削ぎ落とした先に宿る熱---WEKFESTで見たMOONTECHの現在地

MOONTECH…WEKFEST
MOONTECH…WEKFEST全 53 枚

今年もWEKFESTの会場のあちらこちらに、MOONTECH(ムーンテック)が手掛けるクルマたちがお目見えしていた。その台数は、20台近くにものぼる。

【画像全53枚】

出展ブースに並べられていたのは、単なるショーカーではなかった。SEMA SHOWに出展してきた過去の車両たち。そして今回、「Best of Show」を受賞したBMW『E36 M3 LS.ITB』。MOONTECHというビルダーが、何を愛し、何を削ぎ落とし、どこへ向かおうとしてきたのか。その軌跡そのものが、WEKFESTの会場に並べられていた。

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派手な演出があったわけではない。大音量で何かを主張しているのでもない。それでも、不思議と人が吸い寄せられていく。

足を止めた人たちは、ただ“カスタムカー”を見ていたのではないと思う。金属の質感、張り詰めたボディライン、エンジンルームに漂う緊張感、そして、細部にまで貫かれた美意識。そこには、“作った”を超えた何かがあった。

以前、2025年のSEMAで、MOONTECH代表の田口日央(たぐち・ひかる)を取材した。彼は根っからのクルマ好きで、長い時間をかけて蓄えた圧倒的な情報量と経験によって裏打ちされたデザインを、直感的に生み出していく。様々な技術を駆使して、アメリカの巨大なカスタムカルチャーに挑み続ける存在だった。

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だが今回、WEKFESTのMOONTECHブースに立って感じたのは、少し違う空気だった。

認められるために作るのではない。
流行を追うためでもない。
自分たちが本当に美しいと思うものを、ただひたすら突き詰める。

その覚悟のようなものが、空間全体からにじみ出ているように感じられた。

性能ではなく、“感覚”を突き詰める

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その象徴とも言える存在が、冒頭で触れたBMW E36 M3 LS.ITBだった。低く構えたシルエット。張り出しフェンダーライン。そして何より、エンジンルームを覗き込んだ瞬間に伝わってくる異様な密度感。そこには“スペックを見せつけるクルマ”とは違う空気が流れていた。

ベースとなっているのは、1990年代を代表するBMWの名車・E36 M3。そこへ搭載されているのは、本来のBMW直列6気筒エンジンではなく、GM製のV8「LSエンジン」だ。いわゆる“LSスワップ”と呼ばれるカスタムの手法だが、それだけなら、いまや世界中で見られるカスタムでもある。

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だが、このクルマが異質だったのは、その先にある。吸気には、各気筒ごとに独立したスロットルを備える「ITB(Individual Throttle Bodies)」を採用した。レスポンスやサウンドを極限まで研ぎ澄ませる一方で、セッティングは極めてシビアになる。効率だけを求めるなら、決して合理的とは言えない構成だ。

MOONTECH代表 田口 日央氏MOONTECH代表 田口 日央氏

田口氏もその複雑さについてこう語っていた。「LS1を8スロットルで制御するなんてハードなんです、でもそれをあえてやってみました。パワーで言ったら落ちるんですよ、でも性能よりもフィーリングを重視しているから。速さも大事だけど、フィーリングもどちらも大切にしたい」

確かに、このE36には、その複雑さごと抱きしめたくなるような美しさがあった。

アメリカンV8の荒々しさ。ヨーロッパ車特有の緊張感。そして、レーシングマシンのような吸気システム。普通なら、どこかで主張がぶつかり合ってしまいそうな要素たちが、不思議なほど自然に共存している。感覚や感性の領域で高度にミックスされたカルチャーを見たような気がした。

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実際このクルマは、2022年の東京オートサロン、そして2024年のSEMAにも展示された。今回を含めいずれのイベントでも、ピカピカ光るエンジンを覗き込んだ人は感嘆の声を上げ、夢中でシャッターを切る。国内でも海外でも、その人気の高さは変わらず、多くの人を魅了していた。

何もかもを求めるのではなく、本当に魅せたい箇所に全力集中。カスタムって、時にはそんな“削ぎ落とす勇気”も必要なのかもしれない。

積み重ねられてきた、美意識の系譜

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今回のMOONTECHブースで印象に残ったのは、このE36 M3だけが突出していたのではないことだ。

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たとえば、E36 M3と新旧の対比で魅せたBMW『E30 M3Sport EVO 2.5L』。それに、2025年のSEMAショーに出していたA90『GR スープラ』もあれば、同じく2025年のSEMAショー/東京オートサロンに出展されていた『TRUST × MOONTECH ソアラ』の姿もあった。

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また、WEKFEST 2年連続でセダン部門第1位を獲得したトヨタ『セルシオ』もある。“大人シンプルUS VIP仕様”というコピー通り、シンプルながらすぐにMOONTECHだと分かるVIPカーオーラが眩しかった。輸入車に限らずあらゆるクルマを手掛ける、スタイリングの幅も際立つ。

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派手さで圧倒するのではなく、細部の密度で惹き込む。それは、どの時代のクルマにも共通していた。つまり、今回のブースは、決して“最新作の展示”ではなかったのだと思う。

MOONTECHというビルダーが、長い時間をかけて磨き続けてきた思想の現在地。その積み重ねを、ひとつの空間として見せていた。

そして今、その美意識は、日本だけではなく、世界のカスタムカルチャーの中で存在感を増している。今回の出展では、先方からの熱烈なオファーがあったというスタンスフィリピンとのコラボレーションもあり、いまやその存在感は、アジア圏にも確実に広がり始めている。

MOONTECH代表 田口 日央氏MOONTECH代表 田口 日央氏

「クルマが好きで、改造車が好きで、僕はいつまでも“シャコタン”をやっていたい。たまにふと思いますよ、いちユーザーになってみたいなって。でも高3の頃からつくる側でずっとやり続けてきた僕は、もうそうはなれない。大人になって、考えるべきことがたくさん増えて、頭を抱えることもたくさんある。でも、クルマのことを考えている時だけ、僕は自由になれるんです。好きだからつくり続けられてるっていうのは大きいかもしれないですね」

田口氏のコメントは深く実感のこもったものだった。

認められるためではなく、自分たちが本当に好きだと思うものを突き詰める。「好きだ」というそのまっすぐな気持ち以外は削ぎ落とす。そうした先に生まれる熱量こそが、国境を越えて多くの人を惹きつけている理由なのだと思う。

《上之園真以》

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