【オートモーティブワールド12】VW ルドルフ・クレブス副社長「エネルギーを工夫して使えばモビリティはサスティナブル」

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フォルクスワーゲン ルドルフ・クレブス副社長の基調講演のようす(オートモーティブワールド12)
フォルクスワーゲン ルドルフ・クレブス副社長の基調講演のようす(オートモーティブワールド12) 全 6 枚 拡大写真

「地球温暖化や石油資源枯渇のリスクが高まっている今、低炭素化はクルマにとって非常に重要な課題です。しかし、2050年時点の全球温度を現在比でプラス2度以内に抑えるためには、CO2排出量を90%削減しなければならない。これはクルマが燃料1リットルで100km以上を走れなければならないことを意味しており、達成はとても困難です。飛躍的な低炭素化の実現のカギとなるのが、エレクトリフィケーション(電動化)なのです」。

1月18日から3日間にわたって開催されたカーエレクトロニクスを主体とした自動車技術展、オートモーティブワールド2012。初日の基調講演で、フォルクスワーゲンAG(VW)の副社長で同社のeモビリティ戦略を担当するルドルフ・クレブス博士はこう切り出した。

◆EV、課題の多くはバッテリー技術に起因

脱石油・低炭素化は安全と並び、世界の自動車メーカーにとって、技術開発上の最重要テーマとなっている。電気自動車(EV)や水素燃料電池車が脚光を浴びているのは、その脱石油を果たす上で必要不可欠のテクノロジーだからだ。

石油はクルマへの積み込みが簡単でかつエネルギー密度が高く、価格も安い燃料であったことから、長年クルマを走らせる不動の主役であった。その石油以外の一次エネルギーを見回すと、ガス、バイオマスなど液体や気体の形で内燃機関に使えるものはまだいいとして、原子力、太陽光、風力、水力など、クルマを直接走らせるのにはおよそ不向きなもののほうが多い。が、それらのエネルギーを二次エネルギーである電力や水素に変換すれば、発電のおおもとが何であろうと、均質なエネルギーとして利用可能となる。電動化技術で世界のトップランナー獲りを狙うことは、VWの将来戦略のなかでもきわめて重要なテーマとなっている。

現状ではEVは価格や性能、充電インフラ整備など、多くの問題を抱えており、話題には事欠かないが一般ユーザーへの普及への道筋はまだ見えていない。

「EVの現実を見ると、まだエンジン車に取って代わるだけのものにはなっていない。今後10年における課題としてハードルが高いのは高コストの解消ですが、問題は他にもある。たとえば高速道路を時速130kmで巡航した場合、EVの航続距離は公称値の半分以下になってしまう。バッテリーの性能アップ、車両各部のエネルギーロス削減などをやっていかなければならない。運転の楽しさも顧客向け商品としては絶対に欠かせない。さらに10年使った後もクルマとして十分に機能するだけの耐久性も必須です。それらの問題の大半は、バッテリー技術に起因している」。(クレブス氏)

◆用途によってEVを使い分ける

そのEVを普及に導くための良いソリューションを考案することは、自動車メーカーにとってクルマそのものの開発と同等以上に重要なテーマとなっている。VWが提唱しているのは、EVに無理をして今のクルマのような汎用性を持たせようとせず、用途に応じたフレキシブルな商品ラインナップを作ることだ。

「エンジン車に置き換え可能なEVということを考えた場合、コスト、技術の両面でベストな選択はプラグインハイブリッド(PHEV)だと思う。PHEVはバッテリーを純EVほど多く乗せる必要がなく、価格も少し安い。いざとなればバッテリー残量を気にせずエンジンを使って長距離を走行することもできる。一方、都市内では郊外とニーズが異なる。利便性の点で非常に有用なのは二輪EV。また、航続距離50km程度のコミューターも大きな存在意義を持つ。用途に応じて適切なクルマを作ることが重要だ」。(クレブス氏)

VWグループは純EVとしてVWやセアトブランドで「ブルーeモーション」シリーズ、アウディブランドで「eトロン」シリーズなどを、またPHEVやレンジエクステンダーEV(E-REV:航続距離延長型EV)では、VWから『ゴルフ ツインドライブコンセプト』、アウディから『A1 eトロン』などを登場させ、フリートテストも開始している。EVの航続距離の制約やコスト高をユーザーがどれだけ許容できるかによって、いろいろな特性のEVを選択可能にしようという発想だ。が、それはEVの技術が未成熟である段階での対症療法でもある。

◆Well-to-Wheelに着目

「電動化技術、バッテリー技術はまだまだこれからレベルを大幅に上げていかなければならない。そのため我々はカッセル、ブラウンシュヴァイクの2拠点で研究開発を強力に推進している。すでにわれわれは乗用車、SUVなどすべての車種にハイブリッドカー(HEV)を展開しているが、さらに高性能化、コスト削減を追求する。今後の方向性としては、マーケットに適応するクルマを効率よく作るため、モジュールの種類は多く、コンポーネントの種類は少なくという方向を目指すことになるだろう」。(クレブス氏)

一方でクレブス氏は、EVの低炭素化のためには電力の素性も見なければならないという点にも言及した。VWのクリーンディーゼル車『ゴルフTDIブルーモーション』はWell-to-Wheel(燃料製造時点から消費までをすべて計算した値)のCO2排出量が1kmあたり111gである。EVは走行段階ではゼロ・エミッションだが、欧州モードで100kmあたり18kWhを消費する『ゴルフブルーeモーション』を走らせた場合のVWの試算によれば、石炭火力由来の電力だと196g、石油火力で167gものCO2が出てしまうという。天然ガスコンバインドでようやく113gだ。

「しかし、原子力だと7g、再生可能エネルギーだと実に1gですみます。欧州の電力のエネルギーミックスだと2008年時点で88gで、20年では61gを目指している。一方、中国は08年段階では184g、20年でも140gにとどまると予想されます。EVはクリーンエネルギー、とくに再生可能エネルギーを使って初めて意味のあるものになると言えます。その推進のためにも自動車業界はエネルギー生産者、政治家、投資家などと協力しあうことが強く求められると考えています」。(クレブス氏)

◆エネルギーを工夫して使えばモビリティはサスティナブル

VWの本拠地であるEUは、再生可能エネルギーを最重視する政策を取っている。そのためか、将来ビジョンは再生可能エネルギーの技術革新速度をやや甘めに見ているきらいもなくはなかったが、エネルギー変換技術を飛躍させる発見や耐久性を上げる工業技術の革新が積み重なっていけば、今は非常に使いにくいエネルギーである再生可能エネルギーも、いずれ主役級になるときが来る。欧州は夢想的にすぎ、日本は現実的にすぎるというアンバランスを両者の協力で解消しあうというのも面白いのではないかと感じられた。

「人類のエネルギーについて、私たちは実は楽観的です。世界の砂漠に降り注ぐ太陽光たった6時間分が、人類が1年間に消費するエネルギーの総量に匹敵する。エネルギー自体はすでに豊富に存在しているんです。それをどうやって使うかだけが問題なのです。私は今後何千年にもわたって、モビリティはサスティナブルであり続けると確信しています」。

クレブス氏は講演をこう締めた。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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