グローバル化を進める日本企業に立ちはだかる“言葉の壁”
長引く不況、中国やインドなど新興市場の拡大、あるいはEVの市販開始といった脱化石燃料の動向。さまざまな要因によって、自動車業界の再編やビジネスモデルの再構築が叫ばれている。国内需要が冷え込む中、企業としては必然的に海外市場への展開(=グローバルな市場開拓)が急務となっている。
そのグローバル戦略において、「言語の壁」というものは日本企業にとっていまだに無視できないハードルとなっている。管理職だけでなく現場レベルでも英語によるコミュニケーション(商談)や表現スキルが要求される昨今だが、企業にとって社員の英語力向上の重要性は増している。
自動車用ヘッドライトやミラーの製造メーカーとして100年以上の歴史をもつ市光工業も、グローバル化の流れに対応して戦略的に英語教育に取り組んでいる企業のひとつだ。同社は、2000年からフランスValeoグループと業務提携を通じたグローバル戦略を構築している。2008年にはValeoグループが日産から同社の株式を買い取り、2010年には代表取締役社長にValeo Japanからアリ・オードバディ氏が就任。一部の役員、マネージャなども国際化が進み、通常業務の中でも英語力が要求される企業環境にある。
◆エンジニアのスキルアップを促す育成プラン
市光工業独自の取り組みとはどのようなものだろうか。社長が外国人に変わったことによって人材教育や人事のポリシーなどに変化はあったのだろうか。市光工業 人事総務部 PDP課 課長 金澤均氏は、「社長が代わったことで企業理念など基本的なものが変わったということはありません」として、次のように説明する。
「ものづくりが基本となるメーカーですので、成長に欠かせない技術革新ができる人材を作ることは非常に重要であると思っています。当社の具体的な社員教育ポリシーは、先進技術を開発するためにTDP(Technical Development Plan)、EDP(Engineering Development Plan)、SDP(Supplier Development Plan)、CDP(Customer Development Plan)そしてPDP(Personnel Development Plan)という3つのポイントで物事をとらえ人材を育てることです。TDPは製品技術の開発、EDPは生産技術の開発、そしてPDPは個人の能力開発のことです。課の名称にもなっているPDPは総花的に個性を伸ばすということではなく、個人ごとに3年後の自身はどうあるべきか、などの課題を設定した上で、スキルアッププランを支援します。」
しかし、従来の教育体系も見直しが進んで射る。以前はエンジニアに対する教育プランが画一的で必要のない知識や無駄な時間を使っているのでは、という指摘もあった。そのような反省のもとに、個人ごとに最適なプログラムを適切なタイミングで提供するようにと、戦術の変更が行われた。また、英語教育についても漠然とTOEICを受ける、という目標項目はあったものの、現在はTOEIC600点を最低目標ラインとするなどの指標の立て方にも変化があったという。エンジニアにとっても英語力の強化は必要とされるスキルのひとつになっているのだ。
◆英語を使わせる“雰囲気作り”を重視
英語教育の具体的な取り組みは同 PDP課 伊藤恭子氏が、次のように説明する。
「まず、エンジニアや一般の社員には、英語講師を読んだレッスンを週2回ほど実施しています。このレッスンはほぼ1日を使いますが、社員は週2回のレッスンに各自の都合やスケジュールで参加しています。課長以上には、英会話学習ソフトを使って独自に学習できるような環境を整えています。このソフトはオンラインサービスを利用するもので、自分のPCにヘッドセットをつけて行います。課長職以上の8割が受けています。さらに管理職向けにマンツーマンのプライベートレッスンも実施しています。」
そして、「社内の英語教育プログラムは、雰囲気づくりを重視しています。押しつけや義務感だけではモチベーションの問題もありますので、例えば「イングリッシュテーブル」といって、休憩時間など英語で話すエリアを設けて気軽に会話を楽しんでもらうような工夫も計画しています。イングリッシュテーブルには、社長も参加していただきます。エンジニアからはテクニカルな会話も勉強したいといったリクエストもでてきています。(伊藤氏)」と、社内教育のポイントや工夫した点を披露してくれた。
英語教育については、やはりValeoグループの一員として必須のスキルとなったことが大きいようだ。この点については、「現在は、Valeoグループの教育体系に組み入れられ、エンジニアや営業、一般職だけでなく管理職、経営陣も英語は必須です。評価もグローバルなグループ企業のひとつとして行われますし、テレビ電話を含む会議や報告書も英語で行うようにシフトさせています。この取り組みは始まってまだ1年くらいなので、すべてが英語というわけではありませんが、英語の使用頻度はますます高まって行くはずです。(金澤氏)」と、その背景説明からもうかがえる。
◆グループの一員として成長のフレームワークを構築
「Valeoグループの面白いところは、世界中のグループ企業の代表がStearing Commitiee(委員会)を組織し、それぞれの課題を話し合ったり、技術情報の交換・共有を行う仕組みがあることです。もちろんグループ間での人材交流もあります。」
金澤氏は、世界の人材と交流できる機会を得られるようになったことで、社員のスキルアップをより促してくれることに期待する。
「われわれとしては、Valeoグループの一員として成長するフレームワークを得たことにもなり、社員にとっても自分のスキルを拡大するチャンスとしてとらえてほしいと思っています。」と、組織全体への英語スキルの浸透を望む声でまとめてくれた。