【神尾寿のアンプラグド 特別編】「ぶつからないクルマ」普及時代を睨むASV-4 (後編)

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【神尾寿のアンプラグド 特別編】「ぶつからないクルマ」普及時代を睨むASV-4 (後編)
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2月4日、東京・お台場で国土交通省が推進する「ASV(先進安全自動車)-4」の公道実験が実施された。ASVは1991年からスタートしたプロジェクトであり、ICT技術で予防安全性を高めて、“ぶつからないクルマ”の実現を目指すものだ。

前回のコラムでは、ASV-4の現状とその課題、そして今回から海外メーカー2社(フォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツ(ダイムラーAG)が参加した経緯について紹介した。後編となる今回は、筆者の試乗・体験レポートから、ASV-4の今について見ていきたい。

◆車車間通信で“見えない危険”を察知

前編でも紹介したが、ASV計画における今期の大きなテーマが「車車間通信」の実用化と普及にめどをつけることだ。今回の実証実験では5.8GHz帯と700MHz帯の車車間通信システムが用いられており、異なる自動車メーカー間でのインターオペラビリティ(相互運用性)の確立および検証と、実道路環境課で最適なユーザーインターフェイス(UI)のノウハウ蓄積に重点が置かれている。また、これは前期計画からの継続であるが、二輪車メーカーや商用車メーカーもASVに参加しているため、日本が特に顕著な「混雑交通」下での車車間通信システムの実用性を高めるという狙いもある。

ASVの効果は多岐にわたるが、その中でもドライバーの眼や自立系安全システムのセンサーから“見えない危険”を察知し、それをどのようにドライバーに伝えるかが、今期ASVの重要なテーマになっている。

そのような前提を踏まえて、実証実験内容を見てみよう。

今回の公道実験で試されるのは、「出会い頭衝突防止システム」、「右折時衝突防止システム」、「左折時衝突防止システム」、「追突防止システム」の大きく4つ。これを異なるメーカーのクルマが30台で同時に実験する。また二輪車と商用車も参加しているため、車体の大きさや視界の違いも含めて、車車間通信システムの効果が試せるのも特長だろう。

車車間通信システムで車両間で共有される情報は6項目。

「位置情報、スピード、進行方向、ウインカー作動情報、ブレーキ、加速度が、(DSRCの)通信システムを通じて共有されています。
電波の到達距離は見通しで300 - 400mほど。もちろん建物や走行中の他車が遮蔽物になりますので、その影響も今回の実証実験を通じて検証していきます」(メルセデス・ベンツ日本 技術コンプライアンス部コンセプト製品課の小西大介氏)

周辺に複数台のASV-4車両が存在した場合は、そのすべてとリンク(接続)を確立し、情報共有を行う。今回のテストでは30台のASV-4対応車が投入されているが、現行システムでもそのすべてと同時接続できる。実道路環境では相対距離や遮蔽物の影響もあるので実際はそうはならないが、「多くの車両と同時接続し、しかも互いに移動していた場合には共有される情報量が倍々で増えます。車載側のシステムがそのような情報量の増大において、どれだけパフォーマンス(処理能力)を落とさずにすむかも検証項目のひとつ」(大西氏)だという。

車載側システムでは車車間通信で接続・情報共有された各車両のデータをもとに、お互いの位置や相対距離、邂逅・衝突の危険性はないかなどを計算していかなければならない。しかも共有されている各車の情報はリアルタイムで変わる。接続車両が増えるほど、計算処理すべき情報量も増えていく。さらに実道路環境では常に一定のペースや相対距離で、接続や情報共有ができない。突然のリンク切れや、逆に遮蔽物の影響で接近してからいきなり接続するといったケースも考えられる。こうした様々な状況下で、30台という多くの車両を用いて「実環境下での負荷試験」を行うことも、実用化や普及を睨んで重要なことだろう。

◆視界不良 + ロングドライブで効果を実感

プレス向けの試乗は、自らはハンドルを握らない「同乗テスト」という形で行われた。試乗時間は約60分。ASVなどITS系の試乗テストではコースを数周といった短時間のテストが多い中で、これはかなり長い体験試乗といえる。

筆者が乗り込んだのはメルセデス・ベンツの実験車両だ。ASV-4の公道実験ではインターオペラビリティがテスト項目のひとつであり、車車間通信システム自体は各車おなじだ。しかし、車載側のシステムやUIの作り込みは、自動車メーカー各社が工夫を凝らしているという。

試乗会当日はあいにくの雨であり、視界はあまりよくない。クルマに乗り込み、走り出す。筆者が乗ったメルセデス・ベンツは早いタイミングでのスタートだったので、走り出してから10分ほどは画面上に何のインフォメーションもなかったが、お台場地区にASV-4車両がめぐりだすと、警告情報と音声による警告が出るようになった。

ASV-4の接近警告は、お互いの位置と相対距離、そして邂逅コースかどうかを判別して表示される。見えにくい・見落としがちな場所で注意喚起が行われるため、筆者が体験した時のような雨天で視界不良の時は特に効果が実感できる。交差点付近での警告表示時には対象車両が発見できず、注意深く探してようやく隠れたASV-4車両の存在に気づくケースも多々あった。車車間通信システムに頼り切るのは危険であるが、人間の五感を補完するものとしては非常に効果的であろう。特に右折時の対向車検知や、二輪車検知での効果は大きい。

また今回は60分と長めの試乗であり、しかも車内がかなり暖房がかなり効いた“眠気をもよおす”状況だったため、期せずして注意力が散漫になりがちな環境下での効果も実感できた。頭がぼやっとした状況下だと、大型車をすり抜けてくる二輪車や、出会い頭で高速接近してくる車両を見つけるタイミングが遅くなる。こうした時に警告がでると、「ヒヤリ」とし、なおかつ「ハッと」させられて目が覚める。本来であれば注意力が落ちてきたら休憩を取るのが望ましいが、さりとてASV-4のシステムがロングドライブのサポートとしても有効なのは確かであろう。特に筆者は、長距離・長時間や夜間の運転が多い商用車には、ASV-4の実用化が始まったらまっさきに搭載し、法令で装着義務化をしてもいいのではないかと感じた。

◆課題は「UIの成熟」。うるさくない警告にあと一歩

今回のASV-4のしステムは実用化に向けて、着々と進歩している。しかし、その一方で、まだUIとしては未熟な部分も散見された。

例えば、試乗中もっともよく表示された「追突注意」のアラートは、あまりに頻繁に出てくるため、後半はかなり煩わしく感じた。実際に自分がハンドルを握っていたら、うるさく感じて後半は無視しがちになってしまっただろう。相対距離と加速度、ブレーキ作動状況を総合的にみて、警告表示の可否や表示タイミングをどうするかといった部分には、まだまだチューニングの余地がありそうだ。また、「誰が運転しているか」の個人認証をし、警告表示タイミングを最適化していくパーソナライズ型のUIも必要であろう。

他にも、出会い頭事故防止や二輪車の巻き込み防止の機能では、対象車との相対距離や危険レベルが判別できる仕組みがあった方がよい。現在でも画面上のアイコンカラーで「どのていど接近しているか」がわかるが、これだと“画面に目を奪われる”ので運転時の安全支援システムとしてはイマイチだ。超指向性スピーカー技術を用いてドライバーだけに聞こえる接近音で対象の「位置・距離・危険レベル」を知らせたり、シートにバイブレーターを埋め込んで体感させるといったUIの試行錯誤を積極的に行ってほしいと思う。
これは日本のASV車両すべてに言えるのだが、日本の先進安全支援システムの情報提供スタイルは「カーナビの画面」に頼りすぎている傾向がある。ドライバーの視線を画面が奪わず、なおかつ安価で実用化可能なUIの開発にもっと注力すべきである。

UIの面では多少の不満はあったものの、総じていえば今回体験したASV-4の各機能は、「ぶつからないクルマ」の実現に着実に近づいていた。今年はITS推進協議会が推進する「ITS-Safety2010」や、6月末に開催される「第1回 国際自動車通信技術展(ATTT)」など、ASVやITSがテーマとするイベントが目白押しだ。自動車産業全体は逆風下にあるものの、2010年以降を見据えれば、“クルマとICT技術/サービスの融合・連携”時代を迎えてクルマが大きく進化する兆しが見え始めている。この分野はしっかりと育てていけば、ハイブリッドカーやEV同様に、次世代の自動車ビジネスにおける重要な競争力になるだろう。

「100年に1度の逆風」といわれる昨今の自動車ビジネスの中で、いかにクルマとクルマの利用環境に革新を起こし、クルマの在り方そのものの進化させるのか。そこに新たな時代に日本の自動車産業が進み、生き残れるかの「鍵」がある。ASVをはじめとするITSの諸分野、さらにICTを活用した技術やサービス開発の重要性は今後さらに増していくだろう。

《北島友和》

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