最近ネットフリックスで良く海外もののドラマを見る。でもそれがイギリスのものだろうがアメリカのものだろうが、要人を運ぶクルマとして出てくるのは、『レンジローバー』と相場は決まっている。
レンジローバーの乗り味、質感、装備、快適さ、それに他を圧する威厳など、どれをとっても、同じジャンルでは比較になるものが無い。たとえ、ロールスロイス『カリナン』が隣に来ても、負ける気がしない。
ほぼ2年前に、MHEVを装備したディーゼルのレンジローバーに試乗した。その時の車名は「D300」といった。今回試乗したのは、「D350」という。同じ3リットルのターボディーゼルだが、出力が50psアップして、350psになったことによって、その名が付く。
ランドローバー レンジローバー HSE D350
そして2025年モデルから、新たにロングホイールベースバーションが選べるようになった。ということで、お借りしたのはそのLWB版のD350である。
ただし、グレードは最上級の「オートバイオグラフィー」ではなく、「HSE」というグレード。それでも車両本体価格は2125万円と、場所によっては中古のマンションだって買える。おまけに試乗車は何と523万8280円ものオプションがのっかっているから、総額は…、もう計算したくないレベルである。
◆巨体に似合わぬ俊敏性も
例によって直6ディーゼルは、メルセデスの直6ディーゼルほどの静粛性は持たないものの、一旦動き出してしまえば、ディーゼルであることを忘れさせる。仮にアイドリング中にエンジンがかかっていたとしても、振動はほぼ皆無。僅かなディーゼルノイズが室内にようやく届くといったレベルである。
LWBだから、リアビューミラーから見える後方の景色は、遥か彼方といった感じである。他にショーファーを雇うことができなかったので、止まった状態でリアシートに腰を下ろしてみた。このクルマにとって、一等地はやはりここである。豪華車に在りがちなコテコテ感もなくすっきりと、そして上品に仕上げられてる。残念ながら、走行中の後席の乗り心地を試すことはできなかったものの、フロントで味わった快適さを考慮すれば、それが極上であることは容易に想像が付く。
ランドローバー レンジローバー HSE D350以前にも話をしたが、3サイズは全長5265×全幅2005×全高1870mmと巨大である。ホイールベースは3195mmもあるから、ほとんど軽自動車がその中に納まりそうなサイズ感なのだが、それでも結構狭いところを走ってみても、それほど苦にはならない(気は大いに使うが)。4隅が掴みやすいボディ形状、といえるのかもしれない。
しかも、この巨体にもかかわらず、案外(といっては失礼だが)俊敏なところを持っていて、予想外に軽快な動きをさせようと思えばしてくれるのだが、正直言うとこのクルマにそうした動きは全く似合わないから、すぐに「よきに計らえ」的に、ゆったりと構えたドライビングになる。仮に一人で乗っていても、気持ちが良い。
◆「ここは天国か?」
ランドローバー レンジローバー HSE D350ほとんど唯一といってよい不満点は、メーターパネルのデザイン。オーソドックスなイギリス調を狙っているのかもしれないし、必要な情報は全て入るのだが、そのデザインはあまり素敵だとは思えない。それに輸入車の決定的なネガ要素として共通しているが、ナビゲーションで、とても使いづらい。そんなわけだから、二人以上で乗っているときは、隣の人にスマホナビで案内してもらうのが正解である。
肝心な50ps増えたD350の印象であるが、恐らくトップエンドではそれなりの違いを発見できるのかもしれないが、日本の道路事情での走りでは、正直なところ、大きな違いを見出すには至らなかった。もっとも最後に乗ったのは2年前だから、そのパワー感を忘れているだけかもしれない。
冒頭でネットフリックスでよくドラマを見ると話をした。筆者の大好きな映画に、ケビン・コスナーが主演した、『フィールド・オブ・ドリームス』という映画がある。野球と父子の葛藤をテーマにした映画で、最後のシーンでは何故か、いつも号泣してしまう。ネタバレするから内容は伏せるが、ケビン・コスナーの父親役として登場するドワイヤー・ブラウンが、息子であるケビン・コスナーに向かって「ここは天国か?」と尋ねると、コスナーは「いいや、アイオワだよ」と答える。
レンジローバーに乗りながら、クルマに向かって「ここは天国か?」と尋ねると、クルマが「いいや、レンジローバーのドライビングシートだよ」と答えてくれているような気がした。
ランドローバー レンジローバー HSE D350■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)
AJAJ会員・自動車技術会会員・東京都医師会「高齢社会における運転技能および運転環境検討委員会」委員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来48年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。




