山口県防府市。瀬戸内海の穏やかな風景が広がるこの地は、化学メーカーなどが集まるモノづくりが盛んな地域だ。
ここでマツダの「ラージ商品群」の母工場として重要な役割を担っているのが、マツダ防府工場である。今回、レスポンス編集部は、マツダが掲げる「モノづくり革新2.0」の現在地を探るべく、その心臓部である西浦地区の第2工場(H2工場)へと足を踏み入れた。
◆「根の生えない」ラインが実現する究極の混流生産
工場に足を踏み入れてまず驚かされたのは、かつての自動車工場のイメージを覆す柔軟な風景だ。マツダは「スモールプレイヤー」を自認し、限られた資産を最大限に活用する「ライトアセット戦略」を掲げている。その象徴が、複数の車種やパワートレインを同一ラインで流す「混流生産」だ。
特に印象的なのが、車両組立工程で導入されている「根の生えない」生産設備である。従来の固定されたコンベアではなく、移動可能なAGV(自動搬送車)の上で車が組み立てられていく。これにより、作業内容の異なるガソリン車、ディーゼル車、プラグインハイブリッド、さらには電気自動車(BEV)までもが同じラインを流れることが可能になる。
「BEV専用工場は必要ない」とマツダの担当者は断言する。モノづくり革新1.0で工程数を4割削減し、2.0でさらに柔軟性を高めることで、需要の変動にスピーディーに対応できる体制を整えているのだ。

◆「デジタルツイン」が変える開発と生産の距離
この複雑な混流生産を支えているのが、最新のデジタル技術だ。マツダでは「デジタルツイン」を活用し、実機を動かす前にバーチャル空間で生産ラインのシミュレーションを徹底的に行う。3Dモデルを用いて、新しい車種を導入する際の準備や生産移管を効率化しており、これにより投資の抑制と準備期間の短縮を実現している。
また、AIを活用した「MAX(マツダ・AI・トランスフォーメーション)」プロジェクトも進行中だ。過去の膨大なデータを学習したAIが設備のメンテナンスを最適化し、トラブルシュートを迅速化させる。これにより、経験の浅い若手メンバーでも高度な設備管理ができるよう進化を続けている。
◆現場のオペレーターが設備を直す「内製」の強み
技術革新が進む一方で、マツダが何よりも大切にしているのは「人」である。防府工場の大きな特徴の一つに、現場のオペレーター自らが設備のメンテナンス(保全)を行う点が挙げられる。
海外では専門の保全部隊が担当するのが一般的だが、防府では実際にラインを動かしているメンバーが、自ら設備の維持管理を行う。「自分たちの設備は自分たちで守る」という意識が、次世代への技術継承の柱となっているのだ。
また、多種多様なモデルが流れる混流生産は作業者の負担も大きいが、ラインサイドにモニターを設置して次の車種の情報を提示したり、取り付けるべき部品をLEDライトや音で知らせる補助機能を充実させたりすることで、習熟の壁を乗り越える工夫が随所に施されていた。

◆「匠の技」を量産に乗せるプライド
マツダの車に漂う独特の「オーラ」や「艶」は、どこから来るのか。その答えもまた、生産現場にあった。



