レスポンスセミナー「CES2026調査報告~メガトレンドの変遷と車載センサー・AIの新潮流~」では、CES調査を続ける日本政策投資銀行 主任研究員 青木崇氏が、2026年トレンド動向レポートと自動車業界への提言を行う。
青木氏に、セミナーの見どころ紹介も兼ねて2026年の動向分析と現地レポートをお願いした。
フィジカルAIと自動車産業
私(青木)は、今回でCES取材は10年連続になります。その間、世界のメガトレンドの変遷、CESの主要プレーヤーの変遷を目の当たりにしてきました。CESの歴史は、家電ショーから始まり、コンピュータ・ITの時代を経て、自動車(CASE)へと変わってきました。現在は、さらにAIやロボティクスにシフトしています。
前回のCES2025ではNVIDIAがAIに関する基調講演を行い、AIのステージを4つの段階に分けて説明しました。第1ステージが音声認識や画像認識のAI、第2ステージが生成AI、第3ステージがエージェントAIです。そして、第4ステージが、「フィジカルAI」と定義されました。
フィジカルAIのステージとは、AIに物理学の要素(重力、加速度、速度、摩擦係数等)を学ばせ、工場や生活環境におけるロボットや自動運転などに実装していく段階のことです。
自動車産業でもAI・SDVがトレンドに
これらのトレンドが、26年の自動車産業にどのようにかかわってくるのか。欧州はじめグローバル全体の動向をみると、EVかHVかの議論は下火になっている現状があります。
昨年11月に、ドイツの金融機関、業界団体、商工会議所、欧州のシンクタンクなどとも意見交換をしました。欧州の社会が抱えている問題、脅威を聞いてみると、エネルギー問題、ロシアの脅威、中国の脅威の3つが共通して挙がります。エネルギーの高騰は生活を直撃するだけでなく、ドイツ国外や米国へ移転する企業が出てきており、産業の空洞化につながります。また、現地ではロシアが関与しているとされるドローンの頻繁な飛来により、空港が閉鎖されるなど、日常的な脅威になっています。中国に対しては、政府の過剰な補助金を受けたEVの参入や、レアアースや半導体の一方的な供給停止などにより、中国はもはや信頼できるパートナーではないとして、選択的なデカップリングに移行するという決断になっています。
こうした現状から、自動車業界では、EV、HVの議論からSDVやAI、セキュリティの議論に移っています。車両ハードやバッテリー、コストを競争軸にもってきても中国には勝てない。かといって全面的な排除もできない。勝負はEVではなくその先のSDV、ということになっています。
AIやSDVといった上位レイヤでの付加価値をいかにつけるか。セキュリティやデータの保護(データ主権)を競争領域にしようとしています。
地政学とエネルギー問題から産業インフラの転換へ
もうひとつのポイントは防衛産業です。自動車とはあまり関係ないようですが、ロシアの脅威もありドイツでは防衛産業が成長分野となっており、自動車メーカーから防衛大手のラインメタルなどに転職する人が増えています。ドローンやロボット産業が拡大するにつれ、大手OEMはAI活用を増やしたり人材を強化したりしていますが、同時に大規模なリストラを行っていることも背景にあります。
さきほどの中国デカップリング政策にもかかわることですが、地政学的な問題、経済安全保障の観点でも、CESで紹介されるロボティクスやバイオマニュファクチャリングは注目すべき分野だと思います。
なぜバイオマニュファクチャリングかというと、アメリカでは、MAGA(Make America Great Again)の取り組みのひとつに、バイオマニュファクチャリングの創造と強化を掲げているからです。バイオテクノロジーではなく、「マニュファクチャリング(製造)」という単語を敢えて使っていることに注目してください。北米の東西沿岸部は金融やITという産業があります。相対的に取り残されたラストベルトや中西部の復興、いわば地方創生としてMAGAを考えたとき、様々な微生物が生息する中西部の広大な自然、土地を生かしてバイオ素材、バイオ燃料の一大拠点とします。狙いは、石油由来の素材、製品を藻類や植物などバイオ(微生物)由来のものに転換し、その一大生産拠点とすることです。昨年のCESで米デルタ航空の基調講演でも、微生物による機体の修復が言及されました。
CES2026では2年ぶりにシーメンスが基調講演に帰ってきます。前回はインダストリアル・メタバース(製造業におけるデジタルツイン、AR、XR技術)についてソニーと協業を発表しています。それがどのように進んだのかも興味があります。
CES2026のテクノロジートレンド
主催者CTAから今年のテクノロジートレンドが発表されました。今年は、Intelligent Transformation、Longevity、Engineering Tomorrowの3つが挙げられました。Intelligent Transformationでは、AIが中心になります。新しい世界は、かつての「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」から、AI主導の「インテリジェント・トランスフォーメーション(IX)」の新時代へ移行し、AIが単なるツールから、インフラやパートナーへとフェーズが変わったことが強調されました。私は、今回のCESがこれまでで一番衝撃があったと思っています。その他のトレンドも含めて詳細は講演でご紹介します。



