【池原照雄の単眼複眼】プラットフォームを進化させるトヨタ流開発改革

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◆「もっといいクルマづくり」の屋台骨に

トヨタ自動車の新たな車両開発手法である「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ」(TNGA)の概要が公表された。豊田章男社長が就任以来の3年間、一貫して社内に訴えてきた「もっといいクルマづくり」を支える骨格となる。こうした車両開発の改革は、内外の自動車各社が推進しており、その成否は2010年代半ば以降の競争力を決定づけることになる。

TNGAは「商品力向上と原価低減を同時に高いレベルで実現するための新しい仕組み」(開発部門担当の内山田竹志副社長)であり、狙いは他社が取り組む新たな開発手法と一致する。世界の自動車メーカーにこうした開発改革を迫るのは、新車需要の半数を占めるようになった新興諸国市場の台頭だ。これらの地域では、多様なモデルを競争力ある価格で迅速に提供するクルマづくりが一段と重要になっている。

ただ、各社の改革の進め方は、微妙に異なる。そのひとつが、1980年代後半から導入され、開発工数の削減や部品共通化の推進などを担った「プラットフォーム」(車台)の考え方だ。独VW(フォルクスワーゲン)や日産自動車は、車両の部位を一定のかたまりである「モジュール」として捉え、飛躍的な部品の共通化を推進する。


◆「モジュール方式」とは一線を画す

日産の新開発手法である「CMF」(コモン・モジュール・ファミリー)の場合、車両全体を5つのモジュールとし、車の大きさやセダン、SUVといった車型に応じ、縦横に組み合わせていく。従来のプラットフォーム部分は、「フロント・アンダーボディ」と「センター・リヤ・アンダーボディ」という2つのモジュールに分解されており、いわば「脱プラットフォーム」のアーキテクチャ(設計思想)ともいえる。

これに対してTNGAでは、進化型のプラットフォームを開発している。「車台」という考え方自体は残し、「モジュール方式」とは一線を画す。両社の選択の違いは、抱える車種や生産規模に起因するといえよう。トヨタは進化させる点として、「デザイン自由度」の向上や、予め当該プラットフォームに最適なドライビングポジションを検討するといった「人間工学の反映」などを挙げている。

TNGAの推進に合わせ、トヨタは目下、FF車用に3つの新プラットフォームを開発中だ。すべての開発が完了するには2年程度を要するが、完成の暁には、これらのプラットフォームで総生産台数の約5割をカバーするというから、大幅な部品の共通化も可能となる。


◆デザイン強化に種々の制約を排除

一方で、複数車種の企画・開発を同時に行う「グルーピング開発」という手法も導入し、プラットフォームの共用化を効果的に進める。内山田副社長は、3つのうちのあるプラットフォームでは「6車種の共用化」を図ると明かしており、グルーピング開発のひとつのくくりは、この程度となる。こうした発想は、マツダが取り組んでいる「モノ造り革新」における「一括企画」と似ている。

世界販売がトヨタの7分の1の規模のマツダでは車種を「グルーピング」することなく、「全社一括」で企画し、大胆な部品の共通化などにつなげていく。また、同社の一括企画では「5~10年スパンで必要な商品や技術を企画」(金澤啓隆専務執行役員)するが、トヨタのTNGAにおける新プラットフォームのライフサイクルも「10年程度」(内山田副社長)としており、この点でも考え方はほぼ一致する。

トヨタはTNGAの推進と表裏一体で、デザイン力のテコ入れも図る。前述のように新プラットフォームは、デザインの自由度が高いものに改める。「“いいクルマ”の条件は、何といってもカッコいいこと。設計や生産技術からくるデザインへの制約も極力排除するよう努めたい」(内山田副社長)という。

モノづくりの世界スタンダードとして生産方式ばかりが注目されてきたトヨタだが、TNGAはデザインを含む開発プロセスでも頂点をめざす自己改革となる。

《池原照雄》

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