【中田徹の沸騰アジア】モータリゼーション前夜のインドネシア、1億ルピア以下の小型車競争始まる

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インドネシア自動車販売台数。注)2012年は筆者予測。2015年、2020年、2025年の各予測はインドネシア政府による。
インドネシア自動車販売台数。注)2012年は筆者予測。2015年、2020年、2025年の各予測はインドネシア政府による。 全 12 枚 拡大写真

インドネシアはモータリゼーションの夜明け前、それも直前だ。

トヨタとダイハツが2012年9月19日に『アギア』『アイラ』を発表し、翌日始まったインドネシア国際モーターショー(インドネシアモーターショー12)に出展した。アギアとアイラは、インドネシア政府が導入を検討している「ローコストグリーンカー(LCGC)政策」に向けた新規開発モデルで、最低価格は7500万ルピア(62万円)程度になると予測される。1億ルピアを下回る低コスト車投入により、ASEAN最大市場を巡る新たな販売競争の火蓋が切らた。

ASEAN最大市場への胎動

その人口規模を背景に常に成長を期待されながらも、幾度も浮沈を繰り返してきたインドネシア市場。しかし最近では、その活況ぶりに世界の注目が集まっている。経済成長を背景に消費マインドは旺盛で、2011年の自動車販売台数は過去最高の89.4万台に拡大。インドネシア政府が2012年6月に自動車ローンの頭金規制を強化した影響で需要減速が懸念されているが、2012年通年では90万台を超える可能性が高い。早ければ今年あるいは来年にも100万台達成は確実だ。

インドネシア自動車市場の成長潜在性はASEANのなかで突出している。人口は2億4400万人で、タイ6500万人、マレーシア2900万人、フィリピン9700万人、ベトナム9000万人、ミャンマー6400万人と比較して圧倒的に多い。一方、自動車普及率は1000人当たり85台程度で、タイ約200台、マレーシア約400台と比較してまだまだ少ない。また、一般的に1人当たりのGDP(国内総生産)が3000ドルに達するとモータリゼーション(自動車社会化)が始まると言われるが、インドネシアでは2010年に2980ドルとなり、2011年に3511ドルに拡大した。モータリゼーションが始まる条件が整っている。

ASEAN最大の自動車市場のポジションを競っているのがタイとインドネシアだ。今年のタイ市場は120万台超に拡大する可能性があり、一足先に100万台の大台を突破する。しかし今後数年でこの順位が入れ替わる可能性が濃厚だ。これまでなかなか芽が出ずにいたインドネシアだが、2020年までにASEANトップに踊り出て、その後は独走すると予測される。

LCGC政策とは

「自動車市場が2020年までに200万台、2025年までに320万台へ拡大する」と見ているインドネシア政府。「内包する潜在的成長力」を「競争力のある産業育成のための原動力」に置き換えたい現地政府は、自動車産業促進策の導入を目指しており、自動車各社もこれに追随する方向で動き出している。

インドネシア政府は2012年11月にもLCGCプロジェクトと呼ばれる自動車産業促進策を発表するとみられる。当初、2011年以前に優遇内容やスペックなどの条件の詳細が発表されるといわれてきたが、工業省、財務省、現地メーカーなどの調整が難航していることなどから、LCGC政策の正式発表は大幅に遅れている。

「インドネシア市場の今後の主役である中間層の手が届く価格」、「環境負荷の低い燃費性能(首都ジャカルタでは渋滞などによる環境問題が深刻)」といった課題に応えることが問われるLCGC政策。この政策は、タイの「Eco Carプロジェクト」を参考にしているとされ、一定の条件を満たす低価格で燃費の良い小型車を優遇する内容となる。燃費、排気量、国産化率(現調率)などに関わる条件が設定されるとの予測がある一方で、奢侈税(物品税)の減免等による優遇策が導入される見通しだ。

1億ルピア以下のクルマ

2012年9月、トヨタとダイハツはLCGCプロジェクトに向けて開発した新型車アギアとアイラを、インドネシアモーターショー12に合わせて発表した。トヨタ・アギアとダイハツ・アイラは、ダイハツが主体となって開発された小型車で、ダイハツ現地子会社の新工場(2012年12月稼働予定)で生産する計画。トヨタにはOEM供給される。現地報道によると、全長3.5m、排気量1.0リットルで、アギアの価格が8000万~1.1億ルピア程度(66万~90万円)、姉妹車のアイラは7500万ルピア(約62万円)~になると予測されている。

インドネシアの自動車価格で、「1億ルピア」というのは象徴的な数字だ。今からおよそ10年前の2003年12月、トヨタとダイハツは後にベストセラーとなる『アバンザ』、『セニア』を投入した。当時、乗用車に対する奢侈税が30~75%課せられていたこと、奢侈税が10%~と優遇されていた多目的車では2.0リットル以上が主流だったことの2点により1億ルピアを下回る乗用車はほとんどなかった。そうしたなか、アバンザ/セニアは6950万~9900万ルピアに設定された。そしてインパクトのある価格設定は、消費者を驚かせた。10年の年月とインフレを経て、アバンザとゼニアの最低価格は1億1812万ルピア~(2012年10月現在)にまで上昇しているが、最もコスト競争力のある乗用車トップモデルのポジションを維持している。

「コスト競争力の高いダイハツ」と「ブランド力の高いトヨタ」による協業の果実(インドネシアではアバンザ/セニア、『ラッシュ』/『テリオス』に続く3つ目の果実だ)。その最新車種の国産化率は84%で、一層の現地化によるコスト削減が図られている。既存車種より3~4割も安く設定されるアギアとアイラの参戦により、自動車購入層は広がり、需要が喚起される。そしてスズキや日産(ダットサンブランド)などもこれに続く計画だ。モータリゼーション前夜のインドネシア市場を巡る廉価車競争がいよいよ幕を開ける。

《中田徹》

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