【中田徹の沸騰アジア】日系自動車メーカーが今最も稼いでいる国はタイ!?

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タイ自動車生産・販売台数
タイ自動車生産・販売台数 全 6 枚 拡大写真

現在、日系自動車メーカーが最も利益を上げている国・地域はどこか?

メーカーごとにややばらつきはあるが、米国とASEANだろう。世界2位の規模を持つ米国自動車市場は前年比10%増ペースとなっており、車両小売単価が高いこの市場での需要回復が日系メーカーの利益を押し上げている。また、日本車シェアが80%のASEAN、とりわけタイとインドネシアではトヨタ、三菱自動車、いすゞ、日産、スズキ、ダイハツ、ホンダなどが自動車生産を過去最高レベルに伸ばしており、この地域での営業利益も高水準となっている。

トヨタ工場のなかで最も利益を上げているのはタイ拠点?

リーマンショック前、日系自動車メーカーにとっての最大の利益センターは米国だった。その後、欧米市場の低迷と中国市場の台頭を機に日系にとって最大の収益源は中国事業に移った、と考えられる。そして2012年9月、反日という名の嵐のなかで日系ブランドは中国販売を大幅に減らす状況となり、一部のメーカーは業績見通しを下方修正した。日系完成車メーカー合計では数千億円分の機会損失により多額の利益が吹き飛ぶことになりそうだ。中国での減益がどの程度にまで悪化するのか懸念が膨らむなか、2013年3月期における日系自動車メーカーの最大の収益源は北米とASEANとなる。

2013年3月期の営業利益見通しを1兆0500億円としているトヨタ。世界中に約30社の生産拠点を配置しているが、連結営業利益への貢献度を考えたとき、タイ子会社TMTが全拠点中トップクラスだと筆者は推測する(工場別業績は発表されていないため実績は不明)。2012年の自動車生産を88万台(前年比36万台増)と見込むTMTだが、フル稼働状態は2013年に入っても続くと予測され、収益への貢献度が一層高まっている。タイで稼いでいるのはトヨタだけではない。三菱自動車やいすゞなどについても、連結決算におけるタイ工場の貢献度は高まっている。

日系メーカーがASEAN市場で稼ぐことができる理由

ASEAN経済と自動車市場は通貨危機以降も政情不安などの種々の要因を受け、一進一退の状態を続けてきた。域内全体で6億の人口を持ち、1人当たりGDPは3500ドルを超えるところまで来ているが、自動車販売・生産規模は米国や中国の数分の1にとどまる。日本メーカーの世界自動車生産・販売はざっくり2000万~2500万台だが、ASEANでの生産・販売規模はその2割に満たない。このためASEAN事業の収益性に焦点が当てられることはこれまでほとんどなかった。しかし、ここにきて状況は一転した。

最近のASEAN市場の快調ぶりは目を見張るばかりだ。輸出拠点でもあるタイの自動車生産は前年比60%増ペースで拡大中。また、インドネシアでは30%増ペースとなっている。日系各社はフル稼働状態だ。そして最近出揃った日系各社の2012年4~9月期決算と2013年3月期見通しをみると、当然のごとくタイとインドネシアでの好調が目立っており、その勢いは中国での販売減少分をある程度カバーできるほどだ。

タイをはじめとするASEAN事業の収益性が高いとする理由はいくつかある。先述の規模拡大(増収効果)については言うまでもないが、モデルミックス(車種構成)、市場シェアの高さ、価格競争環境などもプラス要因として挙げられる。

ASEANでは、1トンピックアップトラックや小中型乗用車、多目的車が新車市場の大部分を占めており、(40万~70万円台の小型車の人気が高いインド等と比較した場合ということになるが)新車価格の水準はさほど低くない。また、タイ自動車産業は生産規模の半数弱を中近東やオーストラリア、ASEANなどに輸出しているが、輸出製品はダブルキャブと呼ばれる1トンピックアップが中心で、タイ国内で主流のシングルキャブタイプと比較して価格は高い。つまりモデルミックスに恵まれているのである。

日系が築いてきた優位な競争環境も収益面に貢献している。タイやインドネシアにおける販売車種は日系メーカーが現地市場に合わせて独自に育成してきたものが多く、結果的に欧米韓などの競合メーカーにとっては参入障壁となっている。このため日系ブランドが80~90%以上といった高い市場シェアを維持できており、インドのような壮絶な価格競争が比較的起こりにくい状態となっている。また1トンピックアップの世界市場への供給元はタイに一極集中しているのだが、このことから1トンピックアップをめぐる価格競争プレッシャーは比較的緩いとされる。

ASEANは日本の最重要パートナー

日本の自動車メーカーがASEANに進出し50年以上が経つ。ASEAN自動車産業は、完成車輸入に始まり、組立工場が配置され、世界中に輸出するようになり、さらに日本市場に小型乗用車を本格的に輸出するまでになった。日系メーカーの収益面でもASEAN事業の貢献度が高まっている。日本自動車産業のパートナーとして、ASEAN地域の重要性と存在感がかつてないほど大きくなっている。

《中田徹》

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