『ランエボVII』に搭載されたハイテクの目玉といえば、ACD(アクティブ・センター・デフ)。油圧多版クラッチを作用したことで、これまでのVCU(ビスカス・カップリング)式に比べ、最大3倍もの作動制限力と、よりキメ細かな制御を可能にしたという。その開発ストーリーを、おなじみ三菱自動車乗用車技術センター・振動実験部・操安試験担当の松井孝夫さんにきいた。
そもそものギモンは「作動制限力」とはナニカ? ということだ。前後車軸へのトルク配分を任意に変える、というこなのだろうか?
「違います。作動制限力というのは、センターデフの連結状態を、フリーから直結状態まで変化させる力のことであり、その範囲を意味します」と松井さん。
「たとえば、スカイラインGT-Rでは、前後車軸へのトルク配分を10〜100%に変化させるシステムを採用していますが、『ランエボ』の場合は、前後車軸へのトルク配分はつねに50:50なんです。そのうえでセンターデフの連結状態を、フリーからほぼ直結状態まで変化させる、というシステムを取っているんですね。で、今回ACDを採用したことで、その直結時の結合力(つまり作動制限力)が、これまでのVCU式より3倍も高くなり、パートタイム4WD車で直結を選んだときに匹敵する、ほとんど完全直結に近い状態まで、結合能力を高められたんです」
従来のVCU式センターデフは、前後の回転軸の回転差によって、デフ内に封じ込められた液体の粘性が変化することで、作動制限力を得ていた。これに対してACDでは、多板クラッチを油圧で押しつけるため、より高い作動制限力を得られたわけだ。その結果『ランエボVII』では、直進時のより高度なトラクションと高速安定性を得た。いっぽう、旋回時には前後の結合力をフリーに近くして、「曲がりやすさ」を得ている。その間の結合力の制御も、油圧多板クラッチを電子制御するシステムを取ったことで、よりきめ細やかな制御が可能になったという。
ちなみにワークスWRカーのセンターデフでは、同じ多板式を用いながらも、オペレーションは油圧でなく、電磁クラッチを使用しているという。なぜ市販車では、同じシステムを採用しないのだろうか?
「市販車に使うには、コストや耐久性、それに多大な電流が流れる、といった問題点があるからです。それに『ランエボ』は以前から、AYC(アクティブ・ヨー・コントロール)の制御のために、リアデフに油圧システムを使っていますから、この実績ある油圧回路をACDにも使おうとうことになったんですね。ただ当初は、VCU式に比べて反応速度が遅くなるのではないか、との心配があったんです。それを踏まえて、まず、かなり敏感な反応をするように設定してテストしてみたところ、普通の人間の感覚以上に敏感に作動してしまい、かえって反応を鈍く設定したくらいでした」と、松井さんは開発当時を振り返る。
「それからACDの作動フィール自体は、VCU式の感じを残すようにしています。VCUの作動フィール自体は自然で素直なものですし、そのほうがこれまでのドライバーにも受け入れやすいと考えたからです」と松井さん。コストの問題はどうですか、とたずねると、「たしかにVCU式よりは高いけれど、それだけの効果は確実にある」とのこと。競技用の「RS」のユーザーにも、ぜひオプション設定をしてほしい、とのことだった。