なぜ「二輪の運転診断」は難しい? ホンダ×Uber Eatsがスマホで挑む、事故ゼロへの新アプローチ

ホンダとUber Eats Japanは「二輪安全運転診断アプリ」を使った配達パートナー向けの実証実験を開始
ホンダとUber Eats Japanは「二輪安全運転診断アプリ」を使った配達パートナー向けの実証実験を開始全 32 枚

ホンダとUber Eats Japan(以下、ウーバーイーツ)は9月1日より、ホンダが開発した「二輪安全運転診断アプリ」を使った配達パートナー向けの実証実験を開始する。アプリで運転診断をおこない、その結果をフィードバックすることで安全運転への意識を高めてもらうのが目的だ。

【画像】ホンダが開発した二輪向け運転診断アプリ

この実証実験「Uber Eats 安全運転キャンペーン」は9月1日から9月28日までの4週間にわたり実施。国内で原付・バイクを利用するウーバーイーツの配達パートナー約12万人の中から、協力を得られた1500人を対象に実施する。

配達パートナーの安全意識や運転スキルの向上だけでなく、歩行者や他ドライバーなど、あらゆる道路利用者が安心して生活できる社会の実現をめざすウーバーイーツの取り組みと、交通事故者ゼロをめざすホンダの思いが一致したことから連携が始まった。

◆二輪向け運転診断の難しさ

二輪安全運転診断アプリ(開発版)地点アドバイス二輪安全運転診断アプリ(開発版)地点アドバイス

運転診断は、特別な機器などを必要とせず、アプリをインストールしたスマートフォンのみで完結する。ホンダのテレマティクス運転診断技術を活用し、スマートフォンのGPSセンサーから得られた走行データから、実際の配達時の運転状況を分析、「安全運転スコア」として可視化する。「アクセル」「ブレーキ」「ステアリング」の3項目について点数を表示し、地図上の走行軌跡とともに自身の運転を振り返ることができるというものだ。これを通じて、安全への認知、自分の運転への気づきを与えることを目的とする。

今回の実証実験キャンペーンでは、アプリを起動した状態で合計150km以上の走行をおこなった配達パートナー全員に5000円を支給。さらに150kmを走行した上で、期間中の平均運転スコアが上位10名に入ると、追加で1万5000円が支給されるというもの。これにより、安全運転へのモチベーションを高めてもらおうという考えだ。

運転診断機能そのものは四輪向けでは珍しくない。ホンダも2023年には北米の四輪向けに、運転診断アプリをリリースしている。しかし、二輪向けの例は少ない。そこには「二輪特有の難しさがある」とホンダ安全運転普及本部の川渕貴之氏は語る。二輪は、走行中に車両の動きだけでなくライダーの動きや姿勢が変わる。ステアリングについても、ハンドルの切れ角だけでなく、車体が傾きながら曲がる。さらに、路面の振動を拾いやすく、センサーに影響を与えてしまう。これらをスマートフォン上で検知、診断、フィードバックをおこなうのだ。

二輪安全運転診断アプリ(実証実験版)の画面二輪安全運転診断アプリ(実証実験版)の画面ホンダ 安全運転普及本部 川渕貴之氏ホンダ 安全運転普及本部 川渕貴之氏

こうした課題に対しホンダは、長年蓄積してきた四輪や二輪のセンサーデータを基に独自ロジックの方を構築し、ブレーキや車輪、車体の傾きといった動作を分別することができるようにした。そのアルゴリズムには、ホンダの交通教育センターで安全運転を指導してきたプロインストラクターの判断や、開発ライダーの実測データを盛り込んだ。川渕氏は、「センサーから出てきた情報を大小で判断するというわけではない。安全な運転とは何かというものをデジタル化できているのでは、と考えている」と話した。

今回の取材では実際にアプリを試すことができたが、上着のポケットにスマートフォンを入れただけの状態での走行でも、加速、減速、コーナリングを検知し、診断結果のフィードバックを受けることができた。試乗車には原付スクーターの『Dio』と『CB400SF』が用意されていたが、まったく異なる挙動を示す2台でも検知の正確さは変わらず。アプリ内で車種のキャリブレーション(補正)をおこなうことで、同一条件に近い診断結果を提供するということだった。

◆ホンダとウーバー「私たちの目指すゴールは一致している」

ホンダとウーバーとの連携による二輪安全普及への取り組みホンダとウーバーとの連携による二輪安全普及への取り組み

ホンダとウーバーは、配達事業だけでなく配車事業も含めた二輪パートナーの交通安全意識の向上に向け、2025年より連携をおこなっている。

同3月には、ウーバーアプリを通じたシミュレーション型の二輪車の安全啓発コンテンツを共同制作し配信を開始。ホンダが長年にわたり実施している交通安全教育のひとつである危険予測トレーニングをベースに、二輪車で走行時に発生しやすい危険なシナリオを選定。映像を見ながら、クイズ形式で危険な状況を回避するための知識を得ることができる。このコンテンツは、2026年5月時点で21か国、50万人に利用されているという。今後は四輪向けの配信も予定している。

ウーバーアプリを通じたシミュレーション型の二輪車の安全啓発コンテンツウーバーアプリを通じたシミュレーション型の二輪車の安全啓発コンテンツウーバーアプリを通じたシミュレーション型の二輪車の安全啓発コンテンツウーバーアプリを通じたシミュレーション型の二輪車の安全啓発コンテンツ

また2025年11月、2026年6月にはウーバーイーツの二輪配達パートナーを対象としたオンライン安全運転講習も実施。ホンダが運営する交通教育センターのインストラクターが講師をつとめ、都市部での走行、天候や時間帯による事故リスクなど、実際の配達業務に即した危険予測トレーニングを提供している。今後も日本での継続的な実施を予定する。

ウーバーイーツでは従来より、スマートフォンのGPSセンサーから取得した速度情報をもとに、速度の出しすぎを検知し忠告する機能を運用してきた。この8月には、速度超過を検知した際にアプリ上でタイムリーに警告を送る機能を全国で導入している。速度超過が繰り返し検知された場合には、アプリへのアクセスを一時的に制限し、安全講習の受講を義務付けるなど、テクノロジーを活用した厳格な措置を講じているという。

ウーバージャパン セーフティ部の尾竹森部長は、「私たちの目指すゴールは一致している。ホンダ様の高度な安全知見とウーバーの大規模なプラットフォームを掛け合わせた交通安全啓発の強化、テレマティクスや走行データを活用した行動変容を促すテクノロジーの導入、そして外部パートナー様との連携をさらに強化していくこと。これらを通じて、世界中でウーバーを利用するドライバー、そして配達パートナーの皆様の安全性の継続的な向上に努める。安心、安全なデリバリーのインフラの実現に向け、ウーバーイーツはこれからも全力を尽くしていく」と展望を語った。

二輪安全運転診断アプリ原付とモーターサイクルで体験二輪安全運転診断アプリ原付とモーターサイクルで体験

◆四輪向けの“とにかく褒める”運転診断も

8月31日におこなわれたメディア向け取材会では、ホンダが開発中の四輪向け運転診断技術も公開された。ウーバーイーツとの二輪向けアプリのベースとなっている技術で、前述の北米向け運転診断を発展させ、日本向けの展開を計画しているという。

これは、ホンダが持つ「セーフティマップ」と連携をし、オープンデータを元にした事故データや、テレマティクスデータを活用したリスク地点の情報、その地域の住民が投稿した危険な場所のデータなどを組み合わせ、その地点に差し掛かると音声で知らせてくれる、というもの。また、特定のアルゴリズムで、ドライバーの運転評価も音声で伝える。

特徴は、点数や“良い”“悪い”といった評価ではなく「歩行者や自転車に配慮していますね。社会貢献の姿です」「あなたは社会の模範となるようなドライバーです」「曲がり方がとても綺麗ですね。速度もバランスが良いですね」といった表現をおこなうこと。「安全な運転ができている際にはとにかく褒める、ということをねらっています」と開発者は説明する。

一方で、速度を超過したような場合には「このエリアは40キロ制限なんですよね。きっと何かしらの理由があるんでしょう」など、単純に警告を発するのではなく、疑問を投げかけることで自発的に安全意識を高めてもらうことをねらう。

ホンダが開発中の四輪向け運転診断技術を体験。「褒めて伸ばす」ことを念頭に置いたというホンダが開発中の四輪向け運転診断技術を体験。「褒めて伸ばす」ことを念頭に置いたという

これだけでなく、「ほうれん草のシュウ酸は結石の原因となりますが、ゴマと一緒に食べるとビタミンEがそのリスクを抑えてくれます」など、運転とは全く関係のない情報を発話することも。これは、運転初心者に向けた機能ではなく、運転に慣れた人にこそ使ってもらうために、ラジオ感覚で利用できるように工夫されたアイデアだという。「日常の運転を通じて、いろんな気づきを得られるというのが、開発のねらいのひとつ」だと開発者は説明する。

この機能について、実用化時期などについては明かされていないが、生成AIの搭載、ナビゲーションとの連携、ホンダの先進安全技術「ホンダセンシング」への採用など、さまざまな可能性が感じられる技術となっていた。

ホンダは、2030年に全世界でホンダの二輪車、四輪車が関わる交通事故死者半減、2050年には交通事故死者ゼロをめざしている。車両の安全技術の進化だけでなく、ソフト面でも安全への取り組みや啓蒙活動をおこなっていく。

《宮崎壮人》

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