ホンダは12月5日、ジャーナリスト向けミーティングを行い、次世代技術群を公開した。今後3年以内に、市販モデルのほぼすべてのエンジンを次世代型に切り替えるという。なかでも注目度が高かったのは、現状の2.2リットルからダウンサイジングされた1.6リットル直4ターボディーゼルだ。
現行品と同様、軽量なアルミダイキャスト製ブロックを使いながら、スケールダウン効果で重量を50kg削減。またフリクションロスをガソリンエンジン並みに減らすなど、エネルギー効率を大幅に高めたという。1号機のスペックは最高出力88kW(120ps)、最大トルク300Nm(30.6kgm)と普及グレード向けだが、将来は高出力版など複数のチューニングを用意するという。
圧縮比は16.0:1と、マツダが発表している「スカイアクティブD」の14.0:1や三菱自動車の可変圧縮ディーゼルの13.4~16.4:1と比べて新味が薄い半面、ボッシュ製コモンレール直噴システムの蓄圧は180MPaと高い。またピストンスカートをガソリンエンジン並みに短くし、低張力ピストンリングなども採用するなど、丁寧な設計の痕跡が随所に見受けられた。
「このエンジンを搭載することで、欧州新型『シビック』のCO2排出量は1kmあたり100gを切ることができる見通しです。排出ガスもユーロ6対応予定で、日本の新長期規制もクリアできると思います」(開発を担当した本田技術研究所関係者)
シビックは欧州においてはフォルクスワーゲン『ゴルフ』などと同格のCセグメントモデル。CO2排出量100g/km切りを果たせるとすれば、目下のトップランナーである「ゴルフ1.6TDIブルーモーションテクノロジー」(105ps)をしのぐことになる。
このエンジンを搭載した現行『アコード』でツインリンクもてぎのオーバルコースを走ってみたが、印象的だったのは発進時や低中速域での加速力のよさ。ターボ過給のインターセプトポイントが低く、ブーストの立ち上がりも素早いため、2.2リットルと比べても排気量減のハンディは感じられなかった。
ホンダの技術陣が主張するフリクションロスの少なさも容易に体感できる。通常のディーゼル乗用車は回転が苦しくなってくるあたりが全開加速のシフトアップタイミングであることが多いが、このエンジンはフリクション感が非常に小さいため、フィーリングに頼っているとすぐにレブリミットに達してしまうほどだった。
半面、最高出力は120psにすぎないため、アコードクラスのボディを超高速からさらに加速させるにはやや力不足。試乗コースは直線距離が限られていたこともあって、到達速度は170km/h強にとどまった。Dセグメントセダンに載せた場合の最高速度は200km/h前後だろう。とはいえ排気量1リットルあたりの比出力75psはスポーツディーゼルを除けばかなり高いほうで、燃費のみならず動力性能でも同クラスの欧州製エンジンと比べても競争力はありそうだ。
ホンダは06年に、水素吸蔵還元触媒を装備したクリーンディーゼルを日米欧で出すと大々的に発表しながら実際には発売しなかったという前歴がある。今回の新開発ディーゼルはすでに市場投入のスケジュールも確定しているとのことだが、当面は欧州モデルを中心に展開するという。燃費競争が激化している日本市場にも投入して名誉を挽回してみるのも悪くないと思われた。