結論から言えば、ハードウエアとしての新型『エルグランド』は、クラスの基準を塗り替えるほど非常に優れたクルマに仕上がっていた。
◆ドアを閉めると広がる別世界
今回登場した新型となる4代目は、先代のプラットフォームを熟成・進化させて採用している。サスペンションはフロントにストラット、リヤにマルチリンクの組み合わせだ。このプラットフォームの進化は、心臓部であるパワーユニットの刷新が大きく影響している。
新たに用意されたパワーユニットは従来とは完全に異なり、1.5リットル直列3気筒エンジンに前後モーターを組み合わせた、シリーズハイブリッドの「e-POWER」へと生まれ変わった。特筆すべきは、前後にモーターを配置していることから分かる通り、駆動方式が「e-4ORCE」と呼ばれる4WD仕様のみに絞られている点である。
日産 エルグランド
新型エルグランドに乗り込み、重厚なドアを閉めると、それだけでもう車外とは切り離された別世界が広がる。じつに静かなのだ。エルグランドは、通常フロントウインドウに用いられる合わせガラスを、三角窓、フロントドア、さらにはリヤドアのガラスにまで贅沢に採用し、徹底的に遮音性を高めている。だからこそ、ドアを閉め切った瞬間から圧倒的な静寂が訪れるというわけだ。
もっとも、この合わせガラスは圧倒的な静粛性をもたらす一方で、水没時の安全性を揺るがすという構造的な弊害もはらんでいる。昨今の大雨災害などで話題となった「脱出ハンマー」が役に立たず、万が一の際にガラスを容易に割ることができないのだ。だが、裏を返せば、同じように脱出ハンマーで外からガラスを強引に破られ、暴漢が車内に侵入してくるリスクを防ぐという高い防犯性も兼ね備えている。いわば「痛し痒し」のトレードオフである。
◆力強いトルク感と静粛性はe-POWERの真骨頂
日産 エルグランド走り出しはエンジンが始動せずモーター駆動のみとなるため、当然のように滑らかで静かだ。今回の試乗会は、東名高速・御殿場インターチェンジ近郊のホテルを起点に行われた。まずは、箱根の険しい山並みを目指しての上り勾配区間から試す。
かつては3.5リットル・V6という大排気量エンジンを背負っていたクルマが、いまや1.5リットル直3へとダウンサイジングされた。頭の固い保守的な層がこのスペックの差を聞けば、さぞとんでもなく非力で遅いクルマを想像するに違いない。しかし、シリーズハイブリッドであるe-POWERの真骨頂により、その性格は旧型とは比較にならないほど劇的に異なるものへと昇華されていた。
アクセルペダルを踏み込んだ瞬間、静けさを保ったまま、圧倒的かつ非常に力強いトルク感が、2.5トンに迫る巨体を力強く加速させていく。エンジンの単体出力は140馬力・228Nmにとどまるが、実際に路面を蹴るフロントモーターは205馬力・330Nm、リヤモーターは136馬力・195Nmという強大なスペックを誇る。単純な合算はできないものの、前後合わせて300馬力を遥かに超えるのだから、これだけの車体を十分に速く走らせて当たり前なのだ。
さらに驚かされるのが、その徹底的な静粛性である。再加速に伴いエンジンが始動するものの、意識を集中させていなければ、いつエンジンがかかったのか気付かないほどジェントルだ。第3世代へと進化したe-POWERは、エンジンの発生する振動を実に40%も低減しているという。
加えて見逃せないのが、「アクティブノイズコントロール」の採用だ。日産が1991年に当時の『ブルーバード』へ世界初採用したこの技術は、かつては発生したノイズをマイクで拾い、それを相殺する逆位相の音をぶつける制御だった。しかし、現代のアクティブノイズコントロールは、回転数信号などをもとに車内の騒音を的確に相殺する音を発生させるため、車内の静粛性を次元の違うレベルまで引き上げている。
◆「コンフォートモード」で味わえる緻密なブレーキ制御
日産 エルグランドエルグランドには、スポーツ、スタンダード、コンフォート、エコ、スノー、パーソナルという多彩な走行モードが用意されている。それぞれのモードに応じて、加速力、減速力(回生力)、ステアリングの操舵フィール、サスペンションの減衰力、そしてe-4ORCEの緻密な制御が統合制御される。パーソナルモードは、それらのパラメータを好みに応じて自在にカスタマイズできる設定だ。
基本的にはスタンダードモードでルートを進んだが、箱根のタイトなワインディングではスポーツモードも試した。スポーツモードに切り替えると、加速のレスポンスとダンパーの減衰特性が一気に引き締まる。感覚としては、アクセルペダルへの踏力に対するクルマの反応速度が一段と鋭敏になる印象だ。当然、ステアリングの手応えや足回りの引き締め感も高まるため、ハンドリングはスポーツカーさながらにシャープな表情を見せる。
さらに、e-4ORCEの制御もリア寄りの駆動配分へと変化し、コーナーのエイペックスに向かってスッとノーズが入り込む回頭性の高さを見せつけ、Lクラスミニバンとは思えないほど軽快に駆け抜けることができる。エルグランドはホイールベースが3m、全長が約5mにも及ぶ巨艦であるにもかかわらず、ワインディングをまるで羽が生えたかのようにヒラリヒラリとクリアしていけるのは見事の一言だ。
日産 エルグランドそうそう、走行モードの文脈でもう一つ書き留めておかねばならないのが「コンフォートモード」の存在である。コンフォートモードはその名の通り乗り心地を最優先したセッティングであり、路面の継ぎ目から伝わってくる微細な低周波振動をしなやかにいなしてくれる。
さらに特筆すべきは、そこに組み合わされた緻密なブレーキ制御の完成度だ。どれほど運転巧者なドライバーであっても、停止寸前にはブレーキペダルの踏力を巧みに抜き、ノーズダイブや揺り戻しを最小限に抑えてピタリと止まるものだが、慣れていない乗員がいると最後まで踏み続けてしまい、いわゆる「カックンブレーキ」を誘発しがちだ。しかしエルグランドのコンフォートモードでは、この不快なカックンブレーキをシステムが自動的に補正してくれる機能が付加されている。まるで熟練のベテランドライバーが最後にそっとブレーキを抜くかのように、油圧を絶妙にコントロールしてスムーズに停止させてくれるのだ。
ただし、ドライバーが危険を察知して強く踏み続けた場合など、緊急の急ブレーキと判断されたシーンではしっかりと液圧を維持する賢さも備えている。
◆「プロパイロット2.0」の価値を痛感する
ステアリングスイッチ日産の走りを語る上で外せないのが、ハンズオフドライブを可能にするプロパイロットの存在だ。新型エルグランドは、上級の「G e-4ORCE」と、ベーシックな「X e-4ORCE」という2グレード構成となっている。このうち、上級のG e-4ORCEにはプロパイロット2.0がオプション設定され、ベーシックのXでは選択不可という住み分けがなされている。G e-4ORCEには、ナビリンク機能、渋滞時ハンズオフモード、車線変更支援機能などを網羅した高度運転支援システムが備わる。一方のX e-4ORCEに備わるのは従来のプロパイロットだが、それでもレーンキープ性能の向上、車線変更支援の洗練、コーナー手前での減速支援などがしっかりと組み込まれている。
今回の試乗車はG e-4ORCEであり、プロパイロット2.0が装備されていた。高速道路の奔流に乗せてACCを作動させると、最初は通常のACCとして機能し、条件が整うとスムーズにプロパイロット2.0、すなわちハンズオフ領域へと移行する。かつてこのシステムが初めて『スカイライン』に搭載された際、「はたしてハンズオフなど何に役立つのか」と穿った見方をしていたが、年齢や環境が変わればその評価も自ずと変わる。
じつは筆者は現在、肩を痛めており、長時間ステアリングを保持し続けることが肉体的にそれなりな負担となっている。こうした状況下でハンズオフ走行の恩恵にあずかると、ドライバーの疲労や身体的負担が劇的に軽減され、ロングドライブが驚くほど楽になるのだ。
例えば、肩の腱が断裂、あるいは切れかかる「腱板断裂」という症状は、60歳代ともなれば15~25%もの人に発症すると言われている。もちろん、発症していても60~70%は無症状のままで過ごしているというデータもあるが、統計的に見ても決して無視できない割合で起きるものだ。そうした身体の不具合や加齢による疲労を抱えるドライバーの負担を文字通り肩代わりしてくれると考えれば、このハンズオフ機能がいかに尊く、意味のある装備であるかを痛感させられる。
高速道路におけるエルグランドの巡航フィールは、まさに極上のひと言に尽きる。乗り心地はどこまでもフラットで優美、静粛性も一級品であり、どれほどの長距離を移動しようとも心身の疲れを最小限に抑えてくれる確かな手応えがあった。
◆シートレイアウトと荷室の使い勝手
日産 エルグランドのセカンドシート居住空間の要であるシートレイアウトは、前から2-2-3名の7人乗り仕様。助手席およびセカンドシートには贅沢なオットマンが備わり、フラッグシップにふさわしい極上のプライベート空間を演出している。後席に向かうにつれてフロアやシートポジションがわずかに高くなる「シアターレイアウト」を採用しているのも見逃せない。
後席の乗員にも前方の視界や開放感を届けたいという開発陣の思想に基づくものだが、実際に目に見えて劇的な高低差があるわけではなく、乗員の座高や体格によってその恩恵の感じ方は大きく左右される。とはいえ、後席に座る子供たちが少しでも前方の景色を見渡せたり、リアエンターテインメントのモニターをクリアに視認できたりするという点において、一定以上の価値を持つことは間違いない。
サスペンション格納式のサードシートは、左右へ跳ね上げてラゲッジスペースを拡大する伝統的なタイプだ。セカンドシートは前後スライド機構を備えており、サードシートを跳ね上げた状態での「セカンドシート後端からバックドアまでの奥行き」は、セカンドシートが標準位置にある状態で約1105mm、最前端までスライドさせると約1580mmという広大な空間が出現する。
荷室容量は最小で137リットル、最大で1348リットルを確保。セカンドシートを最後端にセットした状態では、9.5インチのゴルフバッグをそのまま積むことは難しいが、スライド位置を調整すれば効率的な積載が可能となる。
フルラゲッジ◆高級ミニバンとして隙のない完成度
エルグランドをこの目で見て、触れ、実際に走らせて肌で感じたのは、高級ミニバンとしてのハードウエアが隙のない、文句なしの完成度に達しているという事実だ。先行受注の開始から8月末の時点で実に9000台もの受注を集めているというデータも、このクルマの市場における圧倒的な競争力と、販売の好調さを雄弁に物語っている。
価格は、ベーシックな「X e-4ORCE」が689万7000円、上級の「G e-4ORCE」が757万9000円。カタログモデルの標準グレードとしてはこの2本立てとなるが、日産モータースポーツ&カスタマイズ(旧オーテックジャパン)が手がける専用カスタムモデルも4機種がラインナップされており、その頂点に君臨する最上級の「VIP」は869万8800円というプライスタグを掲げる。
現時点では、ラインナップの全タイプが4WDモデルで占められている。大きな車体や重量、およびe-POWERやe-4ORCEの性能を統合的に考慮すれば、あえて2WDを設定しづらいというメーカー側の事情も理解できる。しかし、それにしてもグレード名にわざわざ「e-4ORCE」と冠されている点が、どうにも気になってしまう。
現状の選択肢に4WDしか存在しないのであれば、わざわざ車名に「e-4ORCE」と名付ける必要があるのだろうか? それとも、日産が次世代の電動4WD技術である「e-4ORCE」のブランドアイコンとして、このエルグランドを強く印象付けたいがための戦略なのだろうか。大いに興味をそそられる、ちょっとした引っ掛かりである。
ハードウエアとしては、完全に合格で素晴らしいレベル。ただし、絶対値として価格が高いのが残念であり、おすすめ度の★は4つとした。
日産 エルグランド■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★
諸星陽一|モータージャーナリスト
自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。趣味は料理。




