2025年10月に発売されたヤマハの新型スーパースポーツ『YZF-R9』に試乗。親しみやすさと高いパフォーマンスがバランスした、このカテゴリーの新風をワインディングで楽しんだ。
◆スーパースポーツ界隈の変化が生んだ「YZF-R9」
スーパースポーツというカテゴリーをざっくり区分すると、1000cc前後のリッタークラスと600cc前後のミドルクラスに大別される。前者がスピードの象徴にして頂点だとすると、後者はそこへ至るためのトレーニング機といったところで、長い間、それが機能していた。
ただし、それはレース界の話であって、大多数が楽しむ公道や趣味としてのスポーツ走行に当てはめると、少々様相が異なってくる。200ps超のパワーを扱えるかどうか、ド派手なウイングレットの効果を体感できるかどうかといった実利はさておき、ユーザーがより速いもの、より凄いものに魅力を感じるのは当然だからだ。
結果、リッタークラスのスペックが留まることなく引き上げられてきた一方、ミドルクラスのマーケットは縮小。多くのモデルが進化を止めただけでなく、量産市販車(公道用)がカタログ落ちしているのに、わずかな台数のレースベース車(サーキット専用)だけが少量生産されるといういびつさが続いた。
ヤマハ YZF-R6 レースベース車 2026年モデル
そんな中、ミドルクラスのスーパースポーツを取り巻く、かつての排気量区分(4気筒600cc以下/3気筒675cc以下/2気筒750cc以下)にとらわれないモデルがドゥカティやトライアンフ、MVアグスタから登場し始めた。以前はまずレースのレギュレーションがあり、それに合致させた市販車が発売されていたが、近年は市販車のスペックに応じて性能調整をかける方式に変化。これによって、車両の自由度が拡大することになった。この流れは、ヤマハにとってもメリットがあった。
長らくこのクラスをけん引してきた『YZF-R6』は、レッドゾーンがノーマル状態で1万6500rpmから始まる超高回転型エンジンを搭載している。フラッグシップである『YZF-R1』とは異なるタイプのスキルを要するピュアスポーツゆえ、乗り手を選ぶ上に、すでに量産市販車は存在しない。言わば、空白地帯と化していたところに、幅広いステージとユーザーに対応する「YZF-R9」を送り込めたからだ。
◆誰もがヤマハハンドリングの一端に触れられる
ヤマハ YZF-R9YZF-R9は、開発テーマのひとつに「アクセシブル」を掲げている。「親しみやすさ」や「とっつきやすさ」という意味で、過度な前傾を強いられない上体姿勢、YZF-R1/R6/R7のどのモデルよりも低いシート高、近しいところにあるハンドルとシートの位置関係、そしてゆとりあるステップのレイアウトなど、ライディングポジションだけでも、テーマに忠実なことがわかる。
シートにまたがり、ハンドルに手を伸ばした瞬間こそ、燃料タンク上面の幅と高さを感じるが、ステップに足を乗せるとタンク下部が大きく絞り込まれ、さらに内側へ追い込まれたメインフレームが下半身にぴったりとフィット。慣れ親しんだモデルのような馴染みがそこにある。
ヤマハ YZF-R9この感覚を後押しするのが、CP3と呼ばれる888ccの水冷3気筒エンジンだ。低回転域の力強さ、中回転域のリニアさ、高回転域の刺激的なパワーフィールが境目なくナチュラルに変移。とりわけ、他のCP3搭載モデル(XSR900やMT-09など)よりも際立っているのが、スロットル微開域のスムーズさで、決して広くないワインディングで繰り返す、撮影のためのUターンも難なくこなすことができる。
スロットルをどんどん開けていきたくなる、そして実際にそれができてしまう加速方向の過渡特性もさることながら、そこから一気に減速に転じる時、あるいはそこから少し開けたパーシャル+αの状態でトラクションを探る時の意のまま感が秀逸だ。
ヤマハ YZF-R9エンジン回転数を思う領域に留め、右手の微細な動きひとつで走行ラインやバンク角、車体姿勢をコントロール下における手の内感はちょっとした快楽であり、おそらく誰もがヤマハハンドリングの一端に触れられるのではないだろうか。
もちろんこれは、エンジンだけでは成り立たない。重力鋳造によって成形され、ヤマハの歴代スーパースポーツ中、最軽量(約9.7kg)に達したアルミデルタボックスフレームと、2025年型YZF-R1と並行して開発された同構造(セッティングは異なる)のKYB製前後サスペンションが、ハンドリングの軽快感と安定感に寄与。限りなく50:50に近づけられた前後重量配分の効果も手伝って、車体の動きをつぶさに感じ取ることができる。
ヤマハ YZF-R9◆「YZF-R7」と「YZF-R1」の間を埋めるだけではない
ここまでのことをまとめると、やはり「アクセシブル」というひと言に帰結するのだが、それならすでに、『YZF-R7』がその役割を担っている。YZF-R9が果たすべきは、YZF-R6のポジションを埋めることだが、その点についてもすでに成果が出ている。
最大の成果は、2025年のワールドスーパースポーツ選手権における活躍で、総合ランキング1位と2位を獲得。デビューイヤーで王座に就くという、これ以上ないものになった。YZF-R9の開発がスタートした時、具体的な指標のひとつとして、「中低速サーキットではYZF-R6を上回る」というものがあったという。
ヤマハ YZF-R9言い換えると、「高速サーキットではまだ難しいかも」という意味を含んでおり、実際、開幕戦になった超高速レイアウトのフィリップアイランド(オーストラリア)では、前年のYZF-R6のタイムに及ばなかった。ところが、世界屈指のアップダウンを持ち、やはり高速サーキットに属する第2戦ポルティマオ(ポルトガル)では、早くもこれをクリア。そのポテンシャルをアピールしてみせた。
YZF-R7より遥かに限界が高く、YZF-R1より圧倒的に開けやすく、YZF-R6がぎりぎりの走りで絞り出してきたタイムを幅広い回転域から引き出せる。それがYZF-R9というモデルであり、ワインディングでそのポテンシャルを垣間見られるのだから、ちょっと底知れない。YZF-R7とYZF-R1の間を埋めるだけでない。YZF-R9はそれ単体でひとつの頂点であり、スーパースポーツの価値を変える存在と言える。
ヤマハ YZF-R9■5つ星評価
パワーソース:★★★★★
ハンドリング:★★★★
扱いやすさ:★★★
快適性:★★★
オススメ度:★★★★
伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。




