ゲームエンジンが自動車開発の共通言語になる!『Unreal Engine』の採用が急拡大する理由【前編】

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Epic Games ビジネス開発マネージャー 杉山明氏
Epic Games ビジネス開発マネージャー 杉山明氏全 14 枚

Epic Games(エピックゲームズ、以下Epic)といえば『フォートナイト』のタイトルで知られるゲームスタジオだ。ところが近年は「Automotive is close to our core competencies.(自動車は我々のコア・コンピテンシーに近いところにある)」という言葉を掲げ、同社がソースコードにアクセス可能なリアルタイム3D制作ツールとしてリリースしている『Unreal Engine(アンリアル・エンジン、以下UE)』が、自動車OEMがコンフィギュレーターや開発ツールに採用する例が相次いでいる。

その背景を日本法人のビジネス開発マネージャー、杉山明氏に尋ねた。

◆「ゲームエンジン」の採用が自動車業界で急拡大する理由

自動車業界への導入自動車業界への導入

「そもそもの始まりは2016年3月のGDC(ゲーム・デヴェロッパーズ・カンファレンス)。私たちは毎年、UEの新機能を紹介する場としているのですが、マクラーレン社と協力して、570Sのコンフィギュレーターを実演しました。その際にスペシャル・プロジェクト・チームを立ち上げて、塗装、シート、各細部の表現を用意して、リアルタイムでアニメーションとして動かしたのです。この時のマテリアルを『Automotive Materials Pack』としてユーザーに無料配布して、マテリアルについてはパラメーターで自由に調整できるようにしたのです。今もUEで自動車を扱う際に標準で使われるものですが、UEは物理ベースのレンダリングを採用しているので車のリアリティ、光の表現などが綺麗にできます。それがOEMのデザイン・チームに好まれ、欧州をきっかけに北米、アジアへとユーザが広がっている状況です」

その後もEpicはUEのリアルタイム3Dレンダリングを磨き込み、実車の映像にCGをリアルタイム合成していくコンテンツ等を発表し続けた。ボディの映り込み、光の反射、ボディラインをどう表現していくか。光線を投影してボディ表面の屈折を計算し、反射や影を表現として、オフラインで綺麗にレンダリングして当てはめること、それをリアルタイムで秒間24~30フレームで処理することを可能にした。ゲーム開発以外の領域で、建築や映像制作にはUEの採用例はあったが、自動車業界へも積極的にアプローチしていくというのだ。

開発から販売現場まで活用されるUnreal Engine開発から販売現場まで活用されるUnreal Engine

ではなぜ、UEは自動車開発分野において特に相性がいいのか?

「ヴィジュアライゼーション(視覚化)ですね。エクステリア、インテリアともデザイン工程の効率化・コスト削減に繋がると思います。元々、ゲームでリアルなものを表現してきたから、リアルの自動車OEMが興味をもってくれた。UEは自動車の開発プロセスのすべてではなくても、中核になりうると考えています。高品質なヴィジュアル表現はもちろんですが、リアルタイム性とアーティスト・フレンドリー、かつコーディングなしでカスタマイズできる点が特徴です」

平たくいえば、あらゆるクリエイティブ体験の開発を進めていく上で、統一されたアセットを共有できるということだ。開発・制作のあらゆる段階で共同作業を可能にし、リアルタイムのスピードで反復や改善が行えるため、迅速かつ効率的なワークフローを生む。デザインのレビューのような従来の“源流”となる工程から、工場でのトレーニング、CM用の動画や静止画の切り出しやコンフィギュレーターといった“河口”側の現場まで、一貫した素材やデータを共有できるという。

◆2万点の部品のCADデータから、リアルタイム3Dで動くクルマの映像

自動車ビジュアライゼーション向けUnreal Engineの特長的な機能自動車ビジュアライゼーション向けUnreal Engineの特長的な機能

「例えば『Unreal Engine 5』を用いた、BMW 5シリーズのコンフィギュレーターの制作工程を解説している講演動画では、実車パーツのCADデータをUEに取り込んで紹介しています。複雑なCADデータをハンドリングしながら、操作に応じて動いていくような機能。CADデータの変換はサードパーティ製もありますが、UEには『Datasmith(データスミス)』というプラグインがあります」

Datasmithは3DモデルやCADデータをUEで扱うために変換するプラグインで、20種類以上のデータ形式をサポートしている。しかもメタデータを保持したまま、後段階で再テセレーション処理を行い、エッジやTジョイントのような形状も高品位に再現するという。また従来はリアルタイムでスムーズに動かすため、表示させる必要が無い部分のポリゴンを削減する処理がなされていたが、『Nanite(ナナイト)』という仮想化ジオメトリを備えることで、膨大な数のポリゴンをそのまま動かせる点も、UEの大きな特長となっている。

Epic Games ビジネス開発マネージャー 杉山明氏Epic Games ビジネス開発マネージャー 杉山明氏

「昨年10月にEpicが行った講演ではBMW 5シリーズの動画で、CATIA V5のネイティブ・データをUEに変換して動かすデモを行いました。これまでは処理を軽くするために、見えなくていいパーツを削除したり、ポリゴン数を削減する機能で軽くしていましたが、UEとしては取り込んだそのままのデータを快適に動かして、手間や時間を短縮したいという思いがありました。そのカギとなるのがNaniteです。CADでいう150%モデル、部品数として約2万点ぐらい設計からすべて入っているメタデータを保ったまま合成しています。取り込んだままのデータで、いくつかのレイヤーに分解して展開したりして、これだけスムーズにポリゴン・リダクションせずにリアルタイムで扱えることをお見せしたかったのです」

「Datasmithもヴァージョンアップを重ねて、CAD変換時にUEの中で不要なメッシュをなるべく少なく、細かく分割し過ぎることなく四角形や三角形の造形をキープする変換アルゴリズムを磨いてきました。アルゴリズムで単純化するのではなく、綺麗でエッジも少ない方が計算が速くなるので、より扱い易いデータに最適化するということです。CATIA以外にもライノやシーメンスNXなど、CAD側にメタデータとして入っている属性を、UE側で形状だけでなく質感を再現したり、グルーピングもできます」

より少ないポリゴン数でよりよい品質を実現より少ないポリゴン数でよりよい品質を実現

メタデータを読み込む際に、色々な属性を読み込んでどのようなマテリアルを割り当てるかは、自動化が可能。Unreal内で車両を走らせるかVRで見るかといった判断は、OEMごとに開発のワークフローに応じて調整するという。

◆単なる開発ツールではない「Unreal Engine」の可能性

Epic Games ビジネス開発マネージャー 杉山明氏Epic Games ビジネス開発マネージャー 杉山明氏

加えてUEには、ボディ塗装表面の違いまで、レイヤー構造を持ったマテリアルを表現できる『Substrate(サブストレート)』、直接光や間接光といった光の跳ね返りをリアルタイムでシミュレーション可能な『Lumen(ルーメン)』、そして街や自然といった外的環境による背景そしてリアルな内装素材からスキャンした風合いを豊富に試せるアセットといった、多彩な機能がある。VRやシミュレーションでリアルスケールの開発車両を扱いながら、その背景やボディカラーを替えたり、あるいは走らせたりするのは、社内プレゼンテーションやマーケティング素材としても活用できるポテンシャルがある。

だがUEは、もはや単にデザイン・ドリブンを促す開発ツールという域にはとどまらない。開発のリードタイムを短縮するのは無論、HMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)開発や自動運転・ADASにおけるシミュレーション検証のツールとしても有用だ。そればかりでなく、リアルのモノづくりにおけるヴァーチャルの先行化を推進するツールでもある。詳しくは後編で検証していく。

Unreal Engineはこちら

《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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