昨年につづいて、今年も「放談会」を行った。国内の自動車メーカーを中心に、その現状を分析してきたが、この番外編では“グローバル大戦”を戦う今後の商品展開について私見を述べたい。
まずセダン。いわゆるRVが、従来のセダンに代わってファミリーカーの主役になった今、次世代のセダンをどうするのか。北米ではカムリとアコードがベストセラーだが、このサイズでは日本市場には大きすぎる。エンジンはせいぜい1800cc、全長4.5mプラス×全幅1.7mプラスというあたりが日本ではセダンの中心になる。ヨーロッパで言うCDセグメント(CとDの中間)だ。トヨタでいえばプレミオ/アリオン、日産で言えばプリメーラ(少々大きいが)、マツダひさびさのニューモデル・アテンザもここに入る。日本版アコードもそうだ。
このクラスの車種は、欧米で販売されるモデルとプラットホームを共有化したり、あるいは同じプラットホームからRV系車種を派生させるなどしてコスト低減を測っている。日本市場だけのために国内専用セダンを用意していたのは過去の話であり、いまや自動車メーカー各社はプラットホームを複数車種で共有する方向が定着した。ただし、『プラットホーム』という考え方の“縛り”は緩くなってきた。全長/全幅はもとより、トレッドもホイールベースも、カテゴリーもちがう車種を同じプラットホームから作り、しかも同じ生産ラインを流すのが当たり前だ。
いま、プラットホームの概念は『左右のフロントメインメンバーおよびファイアウォール(車室とエンジンルームを隔てる防火隔壁)とその周辺のパネルで構成される部分』に集約されてきた。極端に言えば、2本のフロントメインメンバーの間隔と、その後方にあるファイアウォールのの幅だけが同じで、あとは全長/全幅/全高もホイールベースもパッケージングもまったく違って構わない。それでも「プラットホーム共通」だ、と。メインメンバーの幅で、そこに入るエンジンの大きさがほぼ決まる。
メインメンバーが負担す衝突時の過重を多めに取っておけば、たとえば車両重量1.5tから2.2tあたりまではオーケー。あとは、どんなボディでもいい。ただし、生産面での融通を考えて、たとえば組み立てラインを流すときの台車やジグを共有できるようにしておけば、コストは嵩まない。そういう“ゆるい縛り”のプラットホームになってきた。新聞ではプラットホームに「車台」という訳語を当てているが、これは大きな誤解だ。しかも、クルマの世界で「車台」といえば、モノコック(応力外皮構造)になる前の時代の「フレーム」を指す。
さて、プラットホームの概念が自由度を帯びて来たことで、セダンの何が変わるのかと言えば、それは「多品種少量生産」の可能性だ。欧米向けとは違ったモデルが日本国内に投入される可能性だ。同時に、RV系車種も多品種少量生産の恩恵を受ける。地域ごとにキャラクターを変えたクルマを用意しても、以前のようにコストがかさまないで済む。
しかし、大型セダンとなると、事情は少し変わる。世界中を見回したとき、ある程度の販売量を見込めるのは、2500ccあたりまでだ。それ以上の、セルシオ、インフィニティQ45、BMW7シリーズといったあたりは、市場規模は大して大きくない。高額商品をいかに高率よく用意できるかが、利益率に効いてくる。その意味では、セルシオ、クラウン、アリストを同じプラットホームから作れるトヨタは有利だ。
日産は、次期Q45までを現在のスカイライン・プラットホーム(FR-L)でまかなう。ホンダはFRレジェンドの開発を進めているようだが、その登場は04年後半以降だろう。おそらく、日産がFF-LとFR-Lのプラットホームにかなりの共通性を持たせたように、ホンダも次期レジェンド/ラグレイト/オデッセイ/アコードは共通部分を持ったプラットホームにしてくるだろう。
V6エンジンは、縦に置いても横に置いても占有スペースはあまり変わらない。だからエンジンルームの設計を工夫すれば、FFとFRとを「共通性を持った別べつのプラットホーム」で作れる。FRにV8を用意したいのなら、エンジンルームを縦に少しだけ伸ばせばいい。そこまでを考えたメインメンバー設計など、すでに日産で行われている。
何が言いたいのかと言えば、高額商品分野ではFRが増えるのではないか、ということだ。そして、セダンとSUVが同じプラットホームから作られるのも当たり前だから、大形のFRベースSUVも出てくる。ミニバンにしても、現状のFFパッケージングがスペース効率最大とは思えない。なんらかのブレイクスルーで大型FRミニバンが出てくる可能性は大いにあるのだ。
そして、スポーツクーペ系。マツダはRX-8プラットホームから次期ロードスターと次期RX-7を作るかもしれない。トヨタだって、スープラを引っ込めた後に、そのまま黙っているはずがない。次期フェアレディZの発売が秒読みに入った日産は、当然、フラッグシップとしてのGT-Rを用意しているし、スカイライン・クーペも発表済みだ。
寂しいのは、シルビアが引退してセリカ・クラスのスぺシャリティ・クーペで選択肢が非常に狭められることだ。ヒュンダイ・クーペはいいところを突いて来た。小さいほうでは、トヨタがこの先もミドシップを続けてくれるだろうか。ミドシップといえば、次期NSXはどうなるのだろうか。世の中があまりにもRVへと傾いたことで注目度がダウンしたスポーツ系だが、「本当はスポーツカーが好き!」という人が実は多いのだと言うことに、個人的には望みを託しているが……。
次回の放談会では、日本の自動車メーカーがどうなっているか。この世の中はどうなっているか。サッカーワールドカップでは予選リーグ突破が目標だが、日本の“クルマ”は少なくとも決勝戦に進む実力があると思う。期待と誇りを秘めて熱い思いを語り合えたら、と思う。