ルネサスは2月18日、次世代の車載E/E(電気/電子)アーキテクチャの中核となる高いAI処理能力とチップレット対応機能を搭載した車載マルチドメインECU用SoCを実現する3つの技術を開発したと発表した。
2月15日から19日まで米国サンフランシスコで開催中の「国際固体素子回路会議 ISSCC 2026」にて発表した。
SDV(Software-Defined Vehicle)時代の車載用SoCには、複数のアプリケーションを同時に実現するための高性能化とチップレットによる柔軟な拡張性、および車載用として機能安全要件への対応が求められる。また、セントラルコンピューティングを担うマルチドメイン用SoCは大規模化が進み、車載品質の確保が課題となる。さらに、SoCが高性能になればなるほど消費電力も増す中で、電力効率の向上と安全性の両立も求められる。
車載向けSoCにおける機能安全要求に対応するため、チップレット構成でもASIL Dをサポート可能とするルネサス独自の新たなアーキテクチャを開発した。標準のダイ間通信規格UCIeインタフェースに独自のRegionIDメカニズムを組み合わせることで、多数のアプリケーションが同時動作する環境でもハードウェアリソースのアクセス干渉を防止し、Freedom from Interference(FFI)を実現可能にした。
従来のUCIeにはRegionIDをダイ間で伝送する機能がない。そこでルネサスは、RegionIDを物理アドレス空間にマッピングし、UCIe内の領域にエンコードして伝送する方式を開発した。これにより、MMU(メモリ管理ユニット)やリアルタイムコアでの安全なアクセス制御が可能になり、チップレット間でも機能安全の要件を満たすことができる。また、プロセッサからメモリバスへの帯域を維持する設計により、UCIeの評価では51.2GB/sの高速通信を達成し、SoC内部の伝送速度上限に迫る性能を確認した。本技術により、車載向け高性能SoCの拡張性と安全性を両立する。
SDV時代でも車載品質は不可欠。そこでルネサスは、3nmプロセスを採用したSoCにおいて、AIを処理するNPU(Neural Processing Unit)性能の向上を実現しつつ、車載品質を確保する設計を実現した。近年、NPUが大規模化し、面積は前世代比で1.5倍に増加している。これにより、共有クロック源から各回路へ至るクロックレイテンシ(遅延)の増大が課題となっていた。
この問題に対し、従来モジュール単位で配置していたクロックパルスジェネレータ(CPG)を分割し、サブモジュール階層にmini-CPG(mCPG)を配置する設計へ刷新した。これによりクロックレイテンシを大幅に低減し、タイミング要件を満たすことに成功した。
一方で、mCPGの多層化はテストクロックの同期を困難にし、車載向けで不可欠なゼロディフェクト実現の妨げとなる。そこでルネサスは、階層型CPGアーキテクチャにテスト回路を統合し、ユーザークロックとテストクロックの単一経路化を実現した。また、テストモードにおいても上位・下位mCPGを同一クロック源で同期させる設計により、単一位相として一括調整可能とした。これにより、大規模SoCにおいてもゼロディフェクトレベルに向けた品質確保が可能となり、SDV向け次世代車載SoCとして求められる高信頼性を実現する。
車載向けSoCの高性能化を実現すると同時に電力効率と安全性を両立するため、90以上の電源ドメインを用いた高度なパワーゲーティング技術を開発した。これにより、動作状況に応じて数mWから数十Wまで精密な電力制御が可能になる。
さらに、プロセス微細化に伴う電流密度の上昇に対し、IRドロップ(電圧降下)を抑制するため、パワースイッチ(PSW)をリング型と行配置型の2種類に分割した。電源投入時にはリング型PSWがラッシュ電流を抑え、続いて行型PSWがドメイン内インピーダンスを均一化することで、従来比でIRドロップを約13%改善した。
また、機能安全規格ASIL Dの要件を満たすため、DCLS(Dual Core Lock Step)構成では、マスターとチェッカーを独立したパワースイッチとコントローラで制御する。これにより、片側故障時でもロックステップ動作による異常検出が可能である。さらに各PSWのゲート信号をループバック監視し、異常時のOFF検出を実現している。電圧監視には温度変動に強いデジタル電圧モニタ(DVMON)を採用し、エージング耐性を1.4mV向上した。本技術により、電力効率と安全性を兼ね備えた高性能な車載用SoCの実現に貢献する。
なお、これらの技術はルネサスの車載マルチドメインECU用SoC「R-Car X5H」に採用されている。ユーザーは、R-Car X5Hを使用することにより、自動運転やデジタルコクピットなど複数のアプリケーションを動作させながら安全性を確保することで、SDVの実現を加速し将来の進化に貢献する。




