インド市場で問われる姿勢とは - スズキ 石井直己 代表取締役副社長[インタビュー]

インド市場で問われる姿勢とは - スズキ 石井直己 代表取締役副社長[インタビュー]
インド市場で問われる姿勢とは - スズキ 石井直己 代表取締役副社長[インタビュー]全 5 枚

1980年代からインド市場への進出を進め、45年にわたって現地との関係を築いてきたスズキ。同社代表取締役副社長の石井直己氏は、2020年にスズキへ入社する以前、トヨタ自動車でインド現地法人の社長を務めた経歴を持つ。トヨタとスズキという立場で、インド事業における重責を遂行した石井氏の経験値は、インドでの事業展開を検討する日本企業にとって示唆に富むものになるはずだ。

2026年9月17日に開催するオンラインセミナー「【池田直渡の着眼大局セミナー】第10回 スズキ 新興国魂で切り拓く未来 -インドと共に成長する-」に先立ち、講師である石井氏にインタビューした。

インドと真剣に向き合い、人財が育つ

インド市場への進出は、多くの日本企業にとってひとつの目標であり、かつ懸案でもあるだろう。インド市場での成功事例として、誰しも思い浮かべるのがスズキだ。同社代表取締役副社長の石井直己氏は、スズキの強みをこのように説明する。

「スズキがインドに進出して以来45年間、インドの方々と日本人社員が共に成長を重ねてきた結果、日本側の人財そのものが、他社と比較して、インドの活力に接し、学び続けることで、新興国魂を維持することが出来たということだと思います。先進国型の企業体質が定着した日本企業の従業員と比較しても、当社は今なお大企業化が進んでいないと感じています」

45年という年月をかけてインド事業に向き合ってきたことで、スズキの日本人社員自身が、いわゆる大企業病に染まりきっていない組織文化を保持しているというのが石井氏の見立てである。

【池田直渡の着眼大局セミナー】第10回 スズキ 新興国魂で切り拓く未来 -インドと共に成長する- セミナー資料

スズキの人財がもつ強みとは

石井氏は、自身のキャリアを振り返りながら、スズキの人財がもつ経験値の厚みについて言及する。

「私は以前、トヨタのインド現地法人の社長を務め、その後日本に帰任しました。その当時、トヨタの中で私はインドの専門家という位置づけでした。ところがスズキに来てみますと、私のインドに関する経験と知識は、スズキの中では中程度にすぎません。それほど、スズキの多くの社員がインドでの実際の経験と、その経験によって培われた判断力を持っているということです」

スズキは、Next Bharat Venturesというインド子会社を通じて、現地の地方都市や農村で活動するスタートアップ企業へ出資するプロジェクトを進めている。モビリティ分野だけでなく、農業や金融、サプライチェーンなど様々な分野で、様々な社会課題をビジネスで解決し、地方や農村の発展に貢献する企業を発掘・支援するものだ。

【池田直渡の着眼大局セミナー】第10回 スズキ 新興国魂で切り拓く未来 -インドと共に成長する- セミナー資料

「スズキでは、Next Bharat Venturesに日本人社員を継続的に送り込んでおります。この取り組みを通じて、インドの経験者がさらに増え、経験を積んだ人間はインドに関する判断力をより高めていきます。この循環を広げ続けることが、おそらくスズキにとっての勝ち筋になると考えています」

現地経験を持つ人財を計画的に増やし続けることで、組織全体の判断力の底上げを狙う仕組みづくりとも捉えられる戦略である。

貢献したい、という発想の転換

インド市場への向き合い方について、石井氏がもっとも強調したのが、利益よりもまず現地への貢献を優先するという姿勢である。

「これからインドへの進出をお考えの企業の方々にお伝えするとすれば、成長するインドで利益を得たいという考えは当然あるかと思いますが、しかし当社は、まずインドに貢献する、という姿勢を大事にしています」

この背景には、インドのビジネス文化に関する石井氏の理解がある。

「インドのビジネスは、個人と個人の信頼関係を基盤として成り立っています。たとえばお取引先様、販売店様に至るまで、横のつながりが構築されていますので、その中の全員から信頼を得なければ、パートナーとして認められることはありません」

「したがって、現地の方々の立場に立って、まず貢献をし、その結果として利益がついてくるという発想に立たなければなりません。当社の社員は、インドに限らず他の地域に対しても、貢献意識や共存共栄の精神をもって取り組んでいます。そうした姿勢の積み重ねが、結果としてインドの方々にも受け入れられてきた要因であると考えております」

お金よりもまずは人から - Next Bharat Ventures の実践

このような理念を実践に落とし込む場として石井氏が挙げたのが、Next Bharat Venturesでの活動である。同社は、地域社会に恩恵をもたらす意志を持つ現地の起業家、いわゆる「インパクト企業」を発掘し、支援する役割を担っている。

「Next Bharat Venturesでは、さまざまな活動を展開しておりますが、その一環として、こうした理念を共有していただける日本企業の方々からも、現地へ出向者や出張者を派遣していただいております」 

「Next Bharat Venturesに出向していただいている各社の社員の方々にはそれぞれの企業が持つ強みを活かして、Next Bharat Venturesが投資や支援を行っている企業の成長をサポートいただいております。また年間1回、20名の出張者を現地へ派遣するプログラムもございます。その内訳は学生と企業からの参加者が半数ずつです」

「ただし、視察目的や資金提供のみといった関与はお断りしております。何よりもまず、人が先に現地に入らなければ意味がないと考えております」

【池田直渡の着眼大局セミナー】第10回 スズキ 新興国魂で切り拓く未来 -インドと共に成長する- セミナー資料

実際に駐在員を派遣した企業の一例として、石井氏は静岡銀行の名前を挙げた。

「いくつかの企業に参加いただいておりますが、地元の例で申しますと、静岡銀行様から1名を派遣いただき、すでに1年ほど現地に駐在されています。先般、上司にあたる方が、実際にインドを訪れ、どのような視点でどのような活動が行われているかをご覧いただいたのですが、ここまで現地社会に入り込まなければ、現地の実情も、インドに貢献することの真の意味も理解することはできないと、大きなショックを受けていらっしゃいました」

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

+ 続きを読む

アクセスランキング

  1. ホンダ、レアアース不使用の永久磁石開発企業の米「Niron Magnetics」に出資
  2. 『マツダスピリットレーシング3』ついに市販化へ? デザインを大胆予想!
  3. 復活のホンダ『CB400スーパーフォア』販売快調、約2週間で2700台を受注…一番人気カラーは「ウルフシルバー」
  4. 「なんじゃこりゃー」「アニメから飛び出てきたみたい」アストンマーティン初の公道向けバイク『AMB002』にSNS驚愕
  5. BRJが造船所に電動キックボードを納入…月160時間の合理化、地方での展開も
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 居眠り・脇見を監視、「DMS」を義務化…乗用車は2031年から、バス・トラックではすでに普及
  2. ホンダの交換式電池、建設現場で実証…高さ385mの「トーチタワー」
  3. 電動車は誰が最後まで面倒を見るのか…KPMGコンサルティング プリンシパル 轟木光 氏[インタビュー]
  4. 【全文PDFプレカン】日産自動車 長期ビジョン発表会
  5. EV・欧州減速=日本が正しかった、では見えてこない欧州市場と中国の戦略[インタビュー]
ランキングをもっと見る