衆議院が解散し、選挙が近づいた。今後、選挙カーが街中で候補者の名前を繰り返し流すことになる。多くの有権者が「なぜ政策を語らず、名前ばかり連呼するのか」と疑問を抱くが、その背景には公職選挙法の規定がある。
公職選挙法は、選挙運動を厳格に管理している。「選挙運動」とは、特定の候補者の当選を目的として有権者に投票を働きかける行為を指す。いっぽう「政治活動」は、政治上の目的をもつ広い活動であり、選挙運動とは区別される。政治活動は、政治上の目的をもって行われる広い活動で、そこから選挙運動を除いたものだ。
選挙カーでよく行われる「名前の連呼」は、同法第140条の2が定める「連呼行為」に該当する。連呼行為は、原則禁止されているが、街頭や選挙運動用自動車の上で、午前8時から午後8時までの時間帯に限り認められている(細則あり)。
これに対し、政策や政見を述べる行為は、同法第164条の5が規定する「街頭演説」として扱われる。この条文では、街頭演説は「演説者がその場所にとどまり」、または「停止している選挙運動用自動車の車上及びその周囲」で行なうものとされている。走行中に車上から街頭演説を行なうことは想定されていない。政策論や詳細な主張は停止した状態で行なう、という法解釈になる。
衆議院を解散した高市首相(1月23日)
このため、走行中の選挙カーから詳細な政策を語ることは、街頭演説の要件を満たさないと解釈される。実務上、走行中に認められているのは、候補者名や政党名などの短いフレーズを繰り返す連呼行為が中心となる。選挙カーの速度と文章にもよるが、移動しながらでは政策を言い切れない恐れもある。
つまり、選挙カーが「名前しか連呼しない」現象は、候補者の戦略というよりも、選挙運動の方法を限定する法制度の結果といえる。選挙運動の公平性と秩序を確保するためのルールが、結果として、街中に響くのが政策ではなく候補者名となる構造を生んでいる。




