将来宇宙輸送システム(ISC)は、宇宙戦略基金事業(第二期)「有人宇宙輸送システムにおける安全確保の基盤技術」の実施機関に選定されたことを踏まえ、慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 白坂成功研究室(慶應SDM)と共同研究を開始した。
また、異常予兆検知に関する知見を有する有人宇宙システム(JAMSS)に対して、一部研究を委託予定である。
ISCは、2040年代に単段式の宇宙往還機「ASCA 3」による宇宙輸送システムの確立に向け、ASCA 1シリーズによる2028年頃の小型衛星打ち上げの事業化・事業継続ならびに、ASCA 2シリーズによる2030年頃の有人安全技術の実証を目指している。
こうした開発の中で、ロケットそのものの安全性を従来の無人の輸送システムから有人の輸送システムに向けて大きく向上させる必要があるとともに、万が一の場合に備えたロケット搭載用安全システムとして異常検知機能および緊急離脱機能が求められる。
安全な有人宇宙輸送システムを構築するための開発手法およびそれを可能にするプラットフォーム整備について、ISCでは、複雑なシステムの中でも「安全性」「信頼性」「継続運用性」を確保するための設計・検証手法(いわゆる、ディペンダビリティやアシュアランス)に深い知見を持つ慶應SDMと共同研究することでより高い安全性を実現するシステム開発能力を獲得するとともに、航空機開発の安全基準に準拠しつつAIやアジャイル開発を取り入れた新しい開発手法の構築を目指している。
またこれらの開発全体をデジタル上でモデル化し、トレーサビリティを確保するとともに解析を含む作業を自動化させることで属人化を減らし、効率化を図る。ただし、レビューの効率化やAI適用の検証など解決すべき技術課題も存在する。初期段階では従来型の手作業を行いながら、ツール整備の進展に応じて段階的に移行し、宇宙・航空・自動車開発やAIの専門家と連携して開発基盤を整備していく。
共同研究機関は、ISCと慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科(SDM) 白坂成功研究室(白坂研)。研究テーマは、安全なシステムを構築するための開発手法およびそれを可能にするプラットフォーム整備。主な研究内容は、安全が重視されるシステム開発のVモデルにおけるアジャイル開発適用、有人安全システム開発手法におけるDEOSアーキテクチャの組込、プラットフォームによるシステム開発の体制及び運用、成果まとめ、である。
DEOSアーキテクチャとは、「DEOS(Dependability Engineering for Open Systems)」という、環境や要求が変化し続ける中でも、システムが信頼できる状態を保つための知識・技術体系である。DEOSは、変更や進化を前提としたシステムにおけるアシュアランス、説明責任を果たす為のDEOSプロセスと、そのプロセス実施を支援する為のDEOSアーキテクチャを含む。宇宙輸送機のように長期にわたり運用され、アップデートを繰り返すシステムの安全性と信頼性の確保に有効と考えられる。
破局的事象に至る状況を早期にかつ正確に検知する技術の確立について、構築する安全システム開発手法により不具合リスクを低減しても、物理的現象や外部要因による破局的事象は完全には防げない。ISCは、国際宇宙ステーションの運用においてテレメトリデータによる異常発生状況判断の知見を有するJAMSSとともに、有人宇宙輸送システムにおける異常検知技術の獲得を目指す。
異常発生後にいかに早く離脱できるかよりも、いかに早く「異常の予兆」を検知するかを重視し、複数センサのデータパターンをAIで学習させることで、異常を早期・正確に判断する技術の開発を目指す。これにより離脱時間の確保あるいは離脱に至る状況を事前に回避することが可能となるとともに、学習パターンにより誤検知センサの特定の実現を目指す。さらにAIのブラックボックス性を補うため、AIの予測とフォーマルメソッドを組み合わせて検証可能な仕組みを導入する。まずは燃焼試験設備及びシミュレータを用いてエンジン燃焼に対する予兆検知を実証していく。
フォーマルメソッドとは、数理的な論理やモデル検証を用いて、システムの安全性や正しさを証明する手法である。AIが「なぜその判断をしたのか」を説明しにくいという課題に対し、フォーマルメソッドを組み合わせることで、AIの出した判断結果を数学的に検証し、信頼性を担保することができる。
研究機関はISC、委託予定先はJAMSS。研究テーマは、破局的事象に至る状況を早期にかつ正確に検知する技術の開発及び実証。主な研究内容は、異常予兆検知の実証対象の選定及び目的変数、独立変数の設定、ランダムフォレストを用いた状態予測AIによる燃焼状態の学習、フォーマルメソッドを用いた学習データによる異常判定、成果まとめ、である。
ランダムフォレストを用いた状態予測AIとは、「ランダムフォレスト(Random Forest)」という、複数の決定木(Decision Tree)を組み合わせて高精度な予測を行う機械学習(AI)アルゴリズムである。多様なセンサーから得られるデータを同時に学習・解析し、異常やその兆候を高い精度で検知することが可能。ISCではこの技術を活用し、ロケットエンジン燃焼の状態変化をリアルタイムで予測するAIアルゴリズムを構築する。




