レスポンスセミナー「CES2026調査報告~メガトレンドの変遷と車載センサー・AIの新潮流~」では、沖為工作室合同会社 Founder CEO沖本真也氏が、CES2026の現地調査をもとに、SDVについて車載センサーや各種デバイス技術に着目した講演(CES2026報告:モビリティ×AIと車載センサーの最新トレンド)を行う。
車載センサーは、自動運転の目や耳を担う重要コンポーネントであり、カメラ、LiDAR、ミリ波レーダー、超音波センサーといった各種入出力デバイスは、安全管理や機能を決める重要な要素だ。さらに、AIエージェントの実装や健康モニタリング、エンターテインメント領域においても、カメラ、赤外線センサー、温度センサー、レーダーの活用が広がっている。
講演に先立って、沖本氏にCES2026の概要報告をお願いした。

CES2026メイン会場「ラスベガス・コンベンション・センター LVCC」
CES2026の注目技術トレンドは4つ
毎年1月上旬に開催されるCESでは、関連業界に多大な影響を及ぼす新製品の発表や技術展示が行われます。最新の技術・市場トレンドを俯瞰し、業界をマクロ視点で捉える上で、欠かすことのできないイベントです。
しかし、展示、発表される個別の技術は最先端のもの、各社が注力する分野の先行技術もあります。業界の技術動向や将来を掴むためには、個別技術の調査が有効です。長年、製造業やサプライヤーの技術動向を調査している側としては、各論技術から市場動向を分析するミクロ視点の情報にも注目すべきと考えています。
今回のCESで注目した点は4つあります。1つ目は、AIと統合され「文脈を理解する知能」へと進化するセンサー技術。 2つ目は、E/Eアーキテクチャの刷新で競うSDVの付加価値戦略。 3つ目は、乗る人を包み込むようなパーソナライズされたUX。そして4つ目は、車両と街が知能を補完し合うエッジとインフラの融合です。
セミナーでは、これらの視点でCES2026から得られた知見や情報を共有しながら、国内自動車産業の戦略についても考えてみたいと思っています。
コモディティ化を超えて―車載センサーが拓く新たな価値
SDVや自動運転技術において、欠かせないのはセンサー技術です。近年のLiDARはコモディティ化が進み、高性能化しつつも低価格化が進んでいます。2025年12月のLiDAR大手のLuminarの連邦破産法第11章の適用申請は、象徴的な出来事でしたが、業界では個別の性能向上より、いかにAI統合できるか、E/Eアーキテクチャに統合できるかが差別化ポイントになっています。
このような競争軸の変化は、サプライヤーやOEMの戦略にも影響を与えています。
例えば、コンチネンタルはオートモーティブ事業を「オモビオ」として独立させ、SDV時代の開発体制を刷新し、アステモはソフトウェア・クラウド開発機能を切り出し、「アステモサイプレモス」という新会社・ブランドを立ち上げています。ボッシュなどは半導体寄りの戦略で、統合ECUやHPC、自動運転に対応するため、チップの電力効率や演算機能の強化・特化する戦略をとっています。
OEMは、BMWの「ノイエ・クラッセ」に象徴される次世代車両コンセプトを積極的に具現化し、保有する技術とソリューションの総合力を示しています。フロントシールド下部を活用したパノラミックディスプレイと、物理スイッチとの最適なインタラクション設計を組み合わせ、安全モニタリングや運転支援機能の高度化を追求しています。
さらに、自動車業界では、温度センサーによる体調推定や非接触バイタルモニタリングといったデジタルヘルス技術の車室空間への統合が進められており、乗員の安全性と快適性を両立させる新たな価値創出に向けた取り組みが加速しています。
SDV時代のUI/UX革新とインフラ要件
UI/UX技術は主に車室内インテリア領域で進化を遂げています。各社はインフォテインメントシステムにおいてビッグテックとの連携を強化し、Android OSやHarmony OSなどの採用が進んでいます。音声認識の枠を超え、AIによるコックピット全体の統合的な操作性が求められるようになり、シート機能や空間設計の進化もUXに直結しています。SDVの普及に伴い、シート、ディスプレイ、空調、音響などがリビングルームと共通する要素を増やし、車室空間は「移動する生活空間」へと変貌しつつあります。
一方、これらの機能をサービスとして成立させるためには、クラウドを構成するデータセンター、モバイルネットワーク、EV充電網といったインフラ、そしてそれを支えるセキュリティ技術が不可欠です。こうした潮流を背景に、CES2026での現地調査と企業取材を通じて得られた知見を以下に整理します。
コモディティ化と競争軸の変化
自動運転において不可欠なセンサー技術、特にLiDARはコモディティ化が進み、低価格化が加速しています。高付加価値化の道も模索されていますが、イメージングレーダーとの競争は激化しています。こうした環境の中、CES2026ではHesai TechnologyやRoboSenseなどは従来通りデモを行っていました。特にRoboSenseはLiDAR単体ではなく、カメラやIMUをハードレベルで統合させた「Active Camera」に象徴される、高度なシステム統合をアピールしていました。特筆すべきは、彼らがVLA (Vision-Language-Action) モデルの開発まで行っている点です。これは、デバイスを「距離測定器」から、周囲の文脈を読み取り行動へ繋げるAIデバイスへと再定義する動きと言えます。RoboSenseは、単体の性能向上よりも、AIやE/Eアーキテクチャとの統合の中で、いかに付加価値を生めるかで勝負をしていると理解しています。

(RoboSenseブースの展示風景)
車室空間の「同質化」と、フィジカルAIによる体験価値の逆転
BMWが提唱する「ノイエ・クラッセ」の集大成である「iX3」は、洗練されたインテリアとデジタルが高度に融合し、自動車のひとつの完成形を示していました。しかし、今回のCESを通じて痛感したのは、各OEMが描く「未来の車室空間」の急速な同質化です。これはハードウェアによる差別化が限界を迎え、勝負の土俵が「AIがいかに人間を理解し、先回りして快適さを提供できるか」という知能化の領域へ移行したことを物語っているかもしれません。
このパラダイムシフトの兆しは、CES 2026のベネチアン・エキスポに設けられたスタートアップエリアで一層鮮明になっていました。そこでは、フィジカルAIの概念が従来のロボティクスを超え、日常生活に存在するあらゆる物理インターフェースへと浸透し、AIが現実世界で認識・推論・行動する未来像が具体的に示されていました。

(Venetian Expo会場の様子)
AIで髪をスタイリングするとか、AIでモニタリングして睡眠を改善するベッドとか、AIプライベートシェフとしてのキッチン器具、または体につけて筋肉の疲れを抑制する機器など、あらゆる製品が「人間理解」を軸に再定義されつつあるこの潮流の中で車室空間も無関係であることはできません。実際にソニー・ホンダモビリティのAFEELAは、従来とは異なる視点で評価すべき存在となっています。AFEELAを「動くエンタメエージェント」と捉えるならば、その方向性は自動車の連続的な進化の線上にはありません。ソフトやAIによる体験価値の逆転を志向するその姿勢は、フィジカルAI登場後の現在、より切実な時代性を帯びて響きます。

(ソニー・ホンダモビリティ:Entertainment Suite 展示エリア)
また、CES会場で例年ハイライトとなる車載ディスプレイ技術も、もはや単なる「表示装置」ではなく、UIと直結して乗員体験を左右するコアデバイスとして、AIとの相関の中でその真価を問われ始めています。
都市インフラとしてのSDV
UI/UXの領域では、今やAIを基盤とした一貫性のある操作性が求められています。ここで極めて重要な役割を果たすのが、「インフラ」の存在です。



