ホンダの新基準原付『スーパーカブ110ライト』(以下、110ライト)と、その元になった原付二種の『スーパーカブ110』(以下、110)を乗り比べてみた。車体の基本構造や排気量までも同じ2台だが、そこにはどんな違いがあるのか。
【比較画像】ホンダ スーパーカブ110とスーパーカブ110ライト
◆外観は間違い探しレベル
ホンダ スーパーカブ110ライトのエンジン
110ライトは、110のコンポーネントをそっくりそのまま使い、新基準原付の規定に沿うように最適化した仕様だ。最も大きな変更点はエンジンにあり、最高出力が4.0kW(約5.4ps)以下になるようにデチューン(抑制)されている。
両モデルの主なスペックは、下記の通りとなる。
●110ライト/110
・排気量:109cc/109cc
・最高出力:3.5kW(4.8ps)/6000rpm/5.9kw(8.0ps)/7500rpm
・最大トルク:6.9Nm/3750rpm/8.8Nm/5500rpm
・燃費:定地105.0km/リットル(30km/h 1名乗車)/68.0km/リットル(60km/h 2名乗車)
WMTCモード:67.5km/リットル/67.9km/リットル
・シート高:738mm/738mm
・車重:101kg/101kg
・車体価格:34万1000円/35万2000円
ホンダ スーパーカブ110ライト(左)とスーパーカブ110(右)ご覧の通り、エンジンのパフォーマンス以外は基本的に同一で、全長や全幅といった車体サイズも同じ。燃費に関しても、法定速度と乗車定員の条件が異なる定地の値には開きがあるものの、WMTCモードではあまり差がない。
というか、出力のピークを低回転域に振り、そこを常用する110ライトの方が若干悪くなっている。各ギヤの変速比や減速比、タイヤサイズとその銘柄は共通である。
ホンダ スーパーカブ110のナンバープレートはピンク
ホンダ スーパーカブ110ライトのナンバープレートは白外観で間違い探しをすると、タンデムステップの有無、ナンバープレートの色、前後フェンダーに貼られた識別マーク、スピードメーターの数字、速度超過インジケーターの有無といったところで、少し離れれば見分けることは難しい。
この2つのモデルを天秤にかけ、どちらを選ぶべきかを迷うユーザーは、極めて稀に違いない。原付免許しか所有していなければ必然的に110ライトを、小型限定普通二輪(小型AT含む)以上を所有していれば、法定速度が緩和され、二段階右折の縛りもない110を選ぶことになる。車体価格の1万1000円差や軽自動車税の400円差、任意保険の違いが選択に影響がないとは言えないものの、それぞれ棲み分けができている。
◆「34万1000円」と「35万2000円」
ホンダ スーパーカブ110(左)とスーパーカブ110ライト(右)ところで、34万1000円(110ライト)と35万2000円(110)という車体価格だが、ここだけ取り上げると、ホンダの企業努力に思える。なぜなら、まず110の存在があり、それをベースに110ライトをラインナップするということは、日本国内における年間販売予定台数(『110プロライト』と『クロスカブ110ライト』を含むシリーズ合計6500台)のため、新基準原付のレギュレーションに合わせて、ひと手間掛けてくれていることを意味する。その手間の分、車両価格が高くなることはあっても、本来安くできる道理はないからだ。
事実上の原付扱いとなる110ライトの価格が、上位モデルの110と同じだったり、まして高くなったりするのは、ユーザーが釈然としないに違いなく、ホンダはそれを踏まえて、なんとか引き下げてくれたんだな、と好意的に捉えられる。
ただしこれは、若干のマジックをはらんでいて、110ライトの発売と同時に(2025年12月)、110は車体価格を改定。この時、30万2500円だったものが、35万2000円になり、それでいて車体色以外の変更はないという、なかなかの上げ幅だったのだ。
もっとも昨今の価格上昇はホンダに限ったことではなく、リアル原付を望むなら、すでに生産を終えた『スーパーカブ50』(24万7500円)や『スーパーカブ50ファイナルエディション』(29万7000円)などの在庫車両を、今ならまだ探すことができる。
◆110ライトと110、走りの違いは?
ホンダ スーパーカブ110ライトさて、こんな風に書き進めると、110ライトの存在意義が希薄になるというか、コストパフォーマンスに欠けているような印象を与えかねないが、動力性能の面で欠点は見当たらない。
乗降のしやすさと足つき性、旋回の素直さと軽さ、直進安定性のよさ、ABS付のブレーキ性能は、いずれも110から間引かれたものはない。つまり、110ライトも110も移動手段としての優秀さはもちろん、エンジンの鼓動に身を浸せるライディングプレジャーの要素も内包。大部分のシーンでは楽に心地よく走れ、ペダル操作がいい加減だった時だけ、スピードの上昇を拒んだり、エンブレでつんのめったりして、たしなめてくれる。
ホンダ スーパーカブ110のメーター。140km/hまで表示されている
ホンダ スーパーカブ110ライトのメーターは60km/hまでの表示では、110ライトと110は、どこが違うのか。まず、エンジンを始動させた時の音質は、110の方がわずかに野太く、力を感じさせる。走り出してからも同様で、どの回転域でもスロットル操作に対する速度の乗りはわずかにいい。
とはいえ、110ライト単独で乗ると、加速に物足りなさはまったくない。低回転域に振られた過渡特性がしっかりパワーとトルクをカバーし、法定速度内に留めて走らせる方が、むしろ難しい。110ライトは、約60km/hでスピードリミッターが作動し、140km/hまで表示される110のスピードが、どこまで伸びるのかは不明ながら、常識的な走らせ方で不足を感じることはない。
ホンダ スーパーカブ110◆110ライトにも受け継がれているスーパーカブらしい性能
不満を探すと、110の方にひとつ。これはホンダあるあるだが、シートのたてつけが今一歩で、前方のヒンジ部分のガタが大きいことに加えて、後方の吸盤がヤレやすいようだ。乗車中にお尻を動かすとシートも一緒に動いてしまい、ここだけ質感が低い。ほぼ新車だった110ライトの方は、吸盤の密着力が維持されていたが、時間の経過とともに同じ症状が出そうだ。
いずれにしても、110にはスーパーカブシリーズの主軸にふさわしい頼りがいがあり、110ライトにも遜色のない性能が引き継がれている。その意味で、さすがに30km/hの法定速度と二段階右折の適用は見合わなくなっている。
ホンダ スーパーカブ110ライト伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。




