『グランデパンダ』はポスト・フィアット500なのか!? イタリア的合理主義が生んだ底抜けに「ハッピー」な見た目と走り

フィアット グランデパンダ(EV)
フィアット グランデパンダ(EV)全 33 枚

ここまで問わず語りに、しかも饒舌に語りかけて来るデザインも珍しいのではないか。この冬、トリノで試乗してきたフィアット『グランデパンダ』のことだ。

【詳細画像】フィアット グランデパンダ

正確には「フィアット・パンダ」としては、みんな大好きジウジアーロ・デザインの初代から4世代目にあたる。加えて「グランデパンダ」を名のる以上、これまでの3世代のパンダより、ひとクラス上のBセグメントSUVクロスオーバーでもある。

◆これでもかと散りばめられた「FIAT」&「PANDA」ロゴ

フィアット グランデパンダ(MHEV)フィアット グランデパンダ(MHEV)

カクカクしてはいるが無駄にイカついばかりの車が多くなった昨今、スクワークル(四角と丸)に陥ることなくグランデパンダは、カクカクしながらもファニーなプロポーションはきっちり受け継いでいる。一見して水平基調のようで、フロントに向かって緩やかにボンネットラインとウエストラインが下がっていくウェッジシェイプは、歴代パンダに共通するところ。そんな風にして小生意気そうな貫禄を出すのは、序の口といったところだ。

フロントとリアのドアを大胆にまたいで、「PANDA」と巨大なレタリングをエッジラインと一緒に入れてしまうプレス加工もユニーク。そしてウレタンの前後フェンダーアーチ上端には、1980sフィアットを思わせる斜めの5本線、つまりファイブ・バー・ロゴがあしらわれている。サイドビューでもうひとつ注目は、リアウィンドウの後端、縦溝のプラスチックが騙し絵になっていて、角度を変えると「FIAT」か「////」が現れるという、なかなか凝った仕掛けだ。さらにルーフバーにもPANDAロゴ、ホイールのセンターキャップにもFIATロゴが入る。

フィアット グランデパンダ(MHEV)フィアット グランデパンダ(MHEV)フィアット グランデパンダ(MHEV)フィアット グランデパンダ(MHEV)

話の長いイタリア人に捕まったような気分になったところで、フロントに回ってみよう。ここにもグリル中央ではなく左寄せで、LEDライトと馴染んだピクセル模様に交じってFIATロゴがある。さらにリアも、左右非対称仕上げにこだわったようで、ハッチゲート上の左側にプレスでFIATの特大ロゴ、リアインサートにPANDAの穴埋めロゴが認められる。

大小巧みにこれだけ多くのロゴが配されているにもかかわらず、不思議と煩くなく、バランスがいいことにちょっと驚く。グランデパンダが小洒落ていながらもスカしているというより、底抜けに陽気なのは、スマートで自己肯定感の高いエクステリア・デザインによるものだ。

◆パンダだけに「竹」も使った“アゲる”インテリア

フィアット グランデパンダ(EV)フィアット グランデパンダ(EV)

内装についても、主張は小さくない。今回の試乗車、EVパワートレインのトリムは「ラ・プリマ」といって、初回限定版とも高級グレードともつかない名称だが、ダッシュボード上の収納ボックスと加飾に、バンブー(竹)由来の生地が使われている。パンダに竹は、もちろん偶然ではない。

またブルー×ホワイトのツートンで、座面と背面に格子状クッションがあしらわれたシートには、ステッチの蛍光イエローと同じ色で「PANDA MADE WITH LOVE IN FIAT(愛を込めてフィアット製パンダ)」と、メイド・イン・イタリーの代わりに控え目サイズのレタリングが入っている。乗り手の気分をアゲるための些細な、でも小さくない工夫だ。

フィアット グランデパンダ(MHEV)フィアット グランデパンダ(MHEV)

ちなみにMEHV版の内装は「イコン」という準ハイエンドで、ダッシュボード上の収納には織り感のあるファブリック、シートはPANDAの文字が踊るファブリック仕立てだ。もちろんグランデパンダは大衆車でもあるので、内側ドアトリムはいかにも一発成形のプラスチック製。なのだが、上端がカマボコ型を描いて、あとは下に真っ直ぐ落ちていくだけの板切れではなく、わざわざFIATという彫り状のロゴが運転席側にだけ入れられている。ようは車内も左右非対称のデザインになっているのだ。

できるだけ簡単なカタチで発泡射出成形して手間をかけたくないドアトリムは、造り手の都合やコスト意識が丸出しになりやすいパーツだが、同じ一発成形にせよこのひと手間で、デザインの見え方がずいぶんと違ってくる。安くても安っぽさを拒否するサービス精神が感じられるのだ。

◆黄色い「横長オーバル」の元ネタ

フィアット グランデパンダフィアット グランデパンダ

もうひとつ触れておくべきは、10.25インチタッチスクリーンからメーターパネルまでを囲うように伸びた、横長オーバルをしたイエローのプラスチック。この横長オーバルの黄色いアクセント使いはシフトコンソール周りにも見られる。その元ネタは、トリノの「リンゴット」こと、旧フィアットの社屋の建築だ。

リンゴットは第一次大戦前から計画され、完成したのは1923年。当時の最先端である鉄筋コンクリート工法を駆使し、初代ジャンニ・アニエッリの指揮の下で社内エンジニアにして建築士だったジャコモ・マッテ・トゥリュッコが設計した。明るい採光と冬でも快適な環境、かつ動線まで広く最適化した合理的な設計で、研究開発から生産、事務関連まであらゆる部門が心地よく働ける環境を、数百m以上の細長い敷地に効率よく実現していた。

トリノの旧フィアット社屋の建築「リンゴット」トリノの旧フィアット社屋の建築「リンゴット」

しかも建物の屋上は、全長1.1km強をもつオーバルのテストコースとされ、建物内の南北に設けられたランプから試作車や完成車がテストのためにアクセスできる造りだった。後にトリノを訪れたかの建築家、ル・コルビュジェが「産業の世界から供された、もっとも印象的なスペクタクルのひとつ」とまで評した、モダン建築の傑作なのだ。

日本でいったら大正時代に、かくも先進的な大量生産、しかも人間的な配慮がなされた自動車産業を、フィアットは志向していたのだ。ここで生み出された代表的な車種として、『トッポリーノ』が挙げられる。

持続的で人に優しい産業という目標は、完全に今日の自動車産業の要求に重なり合う。ちなみにトゥリュッコはフランス生まれのイタリア人だったが、グランデパンダがシトロエン『C3』やプジョー『2008』らとステランティスのスマートカー・プラットフォームを共有し、そのデザインをルノーから移籍してきたデザインチーフ、フランソワ・ルヴォワーヌが指揮したのも、歴史的な巡り合わせとして面白い。

◆MHEVとEV、ハッピーな乗り味の理由

フィアット グランデパンダ(MHEV)フィアット グランデパンダ(MHEV)

まずはMEHVの方からステアリングを握り、トリノ郊外へと走らせた。MHEVパワートレインは202Nm・100psで、車重は欧州の認証値で1327kg。ダッシュの素早さを期待して乗るタイプでは全然、ない。実際、公称値で0-100km/h加速は約10秒となっているが、明らかに加速の遅さがストレスに転じる感触ではない。

むしろ電気モーターのアシストの機敏さのおかげか、登り坂からゼロ発進しても、アクセルを踏んだ分だけトルクがキチンと出て、電気モーターからエンジンへの切り替え、あるいはその逆でも、ギクシャクする谷間を感じさせない。むしろスムーズにエンジンへの繋がりや、加速中のノイズの抑えられぶりは、これまでのパンダと、明らかに一線を画す。

それでいて、意外とロック・トゥ・ロックが小さめで、決して速くないのに、ハンドリングはめっぽう活発でフットワークは軽快。同じプラットフォームのフランス車なら柔和なフラット・ライド感が目立つが、グランデパンダでは一種のやんちゃさすらある。時折トトンと縦揺れはあるが、突き上げてはこない、そんな路面インフォメーションをちゃんと伝えてくる乗り心地だ。

フィアット グランデパンダ(MHEV)フィアット グランデパンダ(MHEV)

EVの動的質感も、似ている。122Nm・113psと、トルクでは大幅に譲り出力も1割ちょっと多いはずだが、44kWhのLFPバッテリーを床下に収めて1554kgの車重との兼ね合いだろう。やたら滅多に俊足を誇示しない加速感や、中間加速からの伸び感も、MHEVの延長線上にある。アクセルを踏み込んでからのトルクのツキ方は、MEHVの方が多少なりと俊敏ともいえる。

EV版は0-100km/hで11.5秒、最大レンジは320kmと、街乗り+近郊道路がメインステージの動力性能といえるだろう。必要にして十分、背伸びしなくてもハッピー、そんな手応えだ。

◆日本導入に期待が高まる

フィアット グランデパンダ(MHEV)フィアット グランデパンダ(MHEV)

いわば、エンジンをブン回して乗る小さなイタリア車…というニュアンスは電気モーターのおかげで過去のものになったが、エンジンを唸らせずとも伸び伸びした乗り味は健在で、見て乗って毎日接して、楽しくて使いやすいデザインに仕上がっている。そこにグランデパンダの妙味がある。

下のグレードなら、欧州市場では2万ユーロ(約367万円)を割る価格帯。円安だけが心配だが、VWの『Tクロス』やトヨタ『ヤリスクロス』らに伍しても、インパクト大の1台であるだけに、本年中といわれる日本導入に期待は尽きない。

フィアット グランデパンダフィアット グランデパンダ

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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