世界最大規模の国際展示会となった北京モーターショー2010(2010 Beijing International Automotive Exhibition)。
中国メーカーのプレスブリーフィングのなかで世界からとりわけ高い注目を浴びていたのは、リチウムイオン電池の世界大手として知られるBYDオート(比亜迪汽車)だった。
ブース内にはEVタクシーのコンセプトモデルや、今年3月に一般ユーザー向け販売が開始されたプラグインハイブリッドカー『F3DM』や純EVの『e6』などのエコカーも並べられていたが、プレスブリーフィング本番の目玉はそれらではなく、ファミリーカーの『L3』、ラグジャリーカーの『i6』、SUVの『S6』の3市販モデルのワールドプレミアだった。
3モデルの発表の場には、09年に中国トップの富豪となった43歳の若き創業者、王伝福CEOも姿を見せた。2015年にフォルクスワーゲンを抜いて中国ナンバーワンのメーカーになるという目標を掲げるBYDにとって最大の課題は、信頼性や質感といった品質全般の向上。王CEOを頂点とするBYD関係者、提携相手のダイムラー、米投資家のウォーレン・バフェット氏らにとって、この3モデルはグローバル市場で通用する品質の実現への第一ステップに位置づけられるものだ。
ショーモデルを覆うシートが取り払われる瞬間には、派手にクラッカーが鳴らされ、細かく刻まれた色紙が空中を乱舞。幹部たちは舞台に上がり、喜色満面で握手を交わした。
BYDといえば、日本ではEVのキープレーヤーというイメージが強いが、BYDにとって当面、最も重要なのは、大量販売で利益を確保できるエンジン車である。
「EVが話題になっていますが、EVが主流になる時代が来るのはずっと先のこと。そのことは自動車メーカーが一番よく理解している。まずは普通のクルマを売って利益を上げ、先端技術のための研究開発費を捻出するというサイクルを確保するのが先決。中国メーカーにとって、EVは目先の商品ではなく、投資家を集めるための商材なんです」
中国最大の自動車産業メディア、ビットオートの李斌(ウィリアム・リー)CEOは、背景をこう語る。
グローバルメーカーへの第一歩を踏み出したBYD。もっとも、クルマの見てくれだけを良くすることは、金をかければいくらでも可能である。「信頼性や安全性の高さという、クルマ作りのなかで一番難しい部分については、ほとんどゼロからの出発のはず。彼らが将来、欧米や日本のメーカーをキャッチアップするまでには、まだ相当の時間がかかる」(中国系メディアの記者)という見方が大勢を占めるなか、BYDがこの先、どれだけグローバル市場でのプレゼンスを高められるかが注目される。