【現地レポート】インド自動車市場の最前線、急成長する市場で日本企業の勝機とは…NRI ジェーン・ヴィニート氏[インタビュー]

【現地レポート】インド自動車市場の最前線、急成長する市場で日本企業の勝機とは…野村総合研究所 ジェーン・ヴィニート氏[インタビュー]
【現地レポート】インド自動車市場の最前線、急成長する市場で日本企業の勝機とは…野村総合研究所 ジェーン・ヴィニート氏[インタビュー]全 5 枚

来たる7月29日、オンラインセミナー「【激変するインド自動車産業】政策転換とEVシフト、クイックコマースが拓く日本企業の勝機」が開催される。

セミナーに登壇するのは、野村総合研究所(NRI)のインド拠点にて自動車コンサルティングBUのパートナー兼BU長を務めるジェーン・ヴィニート氏。現地の最前線で自動車産業の動向を追い続けている第一人者だ。

今回のセミナーの主なテーマは以下の通り。
1. 不透明な時代から「成長の確信」へ――インド自動車政策の現在地
2. 加速する「Make in India」とサプライチェーンの再構築
3. 生活から変わるモビリティ――クイックコマースが変える二輪・三輪市場
4. 四輪車電動化の展望と「日印連携」の優位性
5. インドからアフリカ・中東の巨大経済圏への輸出動向
6. 日本企業への提言――インドで「勝ち切る」ための3つの要諦

インタビューでは、ヴィニート氏に最新の現地動向やセミナーの見どころ、日本企業が掴むべき機会について伺った。

不透明な時代から「成長の確信」へ、インド自動車政策の現在地

インド市場はコロナ禍により一時的な縮小を余儀なくされ、当時は一不透明感に包まれていた。しかし現在、インド自動車産業はそのショックを完全に乗り越え、コロナ前の水準を大きく突破して急成長を遂げている。足元では中東情勢の緊迫化など地政学的リスクが世界を揺るがしているが、その影響すら跳ね返すほどの極めて健全で力強い成長トレンドを維持しているのが大きな特徴だ。

この成長の背景には、モディ政権が掲げる「Make in India(インド製造業振興策)」という強力な国家スローガンがある。膨大な人口を支えるために製造業の育成は不可欠であり、中国に負けない製造基盤を築くべく国を挙げて注力してきた結果、今や自動車産業は製造業の約5割、国家GDPの約7%を占め、3000万人規模の雇用を生み出す極めて重要な基盤産業へと躍進した。

特筆すべきは、インド政府の政策アプローチが「特定のパワートレイン(例えばEV一本化)への盲信」ではなく、現実的かつ合理的な「マルチフューエル・マルチパワートレイン戦略」をとっている点だ。過去には一気に100%EV化を目指すような動きもあったが、サプライチェーンの現地化が進まない段階での急速な移行は輸入依存度を高めてしまうという懸念から、現在はバランスを重視した方針へ転換している。

【激変するインド自動車産業】政策転換とEVシフト、クイックコマースが拓く日本企業の勝機 セミナー資料

生活から変わるモビリティ、クイックコマースが変える二輪・三輪市場

二輪車市場に目を向けると、年間2000万台規模という巨大市場において、電動化(EV)の浸透率が直近で10%近くにまで急上昇している。かつては低速の簡易な電動バイクが中心だったが、現在は高いモーター性能とバッテリー能力を備えたハイスピードモデルが主流だ。

この二輪・三輪の電動化を爆発的に牽引しているのが、インド独自の生活革命である「クイックコマース」の存在だ。「クイックコマース」とは、アプリで注文した商品をわずか10分前後で届ける超高速デリバリーエコシステムである。

「象徴的なスタートアップである『Blinkit(「瞬きする間に」の意)』を筆頭に、日常生活に使う生鮮食品や日用品だけでなく、iPhoneやパソコンといった高額な電化製品までもが本当に10分足らずで手元に届く環境が構築されています。さらに、アプリで5分以内に救急車が駆けつけるインフラまで、あらゆる領域に拡大しています」

「利用者はわずか10~30ルピー(約17~50円)程度の少額なプラットフォーム利用料を払うだけで、自分で車や二輪車を運転してスーパーへ買い物に行く移動リスクや時間を完全になくせます。この圧倒的な利便性が消費者の行動様式を劇的に変えたのです」とヴィニート氏は分析する。

【激変するインド自動車産業】政策転換とEVシフト、クイックコマースが拓く日本企業の勝機 セミナー資料

そして、この奇跡的な配送スピードを裏で支えているのが、膨大な「ギグワーカー」たちの足となる電動二輪車と、インドが誇る圧倒的なITパワーである。ここでの電動二輪車は個人の趣味嗜好ではなく、完全に「商業ユーズ(ラストマイル・デリバリー)」として組み込まれており、経済合理性とインフラの要請が合致したからこそ、日本を遥かに凌ぐスピードで電動二輪車が普及している。

四輪車電動化の展望と「日印連携」の優位性

四輪乗用車市場においても、昨年度の電動車販売台数は20万台を超え、直近の月間浸透率は5%~6%に達するなど、日本以上の普及スピードを見せ始めている。この急伸の背景には、中東情勢緊迫化に伴う石油価格の急騰に対して、インドの消費者が「ガソリン車を避け、電動車を選ぼう」と極めて機敏に行動したことがある。

市場を牽引するプレイヤーの構造も激変している。市場の約4割を握るマルチ・スズキ社が盤石な成長を続ける一方で、インド地場系メーカーであるタタ・モーターズやマヒンドラ&マヒンドラが圧倒的な成長を遂げており、それぞれ10%以上のシェアを獲得している。彼らのEVは、テスラに匹敵するほどスタイリッシュで圧倒的な存在感を持つデザインを採用しており、インドの消費者の所有欲を刺激している。


《鈴木万治》

鈴木万治

鈴木万治|スズキマンジ事務所代表 1986年(昭和61年)名大院工学部原子核工学修了、日本電装(現デンソー)入社。宇宙機器開発やモデルベース開発など全社プロジェクトを担当。2017年から20年まで米シリコンバレーに駐在し、18年からは中国子会社のイノベーション部門トップも兼務。数週間ごとに米中を行き来する生活を送った。21年にスズキマンジ事務所を開業。(記事は個人の見解であり、所属する会社とは一切関係ありません)

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