【日産 GT-R 最終試乗】これほど“和風”なクルマはない…中村孝仁

日産 GT-R T-spec
日産 GT-R T-spec全 35 枚

R35ニッサン『GT-R』が2007年に登場したのは、当時のCEOだったカルロス・ゴーンが、それを推進するように命を下したからだそうである。

【画像】日産 GT-R T-spec

開発の指示が出たのは2002年。5年の歳月をかけて市場投入されたことになるが、当時カルロス・ゴーンが出した指示はただ一つだけ。それは「リアのランプを丸くしろ」だったという。しかも、あとは金に糸目をつけず最高のクルマを作るという、フリーハンドが開発陣に与えられた。

日産 GT-R T-spec日産 GT-R T-spec

広告宣伝もユニークで、自動車雑誌や一般メディアへの広告展開は一切なく、漫画とゲームによって訴求するという、新しい手法が取られた。ターゲットも一つだけ。ポルシェ『911ターボ』と同等の性能を持つこと。そしてニュルブルクリンク北コースで、ポルシェのラップタイムを破ることだったそうだ。結果、GT-Rはニュルブルクリンクを7分38秒54で走り切り、当時のタイムとしてはポルシェを1秒強上回ったのである。

あれから18年、R35のコードネームを持ったGT-Rは、2025年8月をもって生産を終了した。そんな最後のGT-Rを惜別の念も込めて試乗してみた。

◆今となってはその高額さだけが目立つが

日産 GT-R T-spec日産 GT-R T-spec

実は、個人的には2017年を最後にGT-Rには試乗していない。このクルマは外見をほとんど変えることなく、それでいて着実な進化を遂げて今日に至る。搭載された3.8リットルV6ツインターボエンジンは、8年前も今も変わらない。日産史上最強のパフォーマンスを誇り、ボルグワーナー製ツインクラッチトランスミッションと、トランスアクスル方式の合体は、当時世界初のものだった。

2017年当時1000万円を超える価格を、その完成度からお安いと表現した。しかし、8年の歳月は、最終モデルの価格をその倍、すなわち2000万円を超える2035万円にまで引き上げた。デビュー当初はそのパフォーマンスのわりに価格が安いこと、そして狭いながらも+2のリアシートを備え、日常的に使え、いざとなるとその本領を発揮できるマルチな才能を備えた、バリューフォーマネーなクルマに思えたものだが、今となってはその高額さだけが目立つクルマになってしまったようにも感じる。

とはいえ、改めて乗ってみるとまさに日本刀のような(それで物を切ったことはないけれど)切れ味の鋭さといおうか、走るための性能を純粋に突き詰めたパフォーマンス志向のクルマであることがよくわかる。そんなわけだから、今時のクルマが備えているインフォテイメント系はすっかり置き去りにされ、そうした面ではプリミティブな一面を見せるのだが、こと走る、曲がる、止まるという自動車の根源的な要素は、とことん突き詰められた、まさにドライビングマシーンとしての側面を見せてくれる。

◆ハンドリングとブレーキ性能に感嘆

日産 GT-R T-spec日産 GT-R T-spec

日産本社の地下駐車場から出すとき、Pタイルのような処理が施された床面から、ほんの僅かだけステアリングを切っても、その床面とタイヤのゴムが擦れるギューっという音が、静まり返った地下駐車場に響き渡る。

V6エンジンとツインクラッチトランスミッションのギアノイズが織りなすサウンドは、少なくとも低速域では結構煩わしい。というか、街中を他車の流れに乗って走る限りは、全てこの煩わしさと付き合わなければならないから、その部分だけを取り出すと、決して良い印象ではない。しかし、そんなスピード域でさえ、切れ味鋭いハンドリングと、すさまじいストッピングパワーを見せるブレーキの性能には、感嘆の溜息を漏らさずにはいられない。

日産 GT-R T-spec日産 GT-R T-spec

速く走ることは、パワーのあるエンジンさえあれば可能になるが、それを制御して止めることは速く走ること以上に大切で、この種のクルマを作り出すメーカーはそれがよく分かっているから、もちろん速いは当然として、それ以上に見事にクルマを止めてくれる術を身に付けている。本当はこれが素晴らしいことだと思うわけである。

570psのパフォーマンスは、それ自体をすべてリリースすることは一般道では不可能である。高速上の空いた間隙を縫って、一鞭入れると、中低速域ではあれだけ重そうに走っていた車が、まるでリニアカー(これも乗ったことが無いのでわからないが)よろしく、路面から少しだけ持ち上がって、何のストレスもなく加速していく様を見せつけてくれる。

◆乗り心地のよさに「心外です」

日産 GT-R T-spec日産 GT-R T-spec

2017年に試乗した時、「乗り心地が良くなった」といって、田村宏志チーフプロダクトスペシャリスト(現・日産スポーツカー ブランドアンバサダー)から「心外です」といわれたのを思い出した。

元来GT-Rは、その性能を堪能するために、足回りはとびっきりに引き締められている。にもかかわらず、乗り心地が良いという言葉が出てくる背景には、究極的に剛性が確保された骨格に対し、鋭敏かつしなやかに動くサスペンションがマッチした結果、このような乗り心地が実現できたからであって、足をソフトにした結果で乗り心地が良いわけではない。

だから「心外です」ということになったのだが、当時は高速を往復しただけの試乗で、路面状況のよくない街乗りをした結果ではない。その良くない継ぎ接ぎだらけの路面を走ってみると、やはり引き締められた足なりのクルマの挙動を示すのだが、『フェアレディZ』と違って、ステアリングのワンダリングが皆無であるところに凄さの一端を見た気がした。

◆GT-Rほど“和風”なクルマはない

日産 GT-R T-spec日産 GT-R T-spec

正直言ってお世辞にも静粛性という言葉とは無縁のクルマである。とりわけ強い音源はロードノイズだ。リアに285/35ZRF20というタイヤを履き(フロントは25/40ZRF20)、4輪駆動のトラクションを備えるから、4輪の掻くロードノイズは相当なもので、実はこれが一番うるさく、駆動系(エンジン、トランスミッションなど)を除くそれ以外の室内に侵入する音は、ほぼ遮断されている。

考えてみれば、GT-Rほど和風なクルマはないような気がする。ポルシェに匹敵する性能を持ち、ポルシェよりはそれなりに広そうなリアシートを持ち、かといって早朝にエンジンをかけるときなど、他のメーカーの高性能車のように、火が入った瞬間のバォーンと大きな咆哮を奏でるでもなく、実に控えめで奥床しい。

でも解き放てば凄まじい性能を惜しみなく発揮する。しかも、フェラーリやポルシェのようにスポーツカー然としたどちらかといえば派手目の出立ではなく、街に埋没すれば目立たない和風美人のような大人しさすら持ち合わせる。

8月に生産終了した時、現CEOのイヴァン・エスピノーサ氏は、次のGT-Rを示唆したという。願わくはこれが最後のGT-Rでないと良いのだが…。

日産 GT-R T-spec日産 GT-R T-spec

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員・東京都医師会「高齢社会における運転技能および運転環境検討委員会」委員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来48年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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