【池原照雄の単眼複眼】最小限のコストアップで燃費向上…エネ回生機構が面白い

エコカー 燃費
日産 セレナ S-HYBRID
日産 セレナ S-HYBRID 全 12 枚 拡大写真

「補助原動機」付きのセレナS-HYBRID

ガソリン車で、減速時のエネルギーを回生して燃費を改善する技術導入が活発だ。日産自動車が8月初めに『セレナ』にS-HYBRID(スマートシンプル・ハイブリッド)を採用したのに続き、9月にはスズキが主力軽自動車『ワゴンR』に、リチウムイオン電池を使った回生エネルギーシステムなどを搭載して発売する。安いコストでクラストップの燃費を競うアプローチは多彩で、クルマを面白くさせてくれる。

セレナのS-HYBRIDは、エネルギー回生のための発電に使うモーターの出力を高め、かつこのモーターを、ごくわずかだがクルマの駆動にも使うようにした。この際、モーターは「補助原動機」になるので、国の規定ではハイブリッド車(HV)に分類された。回生エネルギーを十分貯め込むために、2個目のバッテリーとして鉛蓄電池を追加している。

すべてエンジンルーム内に収まるシステムとし、ミニバンには重要な室内空間やシートアレンジを犠牲にすることはない。2リットル級の3列シートミニバンではトップとなる15.2km/リットルを実現しており、現状では唯一、このクラスでエコカー減税の免税措置が受けられるモデルとなった。

かつてクラウンに採用されたことも

このハイブリッドシステムは、トヨタ自動車が2001年から08年にかけて『クラウン』に採用していた「マイルドハイブリッド」と基本は同じだ。クラウンでは、アイドリングストップ装置の作動時間を長くして燃費をかせぐ狙いから、貯めた電気を主としてエアコンに使うようにした。

信号待ちなどの際に、エアコンのためにエンジンがかかってしまうのを回避するのだ。また、エネルギー回生用のモーターは、アイドリングストップが解除される際に、セレナのシステム同様、瞬間的な動力源として使われた。ちなみにセレナの場合、20分間で8km余りを走行する「JC08」モードの審査の際、「発進時に4回ほど駆動をアシストする」(開発担当者)という。

一方、9月6日に発売予定の新型ワゴンRは、進化させたアイドリングストップ装置に高効率の回生機構と蓄冷材付きのエアコンを組み合わせた。アイドリングストップ装置は、同社の最新技術では車速9km/hでエンジンを停止させていたのを13km/hとして、同装置の作動時間を長くしている。

発電機の作動抑制で軽快な走りに

回生機構は、既存の鉛バッテリーに加え、容量が3.1Ahの小型リチウムイオン電池を搭載、同時に発電機も出力を約2倍に拡大した。減速時に電気をより多く貯めることで通常走行時に発電機が作動する時間を少なくし、省燃費につなげている。発電機が休んでいる間は、エンジンの駆動力が邪魔されないため、「より軽快な走りができるようになった」(本田治副社長)とも指摘する。

エネルギー回生の基本的な仕組みは、日産のS-HYBRIDと同じだが、ワゴンRの場合は、蓄えた電気を走行の動力源には使わない。もっぱら、各種のランプやエアコン、メーターなど電装品に振り向け、発電機の作動を極力抑制するようにしている。

ユニークなのは、蓄冷材として約100グラムの「パラフィン」をエアコンの冷媒が通るパイプの間に装着したことだ。エアコン作動中に、パラフィンを凍らせておき、アイドリングストップ時に冷風を送る仕組み。アイドリングストップ中、エアコンのためにエンジンがかかってしまうのをできるだけ回避しようという狙いは、クラウンのマイルドハイブリッドと同じだ。

冷風の供給可能時間は最長で約1分。街頭での調査や文献から信号停止の範囲を想定し、ほとんどエンジン起動を回避できる1分を開発目標にしたという。新型ワゴンRの燃費は、現行モデルより22%向上し、ハイトワゴンの軽自動車ではトップの28.8km/リットルとなる。「世の中に普及できるコストでできた」(本田副社長)という新モデルの価格設定も注目される。

《池原照雄》

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