クライスラーが消滅、ランチアは残存…欧州

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欧州の大部分の地域で、「クライスラー」の看板が消滅することになりそうだ。フィアット・グループ・オートモビルズ(FGA)は、昨年春に米クライスラーグループを傘下に収めたのに伴い、ヨーロッパ圏内のブランドおよびディーラーの再編計画を5月に開始した。

計画では「ランチア」と「クライスラー」のブランドを統合、ランチアのブランドを残す。同時に、2014年までに1000以上の新販売ネットワークを構築する。これによって、より強固なネットワークで新しい製品系列に備えるとともに、パーツ供給やサービス体制の向上を図る。

すでにフィアット・グループ・オートモビルズの金融部門である「FGAキャピタル」は、クライスラー、ジープ、ダッジのディーラーに対しても金融サービスの提供を開始している。

ただし、現在ランチア・ブランドを展開していないイギリス市場では、クライスラー・ブランドを維持する計画だ。

「ランチア」「クライスラー」両ブランドに関しては、昨年からFGAのセルジオ・マルキオンネCEOが、今後グループ内の同一部門で扱う方針を打ち出していた。それに伴って、ランチア部門のオリヴィエ・フランソワCEOに、クライスラー・ブランドのCEOも兼務させた。

ランチアは、主力車種『イプシロン』の販売こそ比較的堅調に推移しているが、ここ数年はマーケットにおいて大ヒット作に恵まれていない09年のランチアの生産台数は10万9547台で、08年に比べて3751台減だった。イタリアや近隣諸国でフィアット系各ブランドを扱ってきたディーラーでは、従来別棟にあったランチアのショールームを廃止、かわりにフィアット販売店の片隅に併設させる店が相次いでいた。

そうした中、12月には、イタリアの経済紙が関係者の話として、FGAがランチア・ブランドを消滅させる可能性があると報道した。

今年3月のジュネーブモーターショーでは、「ランチア」「クライスラー」両ブランドが共同のスタンドを持ったが、その席でフランソワCEOは、「まだこれからの段階」として、ブランド再編に関する明言は避けた。結果として、今回のFGAの決定は、前述の新聞予想を覆すかたちとなった。

なお、欧州における今後の展開として、クライスラーの大型モデルやSUVをランチア・ブランドで販売する可能性が、すでに一部で報道されている。これは従来のランチアに欠けていた分野を補うことになり、1月デトロイトモーターショーで公開されたクライスラー版デルタを含めると、グループ内で相互補完のかたちとなる。

いっぽうのクライスラーグループを振り返ると、1950年代末からフランスのシムカの株式を買い進めることで欧州市場への足がかりを作った。やがて1970年には同社をクライスラー・フランスとした。しかしその後、米国本社の経営危機から、1978年に欧州部門の経営をPSAプジョー・シトロエンに譲渡した。以降は各国のディストリビューターを通じて、新小型車「Kカー」『ネオン』などが販売された。

1998年にダイムラーベンツと合併してダイムラークライスラーとなると、それに伴って再び欧州販売が強化された。オーストリアのマグナシュタイヤー社で製造されたジープ『グランドチェロキー』やミニバン、クライスラー『ボイジャー』などは、近年欧州で最もポピュラーなクライスラー系モデルとなった。

かくして、今回「クライスラー」のブランドが消滅することになった。だがイタリアでは「フィアット傘下に入って以降のランチアはランチアではない」とする人が、とくに中高年層に多い。さらに「(クライスラー系の)後輪駆動のランチアなど、認められない」と、今から拒否反応を示す、生粋のランチアファンもいる。

メーカーにとって「おいしい部分」である、クライスラーベースの高級モデルの購入者層の心理をいかに読み取って商品・ブランド展開できるか、FGAのセンスが試されるところであろう。

《大矢アキオ Akio Lorenzo OYA》

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