【神尾寿のアンプラグド特別編】ETC、QUICPay、新分野を取り込むトヨタファイナンス 後編

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【神尾寿のアンプラグド特別編】ETC、QUICPay、新分野を取り込むトヨタファイナンス 後編
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トヨタグループのイシュア(クレジットカード発行会社)として急成長するトヨタファイナンス。

同社は2001年にコンシューマー向けのクレジットカードサービス「TS CUBIC CARD 」(ティーエスキュービック)を市場投入してから5年あまりで会員数600万人を達成。ETCの発行枚数、非接触ICカード「FeliCa」を用いた新たなクレジットサービスQUICPayの発行数でも業界トップをひた走る。

今回のアンプラグドは前回に引き続き、トヨタファイナンス執行役員総合企画部長の後藤清文氏にインタビュー。トヨタファイナンスのクレジットカード戦略、ETCやQUICPayなど新分野に積極的な狙いなどを聞いていく。

◆稼働率重視の姿勢でETC、QUICPayに注力

トヨタファイナンスのプロパーカード「TS CUBIC CARD」はトヨタ車オーナーを中心に数多く発行されており、トヨタの本業である自動車ビジネスとの連携が重視されている。さらにTS CUBIC CARDの特徴となるのが、クレジットカードとしての稼働率が高いことだ。

「(トヨタファイナンスの)月間の稼働率は43%ですから、クレジットカード業界の中でも非常に高い水準にあると考えています」(後藤氏)

JCBの最新調査によると、消費者のクレジットカード平均保有枚数は3.3枚、平均携行枚数は2.0枚で発行・携行枚数ともに伸びが鈍化している。一方で、消費者が一番よく使う“メーンカード”では、利用頻度と利用金額が伸びており、一番よく使うカードへの利用の集約傾向が見られるという。これは消費者のサイフの中で、“持っているが使っていない”死蔵カードが増えているということだ。

翻ってTS CUBIC CARDを見ると、600万の発行数のうち43%が毎月何らかの決済で利用されている。実際に使われるカードは利用が集中する傾向にあるので、トヨタファイナンスのカードはメーンカードが多いと見ることができる。

「トヨタファイナンスの場合、キャッシングを除いたショッピングでの取扱高が1兆3000億円を超えるんですね。この中でトヨタ販売店の取扱高は3割程度ですので、残りの7割は街中で使われていることになります。TS CUBIC CARD加入のきっかけはトヨタ販売店が作りますが、メーンカード化で街中のショッピング利用が増えている傾向にあります」(後藤氏)

トヨタファイナンスはTS CUBIC CARDの誕生初期から総合的な「生活支援カード」というコンセプトを掲げて、クルマを軸に生活全般でのカード利用を重視する戦略をとってきた。そこがT&E(トラベル&エンターテイメント)と呼ばれる非日常シーンでの利用や、キャッシングやリボルビングの金利手数料を重視する古参のクレジットカード会社との違いになっている。カード事業の開始から5年あまりが経ち、この戦略がかなり実を結んできているようだ。

「ETC、QUICPayなどの分野に力を入れているのも、クレジットカードの稼働率をあげてメーンカード化を図る狙いからです。ETCはかなり効果を上げていますし、QUICPayの効果にも期待しています」(後藤氏)

これはトヨタファイナンスに限らないが、QUICPayなどFeliCaを使ったクレジットサービス導入の狙いは、まさに日常領域でのクレジットカード利用を高めてメーンカード化を図るところにある。当初から生活総合カードを目指していたトヨタファイナンスは、以前から他社よりも日常利用を重視しており、QUICPay導入でも積極的な姿勢なのだ。

◆QUICPayではauと連携。新たな顧客をトヨタに送る

QUICPayが狙うのは1万円以下の少額−中額決済市場であり、ここでは1回あたりのカード利用で手に入る決済手数料はそれほど高くない。しかし、うまく日常生活に組み込まれれば、利用回数自体は従来よりも多くなることが期待できる。

「(QUICPayの利用促進で)1回あたりの決済単価は下がるのですけれども、トータルでの利用額は増えます。また今までクレジットカード利用が少なかった現金決済市場からのシフトを狙ってますから、新しい顧客層の獲得効果も期待できます」(後藤氏)

ここでの“新しい顧客層”の中で、重要な位置を占めるのは女性だ。

「TS CUBIC CARDはトヨタ車と連携するカードなので、主たるカード所有者は男性が多い。年齢層も高めで30代後半から50代にかけてが現在主流の顧客層になります。家族カードの発行数も相当数ありますが、会員様のメーンが年齢層の高い男性であるのは事実です。

我々がQUICPayの普及を推進するもうひとつの狙いとしては、まさに『女性層の拡大』があります。今はトヨタ自動車のクルマを買っていただいた人がTS CUBIC CARDのメーンのお客様ですが、今年度QUICPay普及とあわせて力を入れたいのは、おサイフケータイのモバイル決済を入り口とした会員獲得です。ここは女性層にリーチしやすいですし、相当な力を入れていきます」(後藤氏)

おサイフケータイへの取り組みはNTTドコモがリードしているが、今年に入ってからauも対応機種を拡大。主力ラインアップのほぼ標準的な機能として、FeliCa搭載のおサイフケータイを位置づけている。また、auを手がけるKDDIは、トヨタが出資しており「(トヨタグループと)近しい関係」(後藤氏)にある。

「おサイフケータイ向けの展開では、auとの提携を重視しています。昨年秋からauの端末にQUICPayのアプリをプリインストールしていただいてまして、この春にも8機種に新端末にQUICPayアプリをプリインストールしている。auとの連携は非常に大事でして、我々はそこにあわせた商品開発を今やっているところです」(後藤氏)

トヨタファイナンスはこれまで「クルマ」と「ガソリンスタンド」を会員獲得の窓口にしていたが、そこにauの「ケータイ」を加えようとしているのだ。auは昨年10月の番号ポータビリティ制度開始後は契約者数を大きく伸ばしており、特に若年層と女性層の人気が高い。若者と女性はトヨタファイナンス、そしてその先にあるトヨタグループにとっても重要なユーザー層だ。

「auのケータイとQUICPayを入り口にしてTS CUBIC CARDの会員を増やし、そこで蓄積したポイントをトヨタ車購入に使っていただくという形で、今度はケータイで獲得したお客様をトヨタ自動車の方に送りたい。そういう流れを起こしたいと考えています。

特に若い人にはケータイからTS CUBIC CARDに入ってもらって、クルマに興味を持った時に気がつけばトヨタのポイントが貯まっている。これをトヨタ販売店に持っていけば数万円分の値引きになるというのは、大きなインセンティブになるでしょう」(後藤氏)

◆会員獲得だけでなく、加盟店開拓にも注力

クレジットカードのビジネススキームは3層の構造を持っている。

ひとつは「ブランド」で、これはVISAやMASTER、JCBなど国際的な決済プラットフォームの仕様策定や維持管理を行う。例えばVISAなら、ビザ・インターナショナルがブランドホルダーとして世界各国のVISAプラットフォームの仕様や規格を管理している。

クレジットカードの会員獲得・発行をするのは「イシュア」と呼ばれるクレジットカード発行会社だ。これは銀行系から流通系まで様々な業種から参入しており、新興のトヨタファイナンスやNTTドコモもイシュアである。

さらにイシュアの一部は加盟店の開拓も行う。これが「アクワイアラ」である。アクワイアラは加盟店を増やし、ユーザーがクレジットカードのサービスを利用できる環境を構築する。この分野で強いのは古参のJCBや三井住友カードであるが、トヨタファイナンスも今年からアクワイアラ業務に本格的な姿勢で臨むという。

「今年1月に加盟店部を立ち上げました。今は40名ほどが在籍しています。これまで5年間は、会員獲得・カード発行を行うイシュイングを重視してきましたが、今後は本格的に加盟店ビジネスに足を踏み出します」

「加盟店開拓の方針としては、加盟店部の社員を全国に分散しても力を発揮しきれないので、まずは(名古屋駅前の)ミッドランドスクエアのオープンにあわせて、名古屋駅周辺とくに地下街の加盟店開拓を行いました。ここではQUICPayの導入を積極的に進めています」(後藤氏)

名古屋駅周辺を歩けば一目瞭然であるが、名古屋駅周辺はまさに「QUICPay村」と言ってもいいほど対応店舗が増えている。特に名古屋駅地下街の対応は顕著で、「地下街でのQUICPay対応率は87%」(後藤氏)になっている。QUICPay対応のカードはミッドランドスクエアに入居するトヨタ自動車の社員全員が持つこともあり、この地域での利用はかなり増えることが予想できる。

「今後は名古屋駅周辺から伏見と栄に向かってQUICPay対応店舗を増やし、QUICPayのエリア拡大を進めていきます。名古屋中心街を完全に面で押さえていく方針です」(後藤氏)

「この名古屋で行う『中心街から面で広げる』加盟店開拓の手法は、今後、全国で行っていきます。こちらはJCBと共同での取り組みになるとは思います」(後藤氏)

また、街中での面展開と並行して、業種ごとの加盟店開拓も行う。コンビニや大手流通でのFeliCa決済導入はナショナルチェーンのレベルで進んでいるが、トヨタファイナンスがそれ以外で重視しているのがタクシーだという。

「まず名古屋からですが、タクシーにQUICPayとiDの共用決済端末を整備していきます。今年7月から試験段階で初めて、8月にはタクシーへの本格展開を行います。すでにQUICPay/iDの導入が決まっているタクシー会社は3社ですが、できればもう少し増やしたいですね」(後藤氏)

◆ポイント活用の「生活支援カード」を強化

トヨタファイナンスはクレジットカードの「ポイント」を媒介にして、生活すべての消費活動と自動車ビジネスを結びつけようとしている。自動車メーカーブランドのクレジットカードはトヨタ以外にも存在するが、ここまで積極的にクレジットカードビジネスとポイントを活用している例は希有である。

また、旧来のクレジットカード会社がステータスカードやT&E、キャッシングを重視にしたビジネスで行き詰まりを見せる中で、トヨタファイナンスは設立初期から生活での幅広いクレジットカード利用を重視していたのは特筆すべきところだろう。この延長線上に、ETCやQUICPayなど新技術・新サービスをいち早く取り入れる柔軟性もある。

「我々はT&Eではなく、総合生活支援カードというスタンスでクレジットカード事業を展開してきましたが、今後はこの方向性をさらに強く打ち出していきたいと考えています。今はガソリン価格の割引やポイント倍付けなどを行っていますが、他にも公共料金や生活消費などをクレジットカードで払っていただけるような取り組みを行っていきます。そうすることで生活全般でトヨタのポイントが貯まりますから」(後藤氏)

「ポイントマーケティングというのは今後さらに重要になりますので、ここは力を入れてく。(生活支援カード、ポイントの強みは)我々の優位性となる部分ですので、このリードは続けていきます」(後藤氏)

トヨタファイナンスはJCBとともにQUICPayを推進する立場でありながら、三井住友カード=ドコモが推すiDとの連携にも前向きだ。QUICPayとiDの共用決済端末の普及や、将来的にはTS CUBIC CARDのオプションとしてiDのカードを発行することも検討している。

「NTTドコモの夏野さんとはよく話をするのですが、QUICPayやiDを普及させて早くキャッシュレスで便利な社会を作りたいという部分で意見が一致しています。インフラ整備など共用端末で一緒にできるところは協力し合っていきたいと考えています」(後藤氏)

日本のクレジットカード会社はキャッシングやローンの金利収益が非常に多く、これがビジネスモデルの支柱になっていた。しかし、この金利収入は貸金業法の改正による上限金利の抑制で大きな打撃を受けて、クレジットカード業界は「クレジットカードのショッピング利用の拡大」へとビジネスモデルの転換を迫られている。

一方で、新興のクレジットカード会社であるトヨタファイナンスやNTTドコモは、当初から「キャッシングやローンの金利収入を前提にしたビジネスモデルになっていない」(後藤氏)。ETCやQUICPayなど新たな技術・サービスを取り入れながらクレジットカードの利用シーンを増やし、適正な加盟店手数料による収益と本業との連携を重視したビジネスモデルになっている。トヨタとドコモが同じ視点と価値観を持ち、QUICPayとiDというFeliCa決済の部分では手も結んでいるというのは興味深いところだろう。

トヨタファイナンスはクレジットカード業界と自動車業界のどちらにおいても、新たなビジネスモデルを構築し、重要な役割を担いつつある。同社の今後の取り組みは、今後さらに注目されるだろう。

《神尾寿》

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