【BYD ラッコ 新型試乗】クルマとしての出来は「極めて高い」が、その真髄は別のところにあった…中村孝仁

BYD ラッコ 300プレミアム
BYD ラッコ 300プレミアム全 39 枚

SNSに限らず、やたらと世間を騒がせているBYD『ラッコ』に試乗した。自動車としての根本的な出来は、極めて高いレベルでまとまっている。

【画像】BYD ラッコ 300プレミアム

騒がれている大きな要因は、軽自動車という日本特有のジャンルに進出したこと。と言っても、輸入軽自動車がこれまで全くなかったわけではない。例えば『スマートK』だったり、ケーターハム『スーパーセブン600』だったり、すでに存在している。ただ、いわゆる軽自動車市場のど真ん中に投入された例は、これまでなかった。しかもほかのどの国にも通用しない特殊な規格だから、誰も参入しようなどとは考えなかった…のかもしれない。

だから、大いに騒がれているわけで、多くの仲間もすでに試乗してその良さに驚きの声を上げている。その反響はほぼポジティブだ。SNSには、生産国を絡めた誹謗もあるけれど、それは正直な話ナンセンスだと個人的には思う。純粋に車を見て触って、そして乗った結果を単刀直入に話せば、その出来は非常に高いレベルである。

◆車の価値だけで勝負に出ている

BYD ラッコ 300プレミアムBYD ラッコ 300プレミアム

今回試乗したモデルは、「300プレミアム」と呼ばれる最上級のモデルだ。その価格249万7000円。個人的には、想像していたよりも70万円ほど安かった。でないとあれだけの装備を搭載したモデルは、国産メーカーでは作れないと思ったからである。

この価格について競争力がないと断ずる論調もあるけれど、そもそも補助金目当てで価格を設定しているきらいのある日本メーカーの場合、当然ながら購入価格はBYDよりも安くなるが、中古相場は、その購入価格が算定の基準になるはずだから、セカンドハンドを考えれば、競争力は十分にある。

ご存じの通り、補助金が出た場合は、購入後4年間は売却できず、仮に売却した場合は、補助金の返済が必要だ。日産『サクラ』のように、50万円以上国から補助されて、さらに東京都などからの補助金も含めれば、100万を超えるような手厚い場合は、返済する気にはならないだろうが、BYDラッコが適用されるのは15万円。これなら、万一気に入らなくても十分に返済できる価格ではないかと思うわけで、そんな意味でもラッコは純粋に、車の価値だけで勝負に出ている印象を受けるわけである。

◆航続距離の正確さと、安定した走りに驚き

残電力99%で航続距離320kmを示している残電力99%で航続距離320kmを示している

では、その出来は? ということになるわけであるが、基本は前述したように本当に良く出来ていると思う。そして驚かされたのは、バッテリー残量と可能走行距離(航続距離)の正確さ、である。以前からほかのBYD車に乗っても、このいわゆるSOC(ステートオブチャージ)の正確さは、安心材料の一つではあったが、今回の場合満充電で320km走行可能が謳い文句。で、借り出した車のSOCは、100%、320kmであった。

撮影した写真では99%で320kmとなっているが、WLTCで測定した可能走行距離が、そのまま示された例は初めて経験した。それどころか試乗中、比較的電費を重視したドライブをした場合、可能走行距離が320kmを上回るケースもあったほどである。これは如何にBYDのエネルギーマネージメントが優れているかを示す良い例ではないかと思う。元々、リン酸鉄のバッテリーを手なずけていて、強い自信を持つBYDならではという印象も受けた。

というわけで、少なくとも走行距離においては満点をつけられる。次にその走りである。やはり、車重1230kgという重量級に起因するのか、どっしりと安定した走りは、目を見張るものがあった。タイヤはサイルンという聞き慣れない中国製タイヤである。調べてみると、2001年に誕生した中国の新興タイヤメーカーだが、僅か20年ちょっとで世界有数のタイヤメーカーにのし上がったブランドだそうだ。

BYD ラッコ 300プレミアムBYD ラッコ 300プレミアム

というわけで限界を攻めてみたわけではないけれど、日常使いのタイヤとしては、音振性能、グリップ力含め合格である。運動性能という点も、好印象。ネガというよりも、EVの割には発進加速に物足りなさを感じるのは重さのせいだろうか。それよりも少々クリープ力が強すぎて、車庫入れなどの際には気を使いそうだ。ここは改善の余地あり。

室内の広さに関してはライバルとなる日本の軽EVと比べて広いのは当たり前で、スーパートールというジャンルのサイズを目いっぱい利用しているから、ここでも他より優れている。

◆真髄は安全性の高さにある

ボンネットを開くと、非常に低い位置にユニットが収まっていることがわかるボンネットを開くと、非常に低い位置にユニットが収まっていることがわかる

というわけで、少なくとも走りに関しては、とりあえず文句のつけよう無しであるのだが、実はこのクルマの神髄はここではないと思っている。それは試すことのできない安全性の高さだ。

まずフロントに関しては、従来BYDが使っていた8in1のeアクスルから6つを引いた、2in1にしてフロントのエンジンルーム(エンジンではないけど)に収めた。一見後退と思えるこの技術によって、実は82mmのクラッシャブルゾーンを確保している。フロントに残るのはモーターとディファレンシャルギアのみ。その結果、非常に低い位置に搭載することが可能となり、歩行者頭部保護にも大きく寄与している。

新しいCTB(セルtoボディ)という技術と、Xパックと呼ばれる、本来eアクスルに集結されていた残りの6つの機能を、バッテリーとまとめて、車体構造材の一部として使用した構造は、強固な車体剛性を持ち、さらに横方向を1200Mpaのハイテン材と2000Mpaのウルトラスーパーハイテン材で補強した。そしてルーフは、通常のスポット溶接ではなくシームレスなレーザー溶接が施されている。

スライドドアを持つスーパーハイト系のボディは、スライドドアのレールとバッテリーが干渉するために、恐らく国産メーカーは手が出せていないのだと想像するが、そのあたりを見事に解決して、しかもねじり剛性を34%も高めている(何に対してかの説明がなかったが)というから、車体剛性の高さこそが、この車の乗り味を高めている大きな理由だと察する。

◆使い勝手には改善の余地あり

BYD ラッコ 300プレミアムBYD ラッコ 300プレミアム

とはいえ、全くネガ要素がないわけではない。本来スーパーハイト系は車室内で子供の着替えなどをさせたいという女性の要望を取り入れた形状だと聞いたが、ラッコはその女性ユーザーに対する配慮は少し欠けている。

一つは走りを優先した結果なのだと思うが、どっしりと安定したステアリングは、軽自動車の一般から見たら重いと感じると思う。また、リアシートはダイブダウンして折りたためるが、元に戻す時に座面が一緒にくっ付いてくるために、非常に重い。男性の大人でも、後ろからシートをもとに戻すのは難しい。

そしてリアテールゲートはかなり高い位置まで上がってしまうために、背の低い人だと結構大変。おまけにストラップなどの補助機能もないなど、改善の余地はある。改善と言えば、リアシートをスライドさせることができるのだが、それは鉄製アームではなくて、なぜかストラップを引く方式。日本的な印象としてはプアなイメージを免れない。

BYD ラッコ 300プレミアムBYD ラッコ 300プレミアム

そして個人的に思ったことはルーフの縁(サイド)が丸く落とされているため、雨の日などはサイドスライドドアを開けるとそのまましずくが落ちてくるのではないかという不安もあった。もちろんルーフにはそれを止める段差があるけれど、それでは不十分と感じた。

また、給電口は車体の右側に付く。これだと、自宅の壁に取り付けられた充電施設を使う場合、道路側に給電口が出て、いたずらの心配などもあるし、そもそも壁に車を寄せると乗降しにくいというネガもある。日本専用を謳うならば、給電口は車体左にあった方が便利だ。

とまあ、今後改善の余地は残しているとはいえ、明らかに車単体としての出来の良さは十分に理解できた。少なめの販売台数(年間1万台の計画)で元が取れるとは思わないけれど、背後には戦略が見え隠れするラッコの登場であった。

BYD ラッコ 300プレミアムBYD ラッコ 300プレミアム

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)
AJAJ会員・自動車技術会会員・東京都医師会「高齢社会における運転技能および運転環境検討委員会」委員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来48年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。 

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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