勝手に「砂漠色」と名付けた、「ベージュサハラ」のボディをまとうルノー『グランカングー』は、一目見た姿からダックスフントを連想させた。
とにかく胴長感が半端ない。本国ではとっくの昔にリリースされていたモデルだが、日本は、リアの観音開きドアの特別誂えに手間がかかって、登場が2年ほど遅れたそうだ。
ど・ストレートなネーミングの、「ロングマックス」と呼ばれるロングホイールベース仕様のシトロエン『ベルランゴ』と比較した場合、全幅では10mmしか差がないものの(グランカングーが広い)、全長では140mmも大きく、同様にホイールベースもベルランゴ・ロングマックスと比較して、125mmもグランカングーの方が長いのだから、まぁ、短足は違うけど胴長であることは否定できない。
ルノー グランカングー
そんなわけで、ライバルともいえるベルランゴと比較するのは、ごく自然な成り行き。しかも我が家には短いとはいえ、標準ホイールベースのベルランゴが棲んでいるだから、違いを知るにはもってこいである。そもそも論、ベルランゴにしてもカングーにしても、その出自は商用車である。だから、豪華な設えを期待するのはそもそも無理な相談で、ダッシュボードを叩けばどちらもポコポコと音がするし、リアドアなどは鉄板むき出しである。
日本の商用バンなどの場合は、ほとんどがいわゆるキャブオーバースタイル、すなわちエンジンがドライバーズシートのほぼ真下に位置する。だから前は短いが、乗り心地は正直言って、どれもこれも褒められたものではない。そこへ行くとフランス製は、どちらをとっても極めて快適で、これならロングドライブでも全然OK、と思える乗り心地を提供してくれる。
◆「何だ、この洗練具合は!」
ルノー グランカングー横浜からクルマを受け取って街中に乗り出してみると、いきなり「何だ、この洗練具合は!」という印象に支配された。
というのも、我が家のベルランゴはすでに新車から5年の歳月が流れて、全体にいいようにやれていることも手伝って、洗練のせの字もなくなっている。それにベルランゴのステアフィールは、新車時から褒められたものではなかった。そこへ行くとルノーのステアフィールは、それこそ乗用車系のそれと何ら変わらない。ダルさもない。
次に当たり前だが、ルノーはガソリン仕様一択。対するシトロエンはディーゼル一択。ガソリンがバカ高くなった今、ハイオク設定だからしんどい(といっても軽油も同じように上がっているから痛み分けか)けれど、さすがにガソリンエンジンのスムーズさと静粛性の高さ、それにボディ全体振動の少なさなどが、素晴らしく洗練されて感じられるのだと思う。
そんなわけだから、こと走りという点に関しては、燃料代を除けばほぼルノーに軍配が上がる。
◆一長一短の使い勝手
ルノー グランカングー使い勝手という点ではこれは双方一長一短だ。シトロエンの泣き所はスライドドアの開閉に難がある点。とにかく重い。椅子に座ってスライドドアを閉めようとすると、ほぼ片手では難しいほどだから、女性や子供では無理だ。ロングが登場した時に、だいぶ軽くなった印象を受けたが、それでもグランカングーのスライドドアを操作してみると、やはりその違いは歴然で、グランカングーの方がスムーズだし、操作性がよい。スライドドアの室内側開閉ハンドルも単純明快ながら、これも操作性が良いつくりとなっている。
一方で3列シートの作りだが、これはシトロエンに軍配が上がる。そもそも3列目はどちらも取り外しタイプなのだが、ルノーの場合はベルトセンサーの接続を外さないと外せないし、そもそも椅子の重さが23Kgと、シトロエンの15kg+と比べてかなり重いから、端から取り外す気にならない。それにシトロエンは3列目を跳ね上げて固定できるけれど、ルノーの場合はそうした仕様になっていないから、3列目のスペースをラゲッジとして使おうと思ったら、どうしても外すしかないのである。
ルノー グランカングーもう一つの大きな違いは2列目にもある。カングーの場合は3列目同様折りたたむか取り外すのみ。そしてその折り畳みは、背もたれを倒すだけだから、どうしてもイスの存在は消えない。そこへ行くとシトロエンは、2列目がダイブダウンしてくれて、3列目の床と同じ高さになるから、取り外すまでもなくそこの部分がフラットな床になるのである。だから、いざとなれば2列目を犠牲にして3列目と1列目を使えば、4人座ってそれなりに荷物を運べる。
というわけでシートアレンジに関しては、明確にシトロエンが有利である。とはいえ、スライドドアが非常に大きなカングーは、3列目へのアクセスがシトロエンよりも圧倒的に楽な点も、考慮すべきかもしれない。
◆ルノーはどんなクルマでも走る楽しさを提供してくれる
ルノー グランカングー3日間でおよそ250kmほど走ってみたが、走りの快適性は確実にルノーが上、使い勝手はスライドドアを除けば、シトロエンが上と結論付けた。今回は荷物を運んだわけでもなく、ただ空荷で移動したから、実際シートを付けたままあれこれやったわけではないが、少なくとも、一人でカングーのシートを取り外す気にはなれなかったことだけは、確かである。
いっぽう、大きなボディを持て余し気味ではあるけれど、走っていてもこのクルマは楽しい。ルノーは本当に走る楽しさをどんなクルマでも提供してくれるブランドという思いを、改めて強く思った次第である。
ルノー グランカングー■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)
AJAJ会員・自動車技術会会員・東京都医師会「高齢社会における運転技能および運転環境検討委員会」委員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来48年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。




