3 | 人らしく生きるための一里塚 |
定年を迎えた団塊の世代が、田舎で野菜作りや蕎麦打ちを楽しんだり、アメリカ製の大型バイクにとりつかれるなど、ささやかな夢がニュースになっている。共通のキーワードは手作り感覚。
YES! ロードスター1.8の、ハードはもちろん、板を曲げたようなメーター周りや木箱のようなコンソール、アルミ削り出しのインテリア部品なども手作り感覚にあふれている。
女性の丸々としたふくらはぎのようなフロントフェンダーや、お尻のようなリアビューも妙な色気があるが、思わず撫ぜてもエロ親父などと騒がれることもない。フランスの作家ニキ・ド・サンファンの女性像「ナナ」に通じる不思議な人間臭さを感じるのは、筆者だけだろうか。
時代の主役は、いつのまにか金持ち熟年ということだが、金儲けの対象としてだけではなく、豊かさを味わった熟年だからこそわかる、手作り感覚や人間臭さに注意を向けて欲しいものだ。
クルマの少量生産は、シルバーストーン曲線が示すまでもなくコスト的に不利なのは明らかなので、拝金主義の企業家には狂気の沙汰としか映らないかもしれない。敢えて、このようなクルマを誕生させるのも、文明の恩恵を早くから受けた豊かな国の善さなのであろう。人が「人らしく生きるための一里塚」と考えると嬉しくなる。
D視点:デザインの視点 筆者:松井孝晏(まつい・たかやす)---デザインジャーナリスト。元日産自動車。「ケンメリ」、「ジャパン」など『スカイライン』のデザインや、社会現象となった『Be-1』のプロデュースを担当した。 |