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新車ディーラーがメンテナンスパック販売を強化

国内の新車需要の伸び悩みを受け、国内販売チャネルの統廃合がメーカー主導で取り進められているが、一方、新車ディーラー各店舗も収益体質の強化に取り組んでいる。中でもメンテナンスパック販売を強化するディーラーが増加傾向にあるようである。

その取組み事例のひとつであるが、トヨタカローラ南岩手は最も普及しているタイプの初回車検前までの点検・整備を対象とした30カ月のメンテナンスパックに加え、2回目の車検前までの点検・整備を対象とした54カ月のメンテナンスパックの販売を開始した。

メンテナンスパックの新車購入時の付保率が78%と最も高い輸入車ディーラーでも、新車購入後の約3年間を基準としたメンテナンスパックが主流であり、国産の新車ディーラーで約5年間を対象としたメンテナンスパックを取扱うことは珍しい。

同社の54カ月メンテナンスパックは単に期間が長くなるだけではない。初回車検時における費用を法定費用(重量税・自賠責保険料・申請印紙代など)の支払いのみに軽減し、部品交換点数を増やしたり高性能部品に交換したりするなどサービス内容を充実させている。

価格についてもコンパクトカークラスで10万円以下に設定しており、普通に整備に出した場合と比べて約6万円程度のコストメリットがあるとしている。

同社は点検整備の品質向上とコストメリットという付加価値を訴求することで、新車購入時のメンテナンスパック付保率を約3割弱から5割程度まで引き上げたい意向とのことである。

消費者にとってみれば、上記のごとく新車ディーラーにおけるアフターサービスが充実することは歓迎すべきことであろう。日本自動車工業会の平成17年(2005年)乗用車市場動向調査によると乗用車の平均保有年数は6.8年で昨対比0.3年増と保有の長期化が進んでいる。一般に車齢が高くなる程、加速度的にメンテナンス費用は増加するものである。

◆メンテナンスパックがもたらす効果

では、そもそもメンテナンスパックを販売することで新車ディーラーが得られる効果とは何であろうか。その点について以下考察したい。

(1)整備獲得率向上による整備売上の増加

上記のごとく、乗用車の保有期間が長くなるほど新車の売上は厳しさを増す。新車販売による売上増が見込めなくなるとサービス等新車以外の売上を伸ばす必要が出てくる。

整備売上は以下の算式で求められる。
○整備売上高=整備入庫台数×台あたり整備単価

このうち、台あたり単価は弱含みで推移しているから、整備入庫台数を増やす必要がある。整備入庫台数は以下の算式で求められる。
○整備入庫台数=保有台数×台あたり整備頻度×整備獲得率

保有台数及び台あたり整備頻度はほぼ横ばいだから、結果として整備入庫台数を増やし、整備売上を増やすためには整備獲得率を向上させることがキーになることが分かる。

矢野経済研究所のレポートによると車検サービスの利用先として、新車ディーラーは46.8%と最も多いものの、残りの約50%以上が整備工場やカー用品店、ガソリンスタンドなど他方面に流出していることなる。このような顧客の流出を防ぐために付加価値の高いメンテナンスパックを積極化しているのである。

(2)顧客の囲い込みによる新車代替機会の効果的獲得

トヨタカローラ南岩手のケースでは、このようにして入庫台数を1.6倍(付保率50%÷30%=1.6倍)に伸ばそうとしているが、一方、整備単価も1.6分の1(通常料金16万円÷新料金10万円=1.6倍)に落ち込むから、利益の面積は増えないことになる。だから目的は整備売上拡大だけではないだろう。

このようにしてメンテナンスパックを売り込めば期間中は基本的に無料で点検・整備が受けられるため確実に入庫が期待でき、営業マンと顧客とのコミュニケーションが増える。その結果、新車買い替えのタイミングや家族内の増車などの情報が入りやすくなり、効果的な新車販売活動が打てることになる。

(3)経営の安定性の向上

ディーラーにとって新車売上は「水もの」である。景気が良くなったり、魅力的な商品が出たり、ボーナスシーズンになったりすると売れるが、その逆にさっぱり売れない時もある。だが、サービス入庫は獲得率さえ維持できれば保有台数を母体に確実かつ定期的に見込むことが出来る固定収入である。

人件費、家賃、減価償却費等、ディーラーの固定費は決して小さくないから固定費に対する固定収入の割合(固定費カバー率)が大きければ大きいほど「水もの」収入への経営依存度が下がり経営が安定してくる。

(4)良質な中古車の確保

ディーラーはメンテナンスパックを販売することにより、自らの目と手で定期的な点検・整備を行えるからクルマのコンディションを他の誰よりも熟知しコントロールすることも可能となる。

情報の格差を利用して査定価格を最適化できるわけで、買取店等の「一見さん」の競合他社には真似できない有利な中古車の調達が可能になる。中古車の売上や利益は一にも二にも調達力だといわれるから中古車部門の収益性が改善する。また、競争力のある下取価格を顧客に提示できれば新車代替もスムーズになるという好循環が生まれるのである。

◆メンテナンスパックの課題

メンテナンスパックを購入することはディーラー、消費者のお互いがメリットを分け合えるものが多く、もっと普及してもよさそうなものだが自販連のデータによると国産車の場合、実際には乗用車で33.8%と低い。

その原因としては、まだメンテナンスパックの認知度が低いことを指摘する声もある。だが、輸入車の普及率が8割近いことを考えるとそれだけでは説明がつかない。では、輸入車と国産車のメンテナンスパック販売環境の差はどこにあるのだろうか。原因は3つあると思われる。

第一に、輸入車に比べて国産車の方が品質が高いという認識が顧客が持っていること。つまり、国産車はそうそう故障しないと信じているからメンテナンスに対する関心も低いということ。

第二に、輸入車の整備代は国産車に比べて一般に高くつくと顧客が懸念していること。車両価格と比例して部品代や工賃が高いと思っているから、少しでも安く抑えたいという気持ちが働く。

第三に、メンテナンスパックの初期投資が国産車では割高に感じられること。いくらディーラー側では安くしたと思っていても、顧客心理としては「どうせ故障しないし、1回あたりの費用も安いのだから万一、故障したらその時に払えば充分」と考えているのだ。

もしそうだとしたら、いくら新車ディーラーがメンテナンスパックに投資して力を入れたとしても国産車の場合は構造的にメンテナンスパックを普及させることは無理だということになる。

◆異業種に学ぶ

メンテナンスパックを普及させることが構造的に困難だと結論付けてしまうと、せっかく普及に努めてきたディーラー業界は混乱と思考停止に陥ってしまうかもしれない。こういう時こそ異業種に学ぶことを考えてみたい。

ここでは家電量販店業界を引き合いに考えてみたいと思う。家電量販店業界ではヤマダ電機の連結売上が1兆円を突破し、2位のヨドバシカメラ、3位のコジマの売上も5000億円前後に達するなど一見好調に見える。だが、内実は民事再生に陥る企業や、ライバル企業との統合で生き残りを図る企業、投資ファンドの傘下に入って建て直し中の企業など、業界内での競争は熾烈さを増している。

その最大の理由は、売上は100%商品代に依存するのに、その商品はどこの店でも同じものを扱っているため、価格競争力がなければ顧客はすぐに他店に移ってしまうという業界構造にあり、顧客の囲い込みと商品代以外のプロフィットセンターを作り出すことが最大の課題だった。

そこで家電量販店業界が打った施策は次のようなものであった。読者各位もよくご存知の内容だから詳しくは触れない。

(1)ポイントカードを発行して常連客を作り出す(他店に浮気するよりも得だと思わせるインセンティブをオファーして顧客を囲い込む)

(2)メーカー保証が切れた後の独自の延長保証を売る(ソリューションを売ることで商品代に依存しない収益構造を作る)

(3)延長保証の代金を貯めたポイントで払えるようにする(顧客の初期投資のハードルを下げて実現性を高める)

これらの施策の意味合いを先ほどのメンテナンスパック普及の制約条件と照らし合わせて考えてみたい。

●他店に浮気するよりも得だと思わせるインセンティブをオファーして顧客を囲い込む→メンテナンスパックに固執しない

もともとメンテナンスパックはそれ自体が目的だったのではなく、顧客の囲い込み・常連客の創出のための手段に過ぎなかった。他の手段で常連客を作り出せるのなら、メンテナンスパックに固執する必要はない。

ずばり、ポイントカードを発行する方法もある。ネッツトヨタ兵庫では、自社で購入した商品・サービスだけではなく、近隣の飲食店等の利用に対してもポイントを付与している。メーカーが発行するクレジットカードと違ってディーラー単店が発行するポイントカードは利用できる範囲が限られる部分を地域との連携でカバーするとともに、自社のユーザー以外に他社のユーザーまで引っ張り込むことを可能にしている。

また、自社に設備があるなら洗車回数券や給油カードでもいいかもしれない。メンテナンスは不要だと思っている顧客でも洗車や給油は必ず行なうから、そこで囲い込むことでも目的は達せられる。

●ソリューションを売ることで商品代に依存しない収益構造を作る→メンテナンスパックのターゲットを変更する

メンテナンスパックのターゲットは、基本的にメーカー保証期間中にあるユーザー・車両である。54カ月パックでは確かに保証期間後までをも対象にしているが、保証期間内の部分が重複になっている。

逆に、今や平均保有期間が80カ月を超えている中で54カ月までの安心では充分でない。また、新車購入後数年間は保証の有無にかかわらずメンテナンス費用はほとんどかからないが、車齢が伸びるに連れて加速度的に増加するということは顧客も知っている。

いっそのこと、メーカー保証期間が切れた後(新車登録から37カ月以降)に的を絞った延長保証を商品化してみたら、顧客の食指も伸びる可能性がある。徒に車齢を伸ばすことは本意でないというのであれば、延長保証期限前の代替の際には残期間分を買い取る等の施策も考えられる。

●顧客の初期投資のハードルを下げて実現性を高める→メンテナンスパック(または延長保証)の売り方・見せ方を変える

家電量販店の延長保証も、キャッシュでしか買えなかったとしたら、あれほど一般化しなかったであろう。貯まったポイントを使って買えるというハードルの低さが普及を促したのだ。また、実は家電量販店は過去の統計を使って保証修理に持ち込まれる確率やその際のコストの見通しも立てているはずで、ポイントを商品代の値引きに使わされるよりは保証料として使ってもらう方が得だという冷徹な計算もしているに違いない。

翻ってメンテナンスパックの方はどうだろう。新車ディーラーだって統計的な保証コストの見積もりは可能だし、他の誰よりもその精度は高いはずである。問題はその売り方・見せ方であろう。

ポイントカードを発行するのであれば、家電量販店と同様の売り方が可能になるだろうし、見せ方としても「初期投資10万円」という見せ方以外にも方法はある。新車価格に含めてしまう方法もあろうし、他の誰にも出来ないことだがディーラーなら新車のローンに織り込むことも出来るのだから、「月々1850円でメンテナンスコストまで込み込み」「一日あたり60円」という言い方だってある。

こうしてみると、国産車ディーラーにおけるメンテナンスパック普及(を通じた顧客囲い込みと新たな収益源の獲得)の障害であった課題は殆ど解決するのではないだろうか。

(1)国産車は壊れないからメンテナンスに無関心→メンテナンスには無関心でもポイントや洗車・給油、延長保証には関心を呼べるかもしれない

(2)国産車の修理コストは安いから前払い割引は不要だし、保証期間分は無駄となる→メーカー保証が切れた頃から修理コストは上がるし、保証期間分の重複投資はない

(3)メンテナンスパックの10万円は高く感じる→ポイントで払えたり、月割り・日割りで見せたりすることで心理的抵抗は下がる

◆まとめ

課題に直面したときに業界内の知恵と経験だけで解決しようとしても解決できない場合がある。同業の競争相手に学ぼうとしても同業者も同じように苦しんでいる。そういう時はいっそ他業界、異業種の知恵や経験に学び、自社の環境に翻訳して適用することでブレークスルーを図れる場合がある。

「Look Outside, Learn the Best!」が自動車業界にとってこれからのキーワードであろう。

《》

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