Aピラーが切り立っており、かつ根元はかなり前進している。運転席から見る前方視界は、景色を四角い額縁で切り取ったような感覚だ。ふと左横に視線を向ければ、横長いフロントドア・ウインドウ越しに景色がサーッと流れて行く。
運転席にいる自分と外界との関係が、新型『MRワゴン』は今までのクルマとちょっと違う。そんな印象を抱いてからあらためてエクステリアを見ると、「あぁ、早めに筆を置いたんだね」。
デザイン業界的な言い回しで申し訳ないが、人がモノに感情移入するには、この「早めに筆を置く」のが実は大事。開発の最後までネチネチやると、カタチは洗練されるが、作り手の思いが見る人に伝わらなくなる。
新型MRワゴンの場合、例えばAピラーの下端はフロントフェンダーにつながります、上端はウインドシールドに沿って回り込みます、という意図が明らか。Aピラー上端の丸みがルーフサイドを貫くテーマを見せるために、あえてCピラー上端とルーフサイドを区切るラインを残してもいる。エクステリアデザインにおける「人とクルマのインターフェイス」がそこにあるのだ。
そう気付いて再び運転席に戻れば、このクルマの最大の売りであるタッチパネルオーディオが、より意義深く思えてくる。操作感はiPod/iPhone風で、この種のインターフェイスが今後クルマでも増えていくだろう。でも、どんなクルマにもこれが似合うわけじゃない。
エクステリアデザインで、あるいは室内から見る景色で、どれだけ「人とクルマのインターフェイス」を実現できているか? 新型MRワゴンにはそれがあり、その延長上にタッチパネルオーディオがあるということを忘れてはいけないと思う。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★★★
千葉匠|デザインジャーナリスト/AJAJ理事
デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。