車いすレーサーとは何か…平均30km/hの人力マシン ホンダ『翔』

車いす陸上競技のカテリーヌ・デブルナー選手がワールドパラアスレティクスグランプリ(スイス大会)で自身の100m(T53クラス)世界記録を更新(2025年5月)
車いす陸上競技のカテリーヌ・デブルナー選手がワールドパラアスレティクスグランプリ(スイス大会)で自身の100m(T53クラス)世界記録を更新(2025年5月)全 32 枚

車いすでのロードレースという競技があり、フルマラソンを走ったりする。上位入賞者のスピードは平均で30km/hを超え、下り坂では60km/hに達する。普通のマラソンのトップランナーが平均20km/hぐらいだ。ところが車いすなので交通ルールでは歩行者扱いだったりする。


車いすレーサー(競技用車両)は、ハの字にキャンバーのついた後の大径2輪と、前方に伸びたビームに取り付けられた小径の1輪の、3輪車というフォーマットだ。軽量化が望まれるのは発動機を積んだ自動車と同じ。ホンダはフルカーボンの高性能車いすレーサーをラインナップしている。

本田技術研究所先進技術研究所知能化・安全研究ドメインの池内康チーフエンジニアが車いすレーサーについて解説する。

漕ぎ力計測機器を使用し選手の走りを分析:フィールドでの計測

◆航空機技術者が開発に参画

ホンダの車いすレースへの取り組みは1981年に始まる。障害者の社会進出を支援する目的で、特例子会社としてホンダ太陽が設立された。1993年にはホンダ太陽内で「車いすレーサー研究会」が発足、1999年には「ホンダアスリートクラブ」が正式に設立され、カーボン素材によるレーサー開発の構想が広がった。

2000年からは本田技術研究所が開発に参加する。池内チーフエンジニアは、「専門的な知識が必要なので関わるようになった。当時、航空機の機体研究で炭素繊維技術を扱っており、その技術者が車いすレーサーの研究に加わった」と経緯を語る。

2002年には社内試作の第1号車が完成。製造委託先である八千代工業と協力しながら開発が進み、2014年に量産モデル『極<KIWAMI>』を発売した。さらに2019年には進化モデル『翔<KAKERU>』を発表している。

翔<KAKERU>フラッグシップ

◆車いすレーサーの製造工程

レーサーは選手ごとに設計されるオーダーメイド製品だ。まず選手が普段使用しているレーサーを持ち込み、ポジションや幅などを3次元計測する。脇腹の幅や腕の届き方など、細かな身体寸法を測定することが重要だ。そのデータをもとに設計を行ない、縦方向と横方向の剛性を満たすよう炭素繊維の積層数などを調整する。

設計が決まると型を製作し、その型にカーボンシートを貼り付ける。真空引きで密着させた後、窯で焼成する。取り出したフレームに穴加工を行い、各部品を取り付けて完成する。

ビルトインダンパーステアリング

◆炭素繊維製フレーム

『翔<KAKERU>』はフレームに、各アスリートの体格や障がいに合わせて乗車ポジションを調整できる、炭素繊維製フレームを採用している。

ステアリング周辺パーツはフレーム内部に格納したビルトインダンパーステアリングを採用した。従来はフレーム外に露出していたバネ機構を内蔵することで、空力性能と耐久性を高めている。フレームは、空気の流れを整えるウィング形状のカーボンモノコック構造だ。

池内チーフエンジニアは「アスリートの闘志をかき立てるウィング形状」と呼ぶ。競技規則では空力専用パーツの装着が禁止されているため、本体形状の工夫で空力性能を高めている。またフレームがホイールより後ろに出てはいけないので、フレーム後端は切り落とされなような、いわゆる“コーダトロンカ”になっている。

超軽量高剛性ホイールとウィングボディ

◆ダイヤモンドを使った部品

ホイールには超軽量で高剛性の専用品を装備している。ハンドリムにはダイヤモンド粒子をコーティングした特殊構造を採用した。通常はゴム素材だが、雨天時に滑りやすいという課題があった。池内チーフエンジニアによると「ドライとウェットで摩擦力がほぼ変わらない操作性を実現している」という。

このモデルは機能性とデザイン性が評価され、2021年にグッドデザイン賞を受賞した。

ダイヤモンド粉末を塗布したハンドリム

《高木啓》

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