開発データでそのままマーケティングまで、自動運転開発にも活きる『Unreal Engine』の最前線【後編】

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Epic Games ビジネス開発マネージャー 杉山明氏
Epic Games ビジネス開発マネージャー 杉山明氏全 13 枚

Epic Games(エピックゲームズ、以下Epic)がリリースする『Unreal Engine(アンリアル・エンジン、以下UE)』は現在、「5.7」に進化しており、バージョン5.4から有償化されている。自動車業界における開発ツールとして、必要なプラグインも揃えて、機能面における成熟についても自信を深めた訳だ。

その背景を、日本法人でビジネス開発マネージャーを務める杉山明氏は、こう説明する。

「エクステリア・インテリアといったハード面のデザインで開発ツールとして用いられている一方で、既存のHMI、つまり市販車のインストルメンタルパネルやタッチスクリーンにもUEが搭載されているのです」

2020年のGMCハマーEVを皮切りに、その後リヴィアンが採用、今では35車種、200万台以上の市販車で使われているという。

【前編】ゲームエンジンが自動車開発の共通言語になる!『Unreal Engine』の採用が急拡大する理由

◆表現の柔軟さがHMIのデザイン、開発に活きる

HMI開発に活用されるUnreal EngineHMI開発に活用されるUnreal Engine

その理由は、既存HMIシステムの中に組み込む際のUEの自由度の高さにある。実際、市場投入されている中にも様々な例があって、3Dグラフィックスの一部だったり、スクリーン全体に使われたり、あるいは汎用システムの一部に組み込まれたりもしているとか。

「例えばリヴィアンの第2世代HMIでは、“UE=フォトリアル”だったのとは逆に、簡素化してカートゥーン風の分かりやすい表現に用いられています。あるいはロータスはUEの高度なレンダリング能力を活かして、ハードウェア情報をタッチスクリーン上でリアルに再現しています」

いわばUX(ユーザー・エクスペリエンス)上での表現を、OEMが望むとおりに柔軟に創り出しては変化させることもできるため、フォード・マスタングやキャデラック・リリックなど、採用例がここ5年来、増え続けているという。

非エンジニアでも機能やツールを制作できる非エンジニアでも機能やツールを制作できる

ただ、もうひとつ忘れてはならないのは、HMIの設計と開発においても、UEは検証環境の再現に用いられていることだ。UEのビジュアルスクリプティングであるブループリントを使うことで、設計からテストまでの開発作業を加速させることができる。

元々、ゲームの世界でも計器類を表示することはあって、3D内でもUI(ユーザー・インターフェイス)は通常グラフィックを用いることが多い。例えばキャラが近づいたらドアが開くといった表現だ。仕組みとしてはグラフィック内で、各機能を備えたノードをどう繋げて動かして、表現していくか。UEにおいては非プログラマーでも、コードを書かずにプログラムをカスタマイズして機能やツールを作成することが可能になっているという。つまり、どこにメーターや計器類を配置して、何を表示するかといったことが、デザイン・ドリヴンで検証できる。

Unreal Engineを用いたHMI開発フローUnreal Engineを用いたHMI開発フロー

従来はまずどこにどういった数字を表示するか、デザイナーが練った案を車載システムで動かすためには、組込みエンジニアがコーディングして試作を作り、デザイナーに戻しては改良…といったワークフローだった。ところがUEを使った作業では、いずれの立場からも共通言語で検証が進められるため、物理的な試作は最後の最後で構わないことになる。これにより実際のインタラクションを活かしたHMIデザインが可能となり、リードタイムもコストも大幅に短縮されるのに加え、視線のトレースなど実車ではできなかった評価も可能になった。デザイナーがノードベースでのプログラミングでプロトタイプを制作できるため、最終的なプロダクトに“変換”や“最適化”を挟まずに実装できるため、ワークフローは非線形でも開発フローはダイレクトなのだ。

◆絵の綺麗さ、だけでなく「挙動のリアルさ」で自動運転領域にも

Epic Games ビジネス開発マネージャー 杉山明氏Epic Games ビジネス開発マネージャー 杉山明氏

ではUEは、自動運転やADASの領域でどのように使われていくのか?

「UEの絵の綺麗さ、フォトリアルな映像をリアルタイムに生成できて現実に近い感覚は、シミュレーションにも使えるのでは?ということで、自動運転、自律走行、運転支援の開発領域でも採り入れられ始めています。ただしシミュレ―ション・ソリューションとしては絵が綺麗だけでなく、挙動のリアルさが求められる。シミュレーション結果と組み合わせることは、国内のOEMの方々からこう使っているとか、仮想の街を構築してコンセプトカーを走らせているといった話は聞きます。例えばLumenは光の回り込み、反射も再現しますし、天候や時間帯、都市部か近郊か、UEはそういった様々な環境を高品質なライブラリ・アセットとして揃えていますから。実地で映像やリアルデータをすべて集めるのは時間も労力もかかるところで、学習データやテストに使うという視点です」

国内の例では、あるメガサプライヤとコンテンツ開発会社が、自動駐車アシスト機能のために駐車スぺ―スの定義、つまりシステム側が駐車可能なスペースを検知するための学習データを生成するために、用いている例があるとか。ブロックや停止線のパターンをすべて実際に集めずとも、低い労力とコストで実写のような学習バリエーションの構築が可能という。

Epic Games ビジネス開発マネージャー 杉山明氏Epic Games ビジネス開発マネージャー 杉山明氏

他にもEpicは、MetaHuman(メタヒューマン)というさまざまな人種や年齢、性別や外観などをパラメーター設定で変化させてUE内で作成できる機能の無料提供も開始している。

◆コンシューマーの体験価値から開発データの一元管理まで

開発から販売現場まで活用されるUnreal Engine。ロータスの例開発から販売現場まで活用されるUnreal Engine。ロータスの例

開発ツールとしてのUEのパワフルさはここまで挙げてきた通りだが、UEは販売店でのUXや生産、開発から改良といったフローさえも変えてしまう可能性を秘めている。

「“Pixel Streaming(ピクセルストリーミング)”によるWEBコンフィギュレーター体験が進んだのは、パンデミックがきっかけでディーラー販売店に行くのが難しい時期のことでした。これまでにパガーニ、BMW、ポルシェ、ランボルギーニ、アウディといったOEMで、リアルタイム技術で新しい体験価値をもたらすツールとして採用されてきました」

ピクセルストリーミング自体は、クラウド上にUEのデータが格納されていて、端末側のGPUが強力でなくても、WEBコンフィギュレーターでオプションをあれこれ選択していくことで、ブラウザ接続があれば仕様に忠実な3D映像が流れていく仕組みだ。3Dデータで背景を変えたり、実車サンプルに近い仕上がりを楽しめる。

「OEMや販売会社が、自社イントラネットやサーバーにUEを置いているパターンもあります。ディーラーの店内に置いているコンフィギュレーターにも、ピクセルストリーミングを用いているものもあります」

コンフィギュレーターやウェブサイト用の動画コンテンツや静止画など、UEはマーケティング・ツールとしても使われる訳だが、同じフローの枠内でデータを再活用しているOEMもある。ロータスは会社全体で一括して、コンセプトからデザインとエンジニア、生産やマーケティング、販売、HMIまで、UEのデータを一貫して使っているという。

Unreal Engineを採用したコンフィギュレーターUnreal Engineを採用したコンフィギュレーター

「OEMによってはコンフィギュレーターだけでなく、メンテナンスエンジニアとメカニックのトレーニング・ツールとしても使われています。現状の多くの自動車OEMのワークフローですと、商品企画からデザインに開発、生産に販売にメンテナンスまで、各行程ごとにデータが異なっていて効率が悪い。UEを使ってもらうことで用途に応じて、VRでも静止画でも、異なる部署のユーザーがオンボードすることで、ワンリソース&マルチユースが成立します」

逆に、ハイエンドなスポーツカーでは、オーダーからコンフィギュレーターでの仕様決定まで一定時間があり、それを元に生産工場に仕様オーダーが伝えられ、生産から納車までのサイクルが始まるのはご存知の通り。また販売後の品質管理から対策、中長期的なモデルチェンジといった点でも、リードタイムを劇的に減らすことも考えられる。

リアルのモノづくりを成立させるのに、これまで以上にアンリアルつまりバーチャルな領域での効率化や開発スピードの向上が求められることは確かだ。生成画像のみならず設計にまつわるメタデータや属性まで、手際よくハンドリングできるUEの活用は、自動車の開発に求められ続けるトライ&エラー的なアプローチと安全確保を首尾一貫して容易化することで、ワークフローを大きく変えることになるかもしれない。

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《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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