子の構造解析に用いられる計算手法である高分子SCFT(Self-Consistent Field Theory)計算のスピードにおいても指数関数的な加速を確認することができた。
今後住友ゴム工業は共同研究をさらに進めることで、新たな高機能ゴム材料の開発を進める。これにより、同社が長期経営戦略「R.I.S.E. 2035」の中で成長促進ドライバーの一つとして掲げる「ゴム起点のイノベーション創出」の実現につなげていく。
なお、共同研究成果は12月9日から11日に米国カリフォルニア州サンタクララコンベンションセンターで開催される量子技術の国際的なカンファレンスである「Q2B 2025 Silicon Valley」にて住友ゴム工業とQuemixの研究者がキーノートセッションに登壇し発表する予定だ。
Quemixはテラスカイのグループ会社で、量子コンピュータのアルゴリズムやソフトウェアの研究開発を行う会社。現在両社が進めているのは、CAE分野における、量子コンピュータの応用に関する共同研究だ。




