【神尾寿のアンプラグド特別編】モバイルBBのインフラをカメラセンサー網に。ウィルコムが研究会を設立

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【神尾寿のアンプラグド特別編】モバイルBBのインフラをカメラセンサー網に。ウィルコムが研究会を設立
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いよいよ来年から始まるブロードバンドワイヤレスアクセス(BWA)時代。特に日本は、この通信インフラの進化において世界に先駆ける形になり、採用される通信方式の多様さや、チャレンジする通信事業者の多さで世界を圧倒する。

すでに正式発表されているだけでも、NTTドコモの「スーパー3G (LTE)」、UQコミュニケーションズの「モバイルWiMAX」、そしてウィルコムの次世代PHS「WILLCOMM CORE」などが、数十Mbps - 数百Mbpsの超高速・大容量モバイル通信時代の幕を開けることになる。

このモバイル通信インフラの大転換期は、「新たな設備をどう活用するか」について考える絶好のチャンスでもある。むろん、その第一義は通信インフラの活用であるが、設置される基地局設備そのものを多機能化・高付加価値化し、新たなサービスやビジネスを生み出そうという試みも始まっている。

そこで今日のアンプラグドは特別編として、ウィルコムのWILLCOMM COREの取り組みから、ブロードバンドワイヤレスアクセスのもうひとつの側面である「インフラ設備の活用」にフォーカスする。

◆新設される基地局にセンサーカメラを設置。インフラ化を目指す

7月23日、ウィルコムが企業や自治体などと協調し、次世代PHS「WILLCOM CORE」のインフラ網を活用したビジネス展開を検討する「BWAユビキタスネットワーク研究会」を設立すると発表した。

当面は研究会という位置づけだが、将来的にはコンソーシアムを目指す。28日にはその第1回総会が開かれ、BWAユビキタスネットワーク研究会会長に就任した京都大学学術情報センター センター長の美濃導彦教授のほか、ウィルコム代表取締役社長の喜久川政樹氏、審議会議員に就任する牧野総合法律事務所代表の牧野二郎弁護士らが研究会の設立意図や活動内容について話した。

ウィルコムでは2009年からブロードバンドワイヤレスアクセスのひとつである次世代PHS「WILLCOM CORE」のサービスを開始する。

これは通信速度上り下り最大100Mbps (当初は20Mbps程度からスタート)という高速・大容量通信が最大の訴求力であるが、もうひとつ“大きな特長”を持っている。それは全国16万局に及ぶ現行PHSの基地局を刷新し、最新の通信設備としてマイクロセルネットワークを構築することだ。これだけ広範囲・大規模な基地局整備は、「10年に1度あるかどうかの大チャンス」(ウィルコム代表取締役社長の喜久川政樹氏)である。

この大規模な設備刷新にあわせて、基地局に通信関連設備だけでなく、新たにカメラ・センサーネットワークを構築しようというのが、ウィルコムの考えだ。

16万局の基地局のうち、主に屋外に設置されたもの中で、道路や街が見渡せる場所にあるものに高解像度カメラを設置。その映像情報をIPネットワークで結び、ウェブのようにインターネットの汎用性の高い技術で利用可能にする。これにより市街地の防犯や災害状況などの観測、天候・環境情報の収集、リアルタイムな交通状況把握、企業における機器・店舗状況の確認など、公共性の高い映像インフラに育てようというものだ。

ITSの世界でも、交差点の映像情報を付近のクルマに送るといった路車間通信のアプリケーションが考えられているが、ウィルコムのWILLCOM COREをベースに、BWAユビキタスネットワーク研究会で議論されるのは、より広範囲かつ汎用的な「インターネットと同じような社会基盤『センシングウェブ』」(京都大学学術情報センター センター長の美濃導彦教授)の世界である。

むろん、自動車・交通分野のアプリケーションも重点的に捉えられており、「ITSとの連携も効果があるならば、研究会として前向きに検討していきたい」(喜久川氏)という。

ウィルコムはすでに本田技研工業のインターナビや、日産自動車のカーウイングス、パイオニアのサイバーナビ向けに専用の通信モジュールと料金プランを用意するなど、自動車業界との関係が深い。そのため「(ホンダなど)すでに協業させていただいている自動車メーカーの意見も聞きながら、前向きに自動車業界との連携も図りたい」(喜久川氏)という方針だ。

◆プライバシー問題など「カメラのタブーに挑戦する」

BWAユビキタスネットワーク研究会が取り組む“カメラ・センサーネットワークの世界”は、難しい問題も山積している。

その最初のハードルである「インフラ整備コストをどうするか」については、ウィルコムのWILLCOM COREの基地局整備と重畳することで解決の道筋ができる。収集する映像情報の処理や活用についても、サーバー側の処理能力向上とコスト低下、映像認識技術の長足の進歩などを鑑みれば、そう大きな問題にはならない。

一方で、街中に増加するカメラや各種センサーには「監視カメラ」といった悪いイメージもつきまとい、個人の特定や追跡まで可能にするカメラ・センサーネットワークと映像認識技術の実現は、プライバシー保護の観点から大きな反発にあうリスクも孕んでいる。

「すでに我々の身の回りには、さまざまなセンサーやカメラがある。これらがどういう目的で誰が使っているのか、なかなか知る機会は少ない。漠然とした不安感がある。カメラ・センサーネットワークが新たな監視社会を生み出さないようにするため、情報の収集や利用の仕組みやルールをきちんと議論しなければならない。

監視カメラに関する議論にはさまざまなタブーがある。BWAユビキタスネットワーク研究会では、(カメラやセンサーの情報で)どういった目的で何をするのかをしっかりと見定めた上で、これらのタブーに挑戦していきたい」(牧野総合法律事務所代表の牧野二郎弁護士)

◆映像情報の収集・解析は、有益なクルマ向けコンテンツ

新設される通信用基地局をカメラ・センサーネットワークにし、映像情報を収集する。これはBWAユビキタスネットワーク研究会を立ち上げたウィルコムのWILLCOM COREだけでなく、他の次世代ブロードバンドワイヤレスアクセス方式でも実現可能性のあるプランである。企業倫理的・法制度的な課題はあるが、技術的・ビジネス的なハードルは低くなっている。

この街全体の“映像インフラ”が実現すれば、それはクルマにとって有益かつ貴重なコンテンツになる。リアルタイムで地図上のあらゆる場所の映像情報が得られるだけでなく、道路や交差点を撮影するカメラ情報に映像認識や解析技術をかければ、渋滞や歩行者通行量の状況を把握して「走りやすさ」のリアルタイムデータになる。道路や街中の映像情報は、新たな交通関連コンテンツに生まれ変わる可能性を秘めているのだ。今後の動向に注目しておいて損はないだろう。

《神尾寿》

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