モビリティ産業の「儲かる仕組み」をどう構築すべきか…PwCコンサルティング 川原英司氏[インタビュー]

モビリティ産業の「儲かる仕組み」をどう構築すべきか…PwCコンサルティング 川原英司氏[インタビュー]
モビリティ産業の「儲かる仕組み」をどう構築すべきか…PwCコンサルティング 川原英司氏[インタビュー]全 10 枚

来たる12月10日、オンラインセミナー「産業アーキテクチャを見据えスマートモビリティをどう戦い抜くか?」が開催される。登壇するのは、PwCコンサルティング スペシャルアドバイザーであり、スマートモビリティ総合研究所 副所長の川原英司氏。当日の講演は以下のテーマで進められる予定だ。

1.「スマートモビリティ」の発展
2.モビリティの「産業アーキテクチャ」の方向性
3.次世代のモビリティ産業アークテクチャに向けて
4.「モノ」「コト」のアーキテクチャと「オペレーティングモデル」の対応
5.質疑応答

DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)の進展は、既存の産業構造を静かにに変えつつある。しかし、自動車メーカーをはじめとする日本のモビリティ産業は、その変化を、単なる技術進化や電動化への移行として捉えてはいないだろうか。

川原氏へのインタビューから見えてきたのは、自動車産業からモビリティ産業へ、産業の構造そのものが本質的に書き換わろうとしているという現実だ。収益構造が変化する中で、いかにして新たな立ち位置を確立すべきなのか。川原氏に聞いた。

自動車のスマート化で生まれる新たな市場とは

CASEの進展に伴って、SDV・自動運転・電動化・資源循環といった事象が起きている。そして、それらの事象を組み合わせることによって新たな周辺産業が生まれ、社会変化が起きつつある。

川原氏は、これを「スマートモビリティ社会」と定義する。

スマートモビリティ社会とは、単にIT化された移動手段のことではなく、デジタルによって新たな価値を生み出す「モビリティDX」と、環境対応を起因とした「モビリティGX」、この二つの潮流が合流した先に現れるものである。

その中身は、従来の自動車産業の枠組みを超えたものだ。まずハードウェアの領域では、自動車だけでなく、マイクロモビリティや二輪車、ロボタクシーなどもスマートモビリティの発展を支える。

一方、さらに大きな成長が見込まれるサービス領域も、単なる移動や物流にとどまらない。エネルギー、金融・保険、通信、メンテナンス、資源循環などの領域で新たなエコシステムによる価値提供が加速する。

この市場が生まれたきっかけは、自動車のスマート化によって、IT技術を用いて新しい価値を創出する「DX」の動きが自動車産業に波及し、産業構造が変化することにある。これにより、クルマ単体のビジネスから、新たな周辺産業を含めた収益モデルの変化への対応が求められるようになったのである。

川原氏が提示したデータによれば、スマートモビリティの市場規模は、現在の約130兆円から、2030年には約3倍の390兆円に達すると予測されている。

だが、市場全体の拡大が、そのまま既存プレイヤーの利益につながるとは限らない。

かつて日本が世界でシェアを伸ばしたリチウムイオン電池やカーナビ、半導体といった製品群において、市場規模の拡大とは対照的に日本企業のシェアが低下していった過去がある。川原氏は、スマートモビリティ領域でも同様の事態が起こり得るのではないかと指摘する。

「スマートモビリティ市場は、ハードウェアもソフトウェアも大きく伸びていきます。しかし、市場が伸びるからといって手放しに喜べるわけではありません。過去、リチウムイオン電池やカーナビ、半導体などがそうであったように、世界市場が急速に拡大するタイミング、特に、デジタルの力がテコになり市場が伸びる局面で、日本の産業シェアが逆に大きく落ちてしまうことがあるのです。ですから、この成長にしっかりと乗り、シェアを落とさずに戦っていくためには何が必要なのか、それを真剣に考える必要があります」

これまでの自動車産業は、車両というハードウェアを製造・販売するビジネスモデルが中心であった。しかしスマートモビリティの世界では、ハードウェアの成長に加え、物流、移動サービス、エネルギー、金融、メンテナンスといった“サービス領域”が、ハードウェア以上の高い伸び率を示すようになる。

課題は、このサービス領域が収益化できる構造、全体として産業の体をなす構造になっているかどうかだ。現状では、多くの企業が独自にサービスを立ち上げているものの、規模の経済が働かず、収益化に苦戦しているケースが目立つ。

「本当に利益を上げるためには、産業アーキテクチャとして “儲かる仕組み”になっていなければなりません。既存の自動車関連企業やスタートアップで、様々な新サービスが立ち上がってきていますが、それら事業が市場の成長に合わせて利益を上げていくためには、サービスをより効率的かつ高度で付加価値の高いものへと進化させる仕組みが不可欠です。市場は伸びるがシェアは落ちる、あるいは、市場は伸びるが儲からない、という構造に陥らないためにも、産業として向かうべき方向性を描き、その中でいろいろなポジションをとる企業がそれぞれ高付加価値化・高度化し、継続的に収益を上げつつグローバルでも戦っていけるような構造へと進むべきです」

「ミッション」と「ファンクション」の分離

では、どのようにして収益化の仕組みを構築すればよいのか。従来の垂直統合型のモノづくりから脱却し、叶えるべきユーザーのニーズ(ミッション)と、それを実現する機能(ファンクション)を分けて考えるアプローチが必要だと川原氏は説く。

まず前提となるのがユーザーニーズだ。デジタル技術を活用することで、ユーザーの利用シーンに合わせたきめ細かな価値提供が可能になる。

「エンドユーザー一人をとってみても、その人がドライバーである時や助手席に乗っている時、またタクシーやバスや電車の乗客として移動する時などでニーズは異なります。安心安全を求めることもあれば、経済価値を重視することもあるし、利便性や環境、あるいはワクワクするような自己表現を求めることもあるでしょう。一人のユーザーであってもシーンによって求める価値が変わってくるのですから、その時々のシーンに合わせて最適なサービスや製品を提供できるのがデジタルの世界であり、そういう構造で価値創出を目指すべきということが大前提です」

このように多様な、叶えるべきユーザーニーズ(ミッション)に応えるために、個々の企業がすべての機能を自前で用意するのは効率的ではない。そこで重要になるのがファンクション・アーキテクチャの概念だ。異なるサービスやハードウェア間で共通利用できる機能(ファンクション)を切り出し、それを水平分業で提供・利用できるアーキテクチャである。

「ものづくり」ハードウェアの水平展開

ハードウェア領域では、垂直統合から水平分業への移行が進んでいる。川原氏はその例として、半導体産業での成功事例や、自動車産業における具体例を挙げる。


《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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