米国で自動運転タクシー、いわゆる「ロボタクシー」を展開するWaymoが、2027年中に東京で自動運転レベル4による完全無人タクシーの商用サービスに乗り出す。Waymoと日本交通、タクシーアプリ「GO」を運営するGOの3社が、東京における戦略的パートナーシップに合意した。
ポイントは、これまでのような自動運転の実証実験ではないことだ。運転席にドライバーが座らない車両に一般客が乗り、料金を支払って目的地まで移動する。つまり、「普通のタクシー」として完全無人の自動運転車を利用できるサービスを目指していることが従来との大きな違いだ。
◆2025年の「東京進出」から商用サービスへ

そもそもWaymoはGoogleの自動運転プロジェクトをルーツとし、現在はGoogleと同じAlphabet傘下で自動運転技術を開発している。米国ではすでにドライバーを必要としない完全自動運転による配車サービスを展開中で、同社によれば現在は15都市に展開し、週50万回を超える乗車を提供する規模にまで成長している。
Waymoが日本進出を発表したのは2024年12月。2025年にはジャガー「I-PACE」をベースとしたWaymo車両を東京へ導入した。当初は日本交通の乗務員が運転しながら、港区、新宿区、渋谷区、千代田区、中央区、品川区、江東区の都内7区を中心に走行し、道路や交通環境に関するデータを収集した。
その後は、日本交通で専門的な訓練を受けた乗務員が運転席に乗った状態で、完全自動運転システム「Waymo Driver」による自律走行試験へ移行。現在は数十台規模のWaymo車両が東京を走行している。
◆1年間の検証を通してわかったこととは?
この1年間の検証で重要なのは、米国とは異なる日本独特の交通環境にWaymo Driverを適応させてきたことである。
東京では、幅の広い幹線道路からセンターラインのない狭い生活道路へ入り込むことも多い。そこでは歩行者や自転車、対向車が限られたスペースを共有し、路上駐車や荷物の積み降ろしをする車両を避けながら走る場面も日常的に発生する。
繁華街ではさらに複雑だ。歩行者や自転車がさまざまな方向から車道へ近づくため、単に信号や車線を認識するだけでは足りない。周囲の動きを継続的に把握し、歩行者が横断するのか、自転車が進路へ入ってくるのかなどを予測しながら走行する必要がある。
Waymoはこの1年間について、「Waymo Driverが東京の道路を“地元のドライバーのように”学び、狭い生活道路や人が密集する場所で自律走行の経験を積んできた」と説明する。

その学習を支えたのが、公道走行とシミュレーションを組み合わせた開発手法だ。東京で収集したデータをもとに3Dマップやシミュレーション環境を構築し、公道で遭遇した交通状況を仮想空間でも再現。Waymo Driverの判断を繰り返し検証することで、再び実車で確認するサイクルを重ねたという。
Waymo Driverではカメラ、レーダー、LiDARなどを組み合わせて車両周囲360度を把握し、最大300m程度まで周囲の状況を3Dで認識できるという。つまり、この1年間に行われてきたのは単なる「東京の地図作り」ではない。実際の道路から得たデータを使いながら、Waymo Driverの判断そのものを東京の交通環境へ適応させる作業だったのである。
ただし、発表では、東京での走行距離やドライバーが介入した回数など、検証結果を示す詳細な定量データは公表されなかった。現段階は「東京で完全無人走行の安全性が証明された」というより、2027年の商用化に向けて東京特有の交通環境への適応が進んだ段階と見るべきかもしれない。
◆GOで「有人」と「無人」のタクシーを呼べる

今回の計画で興味深いのは、Waymoが単独で日本へ進出するのではなく、日本の既存タクシー産業の中に組み込まれる形を採っていることだ。
3社の役割は明確である。WaymoはWaymo Driverをはじめとする自動運転技術や運用基盤、車両管理システムなどを提供する。日本交通は約100年にわたって東京で培ってきた経験を生かし、車両の運行管理や営業所運営などを担当。そしてGOは地域のタクシー事業者との連携やサービス全体の設計、ユーザーとの接点となる配車プラットフォームを担う。
この中で利用者にとって大きなメリットとなりそうなのが、普段使っている「GO」アプリからWaymoを呼べることだ。将来的には同じアプリから従来の有人タクシーとWaymoの完全無人タクシーを利用できるようになる。さらにWaymo自身のアプリからも配車できる予定で、米国などでWaymoを利用した経験がある訪日外国人にとっても利用しやすくなりそうだ。
自動運転を特別なサービスとして独立させるのではなく、「いつものアプリで呼べるタクシー」のひとつにしようとしているのが最大に特徴と言えるだろう。
◆背景にある将来のドライバー不足

Waymo導入の背景には、日本が抱える交通サービスの担い手不足がある。人口減少や高齢化が進むなか、バスやタクシーなど地域交通を担うドライバーの確保は大きな課題となっている。
ただ、日本交通は完全無人タクシーを人間のドライバーと置き換えるものとは位置付けていない。若林泰治社長は、「有人タクシーと共存しながら将来的な乗務員不足を補完し、より安全で質の高い交通インフラを次世代へ引き継ぐ取り組みだ」と説明する。
完全無人タクシーが実用化されれば、ドライバー不足を補うだけでなく、鉄道が運行を終えた深夜帯など、既存の交通サービスを補完する役割も期待できる。



