パトカー追跡事故、警察官の救護責任を認めず

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パトカーの追跡を受けていた乗用車が信号待ちをしていた別のクルマに追突。このクルマに乗っていた男女が死亡した事故で、遺族側が岩手県(警察)を相手に起こしていた損害賠償訴訟の判決が2月25日、盛岡地裁で行われた。

裁判所は「追跡に違法性は無く、救護義務違反も無かった」として、遺族側の請求を全面的に棄却した。

問題の事故は1994年3月31日に発生している。同日の午前0時20分ごろ、盛岡市上堂1丁目付近にある国道4号線と県道の交差点で岩手県警・盛岡西署のパトカーから追跡を受けていた18歳の少年が運転する乗用車が右折レーンで信号待ちをしていた22歳男性運転のクルマに激突。クルマは直後に炎上した。

パトカーは追突被害を受けたクルマの横をそのまま通過。十数メートル先で停止した容疑車両の真横に停止し、運転していた18歳の少年の身柄を拘束しようとしていた。その間に追突被害を受けたクルマが炎上。乗っていた男女2人が焼死している。

いわばパトカー追跡の巻き添えによって死亡した2人の遺族側は「警察は容疑者の検挙を優先し、被害者の救出を怠った」と主張。1997年に岩手県(県警)を相手に総額1億4000万円あまりの損害賠償を求めた民事訴訟を提訴した。

県側は「追跡に違法性はなく、容疑者には逃走の恐れがあり、何よりも優先しなくてはいけなかった。事故に巻き込まれたとされるクルマには人影が確認できなかった」と主張。真っ向から対立。裁判は長期化していた。

2月25日に開かれた判決で、盛岡地裁の高橋譲裁判長はパトカーによる追跡の必要性について「窓に濃色の(スモーク)フィルムを貼り付けた上、警察官の指示を無視して逃げる運転者の犯罪を疑って追跡を行っており、これは不適当だったといえない」として、その正当性を容認した。

また、追跡の距離は約540mで、時間にして30秒弱。約100mの車間距離を保った状態で追跡が行われていたことから「追跡自体や方法にも無理がなかった」とした。

最大の争点である救護義務違反については「追突された車両に乗っていた人の生命や身体の安全が確保されないことが“相当の蓋然性”をもって予測され、それを追跡した警察官が認識できる際に生じる」という前提条件を新たに判断。これに照らし合わせてこの事故における警官の責任を図ることになった。

今回のケースでは「警官は追突事故発生を認識したが、事故を間近で目撃していない」、「追突されたクルマに乗っていた人影を目撃していない」、「追突から炎上までは最長で73秒程度であり、当時のパトカーの位置関係からは注意を払うことが難しく、警官が気づいた時には炎上していた」と判断。前提条件にはいずれも該当せず、「相当の蓋然性をもって2人が死亡する状況を予測できなかった」と判断した。

これらの理由を総合的に判断した結果、裁判所は「パトカーでの追跡、救護義務を含めて警察官に責任は無かった」と判断。遺族側の請求を全面的に棄却している。

パトカー追跡を起因とする事故は全国で多発しているが、第三者が巻き込まれるケースもこれまでに数回発生している。

追跡については確固たる規定が定められておらず、すべてが現場判断に一任されている。これが事故の多発を生み出しているとも考えられるが、警察庁はこの部分の規定を定めることには消極的な姿勢しか見せていない。

なお、今回の判決を遺族側は不服としており、近日中に控訴するものとみられる。

《石田真一》

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