【インタビュー】私のデザイン哲学は「シンプル」にある…VWグループデザイン責任者ワルター・デ・シルヴァ

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フォルクスワーゲングループデザイン責任者 ワルター・デ・シルヴァ氏
フォルクスワーゲングループデザイン責任者 ワルター・デ・シルヴァ氏 全 11 枚 拡大写真

VW『up!』の日本発表に際し、ドイツからVW AGグループのデザイン責任者であるワルター・デ・シルヴァ氏が来日。報道陣のグループインタビューに応じた。

スケッチこそがデザイナー達の共通言語

----:なぜカーデザイナーになったのですか。

ワルター・デ・シルヴァ氏(以下デ・シルヴァ):5歳か6歳くらいからクルマの絵を描き始めていました。父は私を建築家にしたいと思っていましたが、それに反抗してカーデザイナーになったのです。もう父はいませんが、今の私を見てくれればカーデザイナーになって良かったねと言ってくれると思います。

----:デザイナーという職業について伺います。例えばジオポンティであれば、自動車も建築もカッシーナの椅子もデザインしましたが、今はデザイナーの仕事が専門化しているような気がします。その理由はなぜでしょうか。

デ・シルヴァ:当然だと思います。コルビュジエやミース・ファン・デル・ローエ、そしてジオポンティは色々なものを創りました。その当時はまだプロダクトデザインや、建築についても職人的要素が非常に強い時代で、あるひとりのデザイナーが建築もしながら家具もデザインする、プロダクトデザインにも手を染めるといったことがとても簡単だったのです。

しかし、現代では生産そのものが複雑になり、大量生産の方法も非常にソフィスティケイトされたものになってきました。そして、ソフトウェアやハードウェアなど、関わってくるものが複雑になってきたことから、専門化しないとやっていけなくなったのです。従って、今ではカーデザインをやりながらプロダクトデザインもやる人はまれになりました。もう、以前のように何でもやるデザイナーが出てくる時代には戻らないと思います。

ただ、私の例もそうですが、あるデザイナーが、人生のある時点で、違うデザインのものにシフトするということはあり得るでしょう。ただ、シフトしたことで、同じ様に良い成果が出るかどうかはわからないですが、それは考えられると思います。
私個人の話をすると、ライカのためにカメラのデザインをしています。非常に小さな世界、非常に複雑な世界を技術者と相談しながらデザインするのは、私にとっては非常に貴重な体験で、成果も良かったのです。自分のクリエイティブなものを豊かにしていくという意味では、とても有効なことだとは思いますが、先程のような要求が出て、ひとりのデザイナーが沢山のことをやろうとするとクオリティを損なう危険性が非常にあると私は思うのです。

----:今の立場では絵を描く立場ではなく、描いた絵を見る立場だと思いますが、たまには自分が率先して絵を描きたくなることはないのでしょうか。

デ・シルヴァ:実は私は今でも毎日スケッチをしているのですよ(笑)。スケッチが私の言語なのです。というのも私のデザインチームには20か国から来た、20の異なる言語を話す人たちがいます。そうするとスケッチが共通言語になるのです。このことは本当にうれしくなることです。なぜなら、私はデザイナーでありながら、マネージャーでもあるのだと自分自身で確認することが出来るからです。

もちろん、私の役割は非常にデリケートなもので、普段は様々なデザインセンターの責任者たちのサポートをしながらも、最終的には会社の中枢部とどのデザインを選ぶかという決定をしなければいけません。その決定によって、その製品が市場で成功するかしないかがかかってくるのでとても難しいのです。従って、重責のある役割だと思っています。

しかし、もし私がスケッチすることを忘れずに、デザインにおけるプロフェッショナルであり続け、デザインを良く知っていれば、その選択において間違う確率は少なくなるのではないかと思っています。

◆グローバルスモール「up!」で目指したもの

----:up!はヨーロッパだけではなくワールドワイドに投入するとのことですが、VWに限らず、例えば南米という大きなマーケットには、その土地の要求に合わせた専用設計車種を投入するのが、ヨーロッパメーカーでは普通です。このup!は例えば、南米などでも通用するものとしてデザインや機械設計をしているのですか。

デ・シルヴァ:新しいプラットフォームを作った時点から、ヨーロッパに限らず世界中で販売を想定したクルマです。まず2ドアと4ドアをヨーロッパで発表し、その後、電気自動車を投入することが発表されています。ヨーロッパの次にup!を紹介したのは日本です。この後、まだ様々なプロジェクトが待っていますし、これから様々な国に出していきます。

今の南米の件では、ブラジルには出すつもりです。ブラジルには、その土地のニーズに合わせて若干の調整を加えたものを出しますが、その点は踏まえたうえで最初から作り込んでいます。

----:up!のデザインはプロダクトデザイン的アプローチをしたということですが、例えば、30代くらい男性たちは、クルマにも興味はあるが、アートや建築、そして、(例えばiPhoneなどの)プロダクトデザインにも興味のある人たちが多いようです。そういったプロダクトとup!を比較した時に、デザインの面から見て、up!が訴えるところはどこでしょう。

デ・シルヴァ:こういう形で今の質問に答えたいのですが、up!はまずスモールカーであり、また、非常にアクチュアルな現代的なクルマでもあります。そして、我々が日常生活の中で関わっているプロダクトと並ぶものでもあります。

そして、例えばiPhoneのようなテクノロジー素材だけではなく、家具やランプなどを全部含めて、シンプルであるけれども、機能的であるというものを求める人たちが増えていると思うのです。そこで、そういったものを求める世代(前述の世代だと思うが)に対して、我々は働きかけていっています。このことはVWの狙いのひとつでもあり、今度のゴルフ7にも反映されています。その新しい世代たちは、余計な装飾ではなく、機能に合わせたシンプルなものを求めているのではないかと我々は考えているからです。

----:up!もゴルフ7も非常にシンプルなデザインの方向性を持っています。それは、デ・シルヴァさんの内側から出てくるものなのですか、それとも、VWブランドにそれがふさわしいと思って出ているものなのでしょうか。はたまた、時代のトレンドとしてそれを捉えているのですか。

デ・シルヴァ:3つともそうです。まずはデ・シルヴァでもあります。これは私のフィロソフィーでもあるのです。私はグッドプロポーションというのを求めてきましたし、あまり複雑でないラインを好んできました。このことは、私が過去にデザインしてきた、アルファやセアト、アウディを見てもらえればわかってもらえると思います。従って、私のこういったアプローチ、私の感覚を伝えたいということがまずひとつあります。

もちろんこのシンプルさは、VWのDNAの中にも入っています。また、機能性や実用性といったものをどうやってデザインに翻訳していくかを考えると、やはりシンプルさというキーワードが出てくるのです。

そして、時代の要請ということもあります。デザイン責任者の役目としては、やはりユーザーが何を求めているがということに注意を払うことがあります。ただし、いわゆるマーケティングとデザインとのバランスは非常に微妙で、あまりユーザーの意見を聞きすぎると、出た時には古いものになってしまうのです。ユーザーの話を聞くというより、ユーザーの要求を先取りする。それがデザイナーとしては重要だと思っています。

----:シンプルなデザインをしつつも、見た目の差別化をするにはどうするのでしょう。

デ・シルヴァ:このシンプルさについて、私は見た目よりも中身という哲学です。ただ、現実においては、中身よりも見た目が凄く強調されてしまう。これからもっと見た目よりも中身ということに注目をしてくれるようになって欲しいと思い、そういったメッセージも含めてシンプルなデザインにしています。シンプルなものをデザインするというのは私の哲学でもあるのですから。

◆新プラットフォーム群とデザインの関係性

----:MQBとデザインの関係はどのようなものですか。

デ・シルヴァ:MQBというプラットフォームを共通して使っていくので、デザインは非常に重要になって来ると思います。MQBは横置きエンジンのプラットフォームですが、これによりモジュール化を進めることが出来るのです。このモジュール化によって、様々なアーキテクチャも実は作り上げることが可能で、しかもスケール効果を使って、今までだとコストが高すぎて出来なかったものを、実現することが出来るようになります。その中でデザインの役割は非常に大きなものになると思うのです。

----:そのアーキテクチャが可能になるということは、デザインに自由度が無くなるということですか。

デ・シルヴァ:今回のこのMQBのプラットフォームの活用に関して、私は非常にポジティブなものだと考えています。このアーキテクチャの自由度というのは、同じプラットフォームを使って、セダン、SUV、スポーツカーなど、様々なアーキテクチャが可能だからです。そういう意味で非常にフレキシビリティです。デザインのニーズにも、技術的なニーズにも、あるいはパッケージングのニーズにも十分に耐えられるプラットフォームなのです。VWのプラットフォームに関しては、このMQBがエンジン横置きで、縦置きはMRBというものを使う。これはアウディが多く使っており、様々なバリエーションを市場に送り出しています。

----:モジュール化が進む中でデザインの役割が強まるということですが、では、MQBの導入に伴って、どのようにデザイングループの競争力強化が図られたのでしょうか。

デ・シルヴァ:デザインについてのVWグループの現在の状況については、当然ながらMQBといったモジュール化が進む中で、再組織化があります。現在、私はVWグループのデザインを統括していますが、最近イタルデザインのジウジアーロも我々の中に入りました。その結果として現在総勢2000人を抱えることとなりました。

そして、現在12のデザインセンターがあり、そのほかに、4つの本部があり、これが各ブランド間のデザインのシナジー、あるいは統合をしています。そのほかに、中国とブラジルには、ローカルなニーズに応えるためのデザインセンターを置いています。ということで、私たちは働いている人も多く、非常に広範囲にわたる力を持って活動しているのです。最近はドゥカティもグループに加わったので、オートバイに関しても我々はデザインセンターを持つことにもなったのです。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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