【放談会2002 Vol. 3】日産は生き返ったのか?

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【放談会2002 Vol. 3】日産は生き返ったのか?
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三浦 日産リバイバルプランが1年前倒しで達成され、今度は販売台数の増加も目標に掲げた『日産180(ワンエイティ)』プランです。これをどう見ますか?

安田 ゴーンさんが日産へ来てやったことは、まず財務体質の改善です。コストカットを中心にやった。

牧野 それと人切り。日産本体ではやっていなくても関連会社では切られているし、村山工場閉鎖で仕方なく辞めて行った地元の人たちも多いと聞いています。

安田 そう。生産現場で働く人は、地元に工場があるから就職するんです。生活設計を立てて、地元に家も買ったとか、親の介護をしなければからないとか、そういう事情の人たちが多いんですよ。それを、工場を閉鎖するから栃木へ行け、追浜へ行けと言っても無理だ。仕方なく自主的に辞める。でも、それは生首を飛ばしたのと変わらない。日産のほかの工場だって、日産と取り引きしている中小の部品メーカーだって、明日は我が身かも……と思いますよ。

牧野 結果的に社内のモラル低下につながる可能性がありますね。心のしこりというか、会社への信頼は揺らぐ。従業員が日産のファンであることを辞めて、ただ賃金だけのつながりになる。

安田 ゴーンさんは『プレジデント』という雑誌の中で「いや、日産は『アルティマ』でアメリカの01年カー・オブ・ザ・イヤーを取ったし、日本では『マ−チ』も売れています」と、商品面での成果を強調しています。コストカットだけやったのではない、と。そして、これからは失われたシェアを取り返すんだ、という意志が『180』なのだろうと思う。それは当たり前なんだ。問題はその手法です。ゴーンさんが日産の舵取りを行う中では部品メーカーを選別してきた。納入価格を一律何%削れ、と。できませんと言った会社は切られた。トヨタは30%の原価低減を部品メーカーに要求する会社ですが、達成できれば15%を還元するんです。そういうことをやりながら関係を築くんです。そこがゴーン流との違いだ。

三浦 コスト低減というものは、納入業者だけではできないということですか。

牧野 忠実な僕は作れても本当のパートナーは作れない。

安田 そういう意識をゴーンさんがどれだけ持っているか。『プレジデント』誌に語った反論を読む限りでは、まったく理解できない。

牧野 ゴーン氏の自伝を読むと、ミシュランでのブラジル時代やルノーに入ってからのことが書いてあります。彼はエンジニアとして教育を受けたけれど、やってきた仕事はエンジニアではない。レバノンで生まれ、フランスで一流の教育を受け、有名企業で先頭に立って戦ってきた。いわば戦闘部隊の指揮官です。戦略家とは思えないし、兵站(へいたん)や技術も門外漢です。だからこそ、商品面でしっかりした見識と主張を持った人間がサポートすべきなのですが、そういう人は日産にはいない。ペラタ氏では勤まらないですよ。

三浦 日産プロパーにはいない、ということですか?

牧野 プロパーにもルノー組にもね。いま、日産の商品群について言えることは、たしかにデザインは元気になったということです。ゴーン体勢になる前に市販デザインが決定していたプリメーラも含めて、その後のエクストレイル、スカイライン、ステージア、そして最近のマーチと、たしかにデザインのレベルは高くなってきました。それと、セドリック/グロリア、シーマといった1台当たりの利益率が高いクルマから順にテコ入れしてきた路線が、やっとマーチまで回ってきた。もちろんモデルチェンジのタイミングもあったわけですが、低価格車まで商品力強化を行えるようになったのは、リバイバルプランの成果です。財務体質が改善され、商品にお金が回るようになった。やっと若者が買える値段のクルマに元気がでてきた。

三浦 それはデザイン面の躍進は中村史郎氏の功積でもあるわけですね。

牧野 もちろんです。日産デザイン部が本来の実力を発揮できるムードと体制を作り、生産技術部門などがデザイン部をバックアップするという御墨付きをゴーン社長から引き出した。しかし、それ以外に何かあるかというと、思い浮かばないんです。デザインだけは良くなったが、クルマの出来はそれだけじゃ語れない。もっと本質的な部分で前へ進まなければならないのですが、外から見ているかぎりでは、開発現場まで英語偏重人事になっている。ガイジン側とコミュニケーションを取れる人間だけがいたるところで表に出てきている。そう感じます。かつて『901活動』の時代、日産は90年代に技術で世界一になるのだというスローガンをかかげていた時代に現場で活躍した人たちは影が薄いんです。

安田 僕は日産については思い入れがあって、トヨタのライバルはやはり日産であるべきと思うのです。しかし、コスト低減の進め方にしても、トヨタと日産は対極にある。トヨタが進めてきた『CCC21』は、開発、購買、生産の各部門から協力部品メーカーまですべてがコスト競争力でナンバーワンになろうというものです。四者一体。メーカーだけが良ければいい、という考え方は毛頭ない。みんなで力を合わせて生き残るという考え方なんです。言ってみれば、日本的な「情」の部分ですが、情を捨てて商売ができるだろうか。メーカーを頂点としたピラミッドだなんて思っていたら、絶対にうまく行かない。部品メーカーの社長を呼びつけて「これだけ原価を下げなさい。できないのならあなたの会社はもう要らない」では、連帯感など生まれませんよ。

三浦 会社が潰れるかどうかの瀬戸際で、情に縛られない外国人トップが辣腕を振るった、という結果だと思いますが1年も前倒しが可能ならば、その余裕で未来の日産へのフォローができたかもしれませんね。

牧野 インターネット上に条件を提示して、いちばん安く売ると言う業者から部品を買うのもいいですよ。しかし、日本のメーカーが過去に築いてきた世界に誇れるコスト競争力、欧米企業が逆立ちしてもかなわない自動車産業界の連体は、そんなところから生まれたのではない。これを忘れてはいけないと思います。

《レスポンス編集部》

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