3 | 妙に恋しい「あれ」 |
面白いのはマシーンを装備したバスも多いことだ。観光バスだけではない。ボクがよく利用するシエナ−ミラノを結ぶ高速路線バスにも付いている。それもピニンファリーナ・デザインのスタイリッシュなやつだ。ボクの観察によれば、その日の運転士によって無料だったり有料だったりする。また、渋滞にはまると、申し訳なく思った運転士がタダにしてくれたりする。
そんな全国津々浦々でうまいカフェが飲めるイタリアであるが、逆にないものがある。缶コーヒーだ。濃厚なエスプレッソばかり飲んでいると、妙にあの「ゆるさ」が恋しくなる。スパルタンなアルファロメオ乗りでも、クラウンに乗ると妙な憩いにホッとするのと同じだ。
しかし、イタリアでは缶コーヒーを売るような自動販売機が普及していないし、そもそもイタリア人はエスプレッソ以外をコーヒーと認めないのだ。少し前ドイツ系ディスカウントストアに、ポリ容器入りコーヒーが突然現れたが、いつまでも売れ残っていた。そして先日もう一度買いに行くと棚から姿を消していた。きっと、我が家しか買わなかったのだろう。
筆者紹介:大矢アキオ Akio Lorenzo OYA --- 国立音楽大学卒。自動車誌『SUPER CG』(二玄社)記者を経て、96年からシエナ在住。イタリアに対するユニークな視点と親しみやすい筆致に、老若男女犬猫問わず多くのファンがいる。NHK『ラジオ深夜便』における軽妙な語り口も好評。主な著書に『イタリア式クルマ生活術』、『幸せのイタリア料理!』、『カンティーナを巡る冒険旅行』、訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(いずれも光人社)。 |